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第8話

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俺は不良が嫌いだ。

良からずと書いて不良というわけなので、やはり良いものではないのは確かである。

俺のような品行方正な純粋無垢な人間から見て、不良という学則に従わない、暴力に訴えて他人を害する輩を肯定することは出来ない。

これは至極当たり前のことである。

俺は不良が嫌いなのだ。

何故二度に渡り、そんなことを公言するのかと問われれば、答えは一つだ。

不良である同学年の唐沢 肇(からさわ はじめ)が俺の敬愛する神崎 小夜(かんざき さよ)さんにちょっかいを出しているからである。

神崎さんとは、俺が高橋の代打で図書委員の仕事をしているときに出会った。物腰の柔らかな人で、清廉潔白というスズランの花言葉をまさに体現したような女性だ。

俺は彼女と世間話から始めて、今では普通に学内の廊下ですれ違えば挨拶を交わす仲になった。

しかし、最近になって俺と彼女の図書館での貴重な時間を邪魔する輩が現れた。

俺は、唐沢が放課後の図書室で神崎さんと親しげに話している姿を目撃したのだ。

これが許されていいことか?否、許すまじ不良。

家庭に問題があるだとか、授業が面白くないだのほざいて学校に来ないことは別にどうでもいいのだ。

留年でもなんでもして、適当にその辺の野原でくたばればいい。

しかしながら、奴は放課後になると毎日のように図書室に現れては、黒髪清楚な乙女と談笑を始める。

ふざけるな!一貫性を持て!来ないなら来ないという信念のもと、生きろ。何を血迷ったことをしている?

不良は司書の教諭とも仲良さげに話している。

「神崎さんのおかげで唐沢君が学校に来てくれて嬉しいわ」

「は?別に気分で来てるだけだ。関係ねぇよ」

不良は即座に否定しつつも、顔は赤い。なんだお前?その反応は童貞か?

あと、不良が学校に来たことで嬉しがっているそこの教師。お前もちょっと不良が学校に来たくらいで褒めてるんじゃねぇよ。

普段悪いやつが良いことをすると株が上がるあの謎の現象。ギャップに萌えるとか下らないことを宣ってるんじゃない。

普段から素行の悪い奴よりも、普段から真面目な奴の方が良いのは自明の理だろうが?

生徒が学校に来るなんてのは当たり前のことだ。学生の本分は勉学だろう。

ぼんくら教師よ、アホな不良の更生を乙女に任せているなんてのは職務怠慢も同然だ痴れ者が。

と、不満を露わにしながらも今日も俺は彼らの談笑タイムをひそかに見守る。

あの不良に対抗すべき腕力も、怖い知り合いもいない俺は彼らに対し嫉妬の炎を燃やし、泣く泣く帰ることしか出来ないのだ。

帰り際に「あ、神崎さん」と声をかける。

「あ、佐々木くん。また高橋君に頼まれちゃったの?大変だね。いいよ。この時期だと人も少ないから明日は私一人で見ておくよ」と言われてしまう。

違います。下心からあなたと委員活動したいのです。

その反応から「もうお前来なくていいよ」と言われているようで悲しいので「まぁヒマだからいいよ」と適当に誤魔化す。

俺も童貞不良と変わらない返事をしている事実に、鬱屈した気持ちになる。

「お、佐々木。じゃあな」と唐沢も俺に声をかけてくる。何、顔を赤らめて声かけてきてんだクソボケが?

俺は何故か不良に気に入られ、奴は俺に挨拶をするようになった。うざいったらありゃしない。

こうして毎日、毎日敗北を喫する結果になり、とうとう俺は禁じ手を使ってしまう。

おら、食らえ!

俺は帰ると見せかけて、図書室の椅子に腰かける。

そして、憑依を行使する。

 

 

 

「あれ………佐々木君、席に座って、寝ちゃったね?帰ると思ったのに」

神崎は、机につっぷして寝ている俺の本体を見て、つまらなそうにつぶやく。
俺は少し悲しくなりながらも、作戦を実行する。

「そうだな?な?神崎。俺さぁマジで格好よくね?」

俺は片眉を上げて、神崎にウィンクするのだ。
唐突な自慢に彼女は眉を顰めて、素っ頓狂な声を上げる。

「へ?」

「だから俺ってさマジで格好良くね?ほら、この上腕二頭筋見てよ?ヤバ。かっくぃぃぃ!!痺れる!!」

俺は制服のシャツを捲り上げ、神崎さんの顔の前に腕を突き出し、筋肉を上下に動かす。

彼女は顔を赤らめながら、困ったような顔で俺の顔を見てくる。真意がわからないのだろう。

「はぁ。そうだね?」

とりあえず、ジャブはこの程度で良いだろう。

さぁさぁ。ここからお前の株を下げに下げまくって、図書室、いや学校にすらいられなくしてやるよ。

何も知らぬ、お前は目を覚ますと、浦島太郎状態であるだろうが、安心しろよ。俺は優しさの塊だから、ここを去っても町で会えば挨拶くらいしてやるさ。

 
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