きぃちゃんと明石さん

うりれお

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ココから先読み

②〇〇〇〇〇なんて聞いてません!

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「「いただきます」」

お風呂から上がると、机の上に季衣作のオムライスが完成していた。
教えた通り、少しトロっとした卵の上には、ケチャップでパンダの顔が描かれている。
彼女によると俺のイメージがパンダらしい。
自分ではよく分からないが、可愛いので良しとする。

それにしてもエプロンつけて出迎えに来てくれたきぃちゃんが可愛すぎる。
フリフリが付いているわけでもないシンプルなエプロンだが、新婚のようなシチュエーションに心臓が鷲掴みされた。
可愛いすぎて、一瞬その場で襲いそうになったが、火を使っている可能性が浮かんで、なんとか思いとどまった。
思いとどまったのに、寂し過ぎて俺のベッドで寝てたとか言い出すから、その姿を想像して、抱き着いているから顔が見えないのをいい事に一人悶えて、やっぱりこのまま寝室に連れ込もうか真剣に悩んだのである。
 
「うまっ」

スプーンにキラキラ輝く卵とケチャップライスをすくって口に入れると、確かに自分が教えたのに近いが、どこか違う味がする。うまい。
なんというか、コクが深くなったような。

「美味しくできてますか?」

「うん。めちゃめちゃうまい。
  何か俺のより美味しくない?
  隠し味何か入れたの? ……あっ、ツナだ。」

ケチャップライスの中に鶏肉ではなくツナがはいっている。

「そーなんです!
  ツナ余ってたんで鶏肉の代わりにして、
  卵にマヨネーズ混ぜてみました。」

なるほど、マヨネーズか。そりゃうまい訳だ。
マヨネーズを愛するマヨラーの彼女らしいアレンジだと思う。

にしてもうまいなぁ。
料理はあまり上手くないと言う彼女だが、こうやって自分好みにアレンジしているのを見ると、料理好きの母と案外気が合うかもしれない。

「言われて見ればマヨネーズの味するね。
  今度俺も真似していい?」

「えっ、もちろんいいですよ!
  そんなに美味しかったですか?」

「うん。俺の好きな味。
  きぃちゃんに出会えてなかったら
  食べられなかった味だね。」

「よっしゃっ!師匠に認められたぜっ。
  でもでも、そんな事言ったら私やって、
  明石さんに出会えてなかったら、
  こんなに美味しいオムライス作れるようになって
  ないですよ?えへへっ。」

ガッツポーズして喜ぶ季衣にもっと色んな料理を教えたら、こんな風にアレンジして食べさせてくれるのだろうかと考えて、これから週末は一緒に料理するのもいいなと思う。

「こんなに可愛くて優秀な弟子を持てて俺は幸
  せだよ。
  明日は一緒にお昼ご飯作ろうか。
  今日も泊まっていくでしょ?」

「……一緒に作りたいし、泊まりたいけど、
  明石さん疲れてるんじゃないかと思って…
  今日は帰ろっかなーって……。」

オムライスを食べる手を一旦止めた季衣が柊真の顔を伺うように上目遣いで見つめてくる。
気を使って帰ろうとしているのだろうが、なんだか早く抱き合いたいと思っているのは俺だけだと言われているようで、少し自分の腹の底がドロっとするのを感じた。

「薄情だなぁ。
  寂しかったって言ったのは嘘だったの?」

「うっ、嘘じゃないっ!寂しかったぁっ。」

「じゃあ、誰もいない家できぃちゃんは一人で
  寝れるの?
  寂しくて俺のベッドで寝ちゃってた人が?」

いつもだろと言われればその通りなのだが、今日は特に帰したくなくて、思いの外冷たい声で問い詰めてしまう。

「うっ……、でも、明石さんくま凄いですよ?」

「それはきぃちゃんに会えなかったからだよ。
  ……ねぇ、俺はもう我慢の限界なんだけど。」

「えっ、あ、う、」 

何の我慢とは言わなかったが季衣には十分通じているはずだ。
その証拠に顔が耳が紅く染まっている。

唇が腫れるぐらいしつこくキスして、指四本余裕で咥え込んじゃうぐらいトロトロに解して、ささやかで可愛い胸を苛めながら、奥をとんとん突いて、涙でぐちゃぐちゃになった季衣の顔が見たい。

そう言ったら引かれるだろうか。
逃げられるだろうか。

欲望にまみれた眼を隠すことなく彼女に向けると、それを感じとったのか、だんだん涙目になってくる。

「きぃちゃんは違うんだ?」

「……ちっ、違わへんっ。
  もう、帰るとか、言わへんからぁ。」

焦って敬語が外れて、関西弁が出ちゃってるきぃちゃん可愛いなぁ。
ホントに閉じ込めてしまいたいぐらい可愛い。

いっそ一緒に住めたらと何度も思うが、それが出来たら、同じアパートの隣同士の部屋を借りるなんて、煩わしい事になっていないのである。
確かに季衣に逃げ場は必要かもしれない。
彼女への執着から俺はいつ何をするか分からないし、人間だからどうしても顔を合わせるのがしんどい時もある。
理解してるつもりだし、納得も出来るのだが、ちょっとした時に二つの部屋を区切る壁が煩わしく感じてしまう。

「ちゃんと反省してよ?
  俺の気持ちを甘く見たこと。」

「するっ。ちゃんと反省するっ。
  ……ほんまは帰る気なんて無かったの。
  明石さんに帰らんとってって言って欲しかった
  だけやの。」

は?え?可愛いすぎだろ。
そんな事言われたら一生帰したくなくなるんだけど?
ていうか、焦って色々捲し立ててた俺、恥ずかしすぎない?

「……ごめん。俺も焦ってた。
  朝まで一緒にいたいって思ってるの、
  俺だけなんじゃないかと思って。」

「今日は明石さんにぎゅってしてもらわないと
  寝れないです。」

彼女がよく見せる、唇を尖らせてむぅっとする顔に愛しさが溢れてくる。

「寝かす気ないけどね。」

「……っ、んもうっ!
  ご飯冷めちゃいますよ!」

耳だけでなく顔全体を真っ赤にして、オムライスをパクパクと頬張り始める季衣を見て、世界一可愛い照れ隠しだと思った。
 



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