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第5話 約束
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「最近、亮介が何度も冴子さん、冴子さんって呼ぶからつい私は本田冴子。悲しい。痛い。みたいなことを言ってしまったのよ。」
「はあ。そうなんですか。」
やはり、冴子さんは自分から本名を明かしたようだ。
今、学校で本田冴子の噂をよく耳にする。
それは怪談として、放課後のトイレや、廊下に出没する霊だと噂されているようだ。
「でも、冴子さん。本田冴子の呪いとかB級映画みたいな言われようだよ。それはどうなの?」
「まあ、別にいいんじゃない?最近、その噂のせいか霊力が高まってるのよ。本名を名乗った瞬間こんなに霊力が集まるとわね。今までの驚かし作戦はなんだったのかしら。」
冴子さんは調子がいいのか鼻歌を歌いながら、教室の窓から外を見る。
冴子さんが闇子さんと同一人物だとはだれにもばれておらず、旧校舎に人が来ることはない。今日も旧校舎は閑散としていた。
「そういえば、冴子さんのはとこに当たる子がこの学校にいたよ。」
その話をした瞬間、空気が凍り付いた。
彼女の顔から表情が消えたのだ。
彼女は僕に目を合わすことなく、返事をする。
「ええ。知ってるわ。谷 千歳(たに ちとせ)さんでしょ?それに、亮介が私のことを調べていることも。」
「そっか。ごめんね。勝手に調べて。聞けばよかったね。」
僕が謝った瞬間、冴子さんの姿が消えた。
と思えば、目の前に現れる。
鼻先に当たりそうな距離に冴子さんがいた。
彼女の目は見開かれており、僕の目を凝視する。
勝手に自分の素性を知られることに冴子さんは怒るかもしれないと想定はしていた。しかし、こんなに早く知られるとは思いもしなかったが…………。
僕は毅然とした態度で彼女に対応する。
「亮介、何がしたいの?私のことを根掘り葉掘り調べて。貴方、もしかして私を成仏させようとしているでしょ?」
「……………………僕は冴子さんが寂しくなくなればいいと思って。」
「私、一言でも寂しい。成仏したいといったかしら?」
「そんなの分かるよ。」
「分かってないでしょ?迷惑よ。やめなさい。」
「本当は寂しいでしょ?」
「何を根拠に言っているの?」
「分かるよ。あんな顔してたら。冴子さん、自分が雨の降っていた日にどんな顔しているか知らないでしょ?」
雨の日に外を見る彼女の顔は悲哀に満ちた表情であった。
それは、現状に対する切なさからくるものなのか、僕には計り知れないものだった事をつい昨日のことのように思い返される。
「……………………よしんば、私が寂しい思いをしてるとして、亮介には関係ないでしょ?」
「関係なくないよ。僕は君の友達だし。」
「友達…………ね。私は自分のことを聞かれれば、答えていたわ。貴方みたいに嘘をつかない。」
「嘘?」
「貴方、私がその顔の傷について聞いたら、いつも体育だのなんだのと嘘をついていたじゃない。まあ、別にいいのだけれど。でも、それは友達に真っ先に相談することじゃないの?」
「それは……………………。そうだけど。僕は知られたくなかったんだ。こんな格好悪い自分を。ごめんね。それは謝るよ。」
「それに……………私は貴方の勲章じゃないのよ。ましてや冥途の土産になるつもりもないのよ。亮介、貴方、もう死ぬ気でいるしょ?」
彼女は躊躇いがちにそう言った。
なんだ知ってたんだ。
彼女は知っていてこの一カ月付き合ってくれたのか。
だから、話してくれていたのか。
その通りだ。
僕は死ぬ気でいた。
彼らの暴力が激しくなるにつれて、体の痣が増えていった。
そうして毎日、顔や体に傷を作ってくる僕に親が気付くのに時間はかからなかった。
ある日、どうしてもお金が足りなかった。
その日の、彼らの暴力はいつもの比ではなく、僕は痣だらけで家に着いた。
母は僕の異変に早い段階で気づいていたそうだが、この日のあまりの傷の多さに確信したようだった。
息子はいじめにあっていると。
僕は両親に心配はかけたくなかった。
それゆえ、今まで黙ってきたが、それも終わりだ。
また、ことが大きくなって学校の人間に知られることを酷く恐れていた。
こんな自分を他人に知られるなんて恥もいいところである。
しかし、これでもういじめられないと思うと心が少し軽くなった気がした。
どれだけ、辛いを思いをしようとやっと解放されるならそれを糧にまた生きていこうと。
しかし、現実はそうはならなかった。
母が学校に連絡し、僕をいじめていた人間たちと僕と担任教師での話し合いが一度行われた。
それだけだった。
それで終わりだった。
次の日から、また同じことが続いた。
また僕は彼らに殴られるのを黙って、それをひた隠しに生きていた。
彼らもバレてたとしても注意のみで終わることに味をしめて、僕を思い切り殴るようになった。
しかし、少し警戒していのか今では腹や背中といった目に見えない部分を殴打するようになっていった。
母は今、僕がいじめられていないと思っている。
学校の人間たちは僕がいじめられていることを知らない。
ならば、今が一番マシなのかもしれないと思えてきた。
結論から言うと、僕は次の誕生日には死のうと考えていた。
どこか期限を設けなければ、自分が壊れてしまう。
このままではいけない。
でも、自分には現状、なにも出来ない。
これ以上、痛みを知るのはいやなのだ。怖いのだ。
僕は、およそ17年の人生に幕を閉じようと考えていた。
しかし、僕の人生を振り返り、僕は何もしていない事実に気がついた。
なにか残したい。何か僕が生きていた意味がほしい。
そんなとき、彼女と出会った。
「昔、自殺志願者がこの旧校舎に来たとき、同じように私が見えたことがあったの。
私の姿は普通、透けて見えるのよ。でもね、死期の近い者には生きた人間に見えるそうよ。」
「そっか。じゃあ、気づいてたんだ。」
「それは、どんな容姿の幽霊が出てきたとしても、己の命を狙われるかもしれないと考えたら、普通逃げ出すものよ。貴方は私に友達になろうと言ってきた。その時、確信したわ。ああ、この人は死ぬ気なんだと。だから、私も貴方の力になりたくて友達になった。どんな人間でも生きる意味はあると思うから。」
「そっか。だからか。僕は最後に君みたいな人と話せて幸せだったよ。」
「考え直す気はないの?」
「ないね。僕は君を成仏させて、それを最後に誰とも話さず死ぬつもりだよ。」
「私はそれを望んでいない。」
「じゃあ、仕方ないね。僕は一人で消えるとしよう。」
「私は生きたかったよ。どんなことをしても。」
「君の人生と僕は関係ないよ。それは、全く別の問題だ。」
「貴方が平気で散らそうとしている命を本当に欲している私に対してひどいことを言うのね。」
「じゃあ、この体あげようか?もういらないか………」
その時、閑散とした旧校舎にけたたましい音が飛来した。
かわいた音であった。
頬がじんわりと痛みを持つ。
彼女にはたかれたのだろう。彼女は凛とした眼差しで僕の顔を見ていた。
その僕を叩いた手は普通なら赤くなっているはずなのに青白い色のままであった。彼女はもう一方の手で僕の頬をなでた。
熱を持った頬に、冷たい彼女の手は溶け合うように感じられ気持ちがいい。
「ごめんなさい。あまりにふざけたことをぬかすからひっぱたいてしまったわ。次に同じことを言ったら絶交する。」
「ごめん。」
僕は彼女があまりに熱量のこもった瞳でみるから、本当は生きているんじゃないかと考えてしまった。しかし、その怒りの理由を思えば、自分がどれほど馬鹿なことを言っていたのかと恥ずかしく感じた。
「貴方、本当に死ぬの?」
「今のところ、そのつもりだよ。もう無理だしね。」
「分かった。なら、私も成仏しない。ずっとここにいる。」
「は?」
「ほら、貴方って死んだら、ここに来そうじゃない?じゃあ、寂しくないし。」
「歪んでるなあ。いや、ここに来る保障はないし。成仏したら?」
「じゃあ、生きなさい。そしたら、成仏してあげる。」
「意味が分からない。それとこれとは別の問題だ。」
「いえ、一緒の問題よ。どうする?」
二人とも気を落ち着かせて、先ほどの問題についてもう一度話しあうことにした。
彼女の結論は以上だ。
僕は考えながらも、まあ、彼女が成仏したらまた考えればいいかと最低な考えに至り、承諾するに至った。
僕の寿命は少し延びたのである。
しかし、彼女が成仏するまでの短い期間だ。
もう少し、我慢すればいいのだ。
簡単なことである。
「はあ。そうなんですか。」
やはり、冴子さんは自分から本名を明かしたようだ。
今、学校で本田冴子の噂をよく耳にする。
それは怪談として、放課後のトイレや、廊下に出没する霊だと噂されているようだ。
「でも、冴子さん。本田冴子の呪いとかB級映画みたいな言われようだよ。それはどうなの?」
「まあ、別にいいんじゃない?最近、その噂のせいか霊力が高まってるのよ。本名を名乗った瞬間こんなに霊力が集まるとわね。今までの驚かし作戦はなんだったのかしら。」
冴子さんは調子がいいのか鼻歌を歌いながら、教室の窓から外を見る。
冴子さんが闇子さんと同一人物だとはだれにもばれておらず、旧校舎に人が来ることはない。今日も旧校舎は閑散としていた。
「そういえば、冴子さんのはとこに当たる子がこの学校にいたよ。」
その話をした瞬間、空気が凍り付いた。
彼女の顔から表情が消えたのだ。
彼女は僕に目を合わすことなく、返事をする。
「ええ。知ってるわ。谷 千歳(たに ちとせ)さんでしょ?それに、亮介が私のことを調べていることも。」
「そっか。ごめんね。勝手に調べて。聞けばよかったね。」
僕が謝った瞬間、冴子さんの姿が消えた。
と思えば、目の前に現れる。
鼻先に当たりそうな距離に冴子さんがいた。
彼女の目は見開かれており、僕の目を凝視する。
勝手に自分の素性を知られることに冴子さんは怒るかもしれないと想定はしていた。しかし、こんなに早く知られるとは思いもしなかったが…………。
僕は毅然とした態度で彼女に対応する。
「亮介、何がしたいの?私のことを根掘り葉掘り調べて。貴方、もしかして私を成仏させようとしているでしょ?」
「……………………僕は冴子さんが寂しくなくなればいいと思って。」
「私、一言でも寂しい。成仏したいといったかしら?」
「そんなの分かるよ。」
「分かってないでしょ?迷惑よ。やめなさい。」
「本当は寂しいでしょ?」
「何を根拠に言っているの?」
「分かるよ。あんな顔してたら。冴子さん、自分が雨の降っていた日にどんな顔しているか知らないでしょ?」
雨の日に外を見る彼女の顔は悲哀に満ちた表情であった。
それは、現状に対する切なさからくるものなのか、僕には計り知れないものだった事をつい昨日のことのように思い返される。
「……………………よしんば、私が寂しい思いをしてるとして、亮介には関係ないでしょ?」
「関係なくないよ。僕は君の友達だし。」
「友達…………ね。私は自分のことを聞かれれば、答えていたわ。貴方みたいに嘘をつかない。」
「嘘?」
「貴方、私がその顔の傷について聞いたら、いつも体育だのなんだのと嘘をついていたじゃない。まあ、別にいいのだけれど。でも、それは友達に真っ先に相談することじゃないの?」
「それは……………………。そうだけど。僕は知られたくなかったんだ。こんな格好悪い自分を。ごめんね。それは謝るよ。」
「それに……………私は貴方の勲章じゃないのよ。ましてや冥途の土産になるつもりもないのよ。亮介、貴方、もう死ぬ気でいるしょ?」
彼女は躊躇いがちにそう言った。
なんだ知ってたんだ。
彼女は知っていてこの一カ月付き合ってくれたのか。
だから、話してくれていたのか。
その通りだ。
僕は死ぬ気でいた。
彼らの暴力が激しくなるにつれて、体の痣が増えていった。
そうして毎日、顔や体に傷を作ってくる僕に親が気付くのに時間はかからなかった。
ある日、どうしてもお金が足りなかった。
その日の、彼らの暴力はいつもの比ではなく、僕は痣だらけで家に着いた。
母は僕の異変に早い段階で気づいていたそうだが、この日のあまりの傷の多さに確信したようだった。
息子はいじめにあっていると。
僕は両親に心配はかけたくなかった。
それゆえ、今まで黙ってきたが、それも終わりだ。
また、ことが大きくなって学校の人間に知られることを酷く恐れていた。
こんな自分を他人に知られるなんて恥もいいところである。
しかし、これでもういじめられないと思うと心が少し軽くなった気がした。
どれだけ、辛いを思いをしようとやっと解放されるならそれを糧にまた生きていこうと。
しかし、現実はそうはならなかった。
母が学校に連絡し、僕をいじめていた人間たちと僕と担任教師での話し合いが一度行われた。
それだけだった。
それで終わりだった。
次の日から、また同じことが続いた。
また僕は彼らに殴られるのを黙って、それをひた隠しに生きていた。
彼らもバレてたとしても注意のみで終わることに味をしめて、僕を思い切り殴るようになった。
しかし、少し警戒していのか今では腹や背中といった目に見えない部分を殴打するようになっていった。
母は今、僕がいじめられていないと思っている。
学校の人間たちは僕がいじめられていることを知らない。
ならば、今が一番マシなのかもしれないと思えてきた。
結論から言うと、僕は次の誕生日には死のうと考えていた。
どこか期限を設けなければ、自分が壊れてしまう。
このままではいけない。
でも、自分には現状、なにも出来ない。
これ以上、痛みを知るのはいやなのだ。怖いのだ。
僕は、およそ17年の人生に幕を閉じようと考えていた。
しかし、僕の人生を振り返り、僕は何もしていない事実に気がついた。
なにか残したい。何か僕が生きていた意味がほしい。
そんなとき、彼女と出会った。
「昔、自殺志願者がこの旧校舎に来たとき、同じように私が見えたことがあったの。
私の姿は普通、透けて見えるのよ。でもね、死期の近い者には生きた人間に見えるそうよ。」
「そっか。じゃあ、気づいてたんだ。」
「それは、どんな容姿の幽霊が出てきたとしても、己の命を狙われるかもしれないと考えたら、普通逃げ出すものよ。貴方は私に友達になろうと言ってきた。その時、確信したわ。ああ、この人は死ぬ気なんだと。だから、私も貴方の力になりたくて友達になった。どんな人間でも生きる意味はあると思うから。」
「そっか。だからか。僕は最後に君みたいな人と話せて幸せだったよ。」
「考え直す気はないの?」
「ないね。僕は君を成仏させて、それを最後に誰とも話さず死ぬつもりだよ。」
「私はそれを望んでいない。」
「じゃあ、仕方ないね。僕は一人で消えるとしよう。」
「私は生きたかったよ。どんなことをしても。」
「君の人生と僕は関係ないよ。それは、全く別の問題だ。」
「貴方が平気で散らそうとしている命を本当に欲している私に対してひどいことを言うのね。」
「じゃあ、この体あげようか?もういらないか………」
その時、閑散とした旧校舎にけたたましい音が飛来した。
かわいた音であった。
頬がじんわりと痛みを持つ。
彼女にはたかれたのだろう。彼女は凛とした眼差しで僕の顔を見ていた。
その僕を叩いた手は普通なら赤くなっているはずなのに青白い色のままであった。彼女はもう一方の手で僕の頬をなでた。
熱を持った頬に、冷たい彼女の手は溶け合うように感じられ気持ちがいい。
「ごめんなさい。あまりにふざけたことをぬかすからひっぱたいてしまったわ。次に同じことを言ったら絶交する。」
「ごめん。」
僕は彼女があまりに熱量のこもった瞳でみるから、本当は生きているんじゃないかと考えてしまった。しかし、その怒りの理由を思えば、自分がどれほど馬鹿なことを言っていたのかと恥ずかしく感じた。
「貴方、本当に死ぬの?」
「今のところ、そのつもりだよ。もう無理だしね。」
「分かった。なら、私も成仏しない。ずっとここにいる。」
「は?」
「ほら、貴方って死んだら、ここに来そうじゃない?じゃあ、寂しくないし。」
「歪んでるなあ。いや、ここに来る保障はないし。成仏したら?」
「じゃあ、生きなさい。そしたら、成仏してあげる。」
「意味が分からない。それとこれとは別の問題だ。」
「いえ、一緒の問題よ。どうする?」
二人とも気を落ち着かせて、先ほどの問題についてもう一度話しあうことにした。
彼女の結論は以上だ。
僕は考えながらも、まあ、彼女が成仏したらまた考えればいいかと最低な考えに至り、承諾するに至った。
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しかし、彼女が成仏するまでの短い期間だ。
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