きぃちゃんと明石さん

うりれお

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②こんなに可愛いなんて聞いてない

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「お邪魔しまぁす」

靴を脱ぐのを少し手伝って玄関に上がらせるが、一応鍵を開けておく。
いつ自分の理性が焼き切れるか分かったもんではない。

結局、家に連れ込む事になってしまったが、俺の祭壇なんてたかが知れている。
アルバムや参戦したライブのうちわなどは買うものの、元々グッズを買い集めるタイプではない。
目立つものと言えば、さっき季衣にも話したポスターぐらいである。

とにかく早く帰そう。
な!それくらい簡単だよな!俺!

「ジアちゃんどーこだっ!」

「このクローゼットの中だよ」

紙製品は日焼けに弱いため、グッズはすべてクローゼットのなかに収納してある。

「開けていいですかぁ?」

「どうぞ」

「ひらけぇーごまっ!……はわわッ!
  ……美しい……女神ジア様………!」

扉を開けて一番に目に入る大画面&高画質の美女に、季衣は腰が抜けてその場にへたりこんでしまった。

「ライトもつくよ」

左右それぞれのライトに電源をいれると、ジアのポスターに光が当たる。
どうしても暗くなってしまうクローゼットにライトを設置することで、ジアがステージ上でスポットライトを浴びているかの様な臨場感を演出する事が出来るのである。

「え!?あかしさん、天才なの!?
  ねぇ、きぃのお家でもおんなじことしたい!」

ん?それは家まで設置しに来いといわれてる?
流石に違うか……、いや、そのキラキラした目は危険だ。
何言い出すか分かったもんではない。
先回りして話題を変えるか。

「良かったらライト売ってるサイトのページ送
  るよ」

「それきぃでもせっちできる?」

「大丈夫だと思うよ。
  一人でやってみて無理そうだったらビデオ通
  話でもして?」

「うんっ」

よしっ、乗り切ったっ。
家まで設置しに行く流れを完全に抹消した。
後はタクシー呼んで帰すだけ。
何も難しくないはずだ俺。

「あかしさん、このクローゼット写真撮っても
  いい?」

俺の祭壇のレイアウトがよほど気に入ったらしい。

「お好きにどぉぞー。
  写真撮れたらソファにでも座ってて。
  俺、水取ってくるから。」

「はぁーい」

水を冷蔵庫で冷やし忘れていたのを思い出して、玄関近くの物置にある箱買いした水を取りに行き、ダンボールを開くとその場で項垂れた。

はぁーーーっ、なんであんなに可愛いんだよ。
もう無理だよ。
もはや誘ってんの?ってレベルだよ。
実は遊び慣れてる……?
もしかして俺、遊ばれてる?
そっちがその気ならもう俺が食っちまってもいいんじゃないか。

…………………おい、頭冷やせよ俺っ。
駄目だっつってんだろ。
やっと出会えた、飾らなくて、笑顔が可愛くて、ヲタク理解があって、なんにも考えずに好きになれた女の子だぞ。
今限りの欲に従って彼女の信頼無くす気か?
 
頭の中で天使と悪魔が討論するように理性と欲望がせめぎ合う。

水飲んだらタクシー、水飲んだらタクシーと呪文のように唱えながら、ペットボトルを手にキッチンに向かうと、二人がけのソファにちょこんと座る季衣の姿があった。
可愛い。
顔がニマニマするのを我慢しながら、適当なコップに水を注いで彼女の方へ向かう。

「きぃちゃん、はい、お水。」

「あー、あぃとーござい…」

柊真が差し出したコップを季衣が受け取ろうとして、
 
 つるっ
 
「あっ」「うわっ!」

ぴしゃっと水をぶちまけて、コンっコンコンと音を立てながらコップが床に転がる。
神様のいたずらか、俺の手汗か。

コップから溢れた水は見事に、彼女のシャツからズボンまでを律儀に濡らしていった。

「わーっ、ぬれたぁ。つめたぃ。」

「ごめんっ、結構水かかったね。
  ちょっと待ってて、タオル取ってくるから。」

結構濡れてたよなぁ。
あのまま帰したら風邪ひいちゃうかもしれないし……着替えもいるか。
あぁ、下着まで濡れてたらどうしよ。
とりあえずタオル渡して、Tシャツと短パンとカーディガンぐらいでどうにかなるか?

頭をフル回転させながら、脱衣で季衣に渡す用と床を拭く用の二枚のタオルを手にし、急いでリビングへと戻る。

「きぃちゃん。タオルこれで足り……ってなんで
  脱いでるの!?」

玄関から続く廊下とリビングの間のドアを開けて柊真の目に飛び込んだのは、ズボンを床に落とし、シャツのボタンに手を掛けている季衣の姿だった。

「だって、びしょびしょなったから……」

やっぱり俺試されてる?
あぁ、もうなんかびしょびしょとか聞くだけでエロい。
水に濡れて透けたシャツと生足という破壊的な光景は、柊真の自制心をグーパンで殴っている様なものだった。

「だからって……。
  あぁー着替え持ってくるからタオルでちゃん
  とふいててよ!」 

もう何もかも見なかった事にして、衣装ケースがある寝室に逃げ込んだ。
俺の分身よ、今日お前の出番はない。
だから、お願いだから目を覚まさないでくれ。

紺のTシャツとベージュの紐を前で結ぶ短パン、クリーム色のカーディガンと、あまり多くない私服の中で出来るだけ使用頻度の低いものをかき集める。

あんなんでよく今まで一人で居酒屋で飲んでたな。
運が悪ければそこらの男にぱっくり頂かれていただろう。
どうなってんだこの子の危機管理能力。

「身体ふけたー?って今度は何してんの!?」

お願いだから生足で四つん這いは勘弁してくれ。

「床にこぼしちゃったの拭いてるの。」

そういう律儀なとこきぃちゃんらしくて可愛いけど、そのらしさ発揮すんの今じゃないと思うんだ俺。

「分かった分かった。
  床は俺が拭いとくから先に服着ようっ。」

柊真は極力季衣の方を見ないようにしながら、床を拭いているタオルを取り上げる。

「一回立ってズボン履ける?俺ので悪いけど。」

「うん。よいしょっっっとああッ!?」

つるっ

タオルを取り上げられた季衣が立ち上がろうとして、足を滑らせた。
さっきからつるつる、今日はホントについてない。

「あぶなっッと。ギリギリセーフっ。」

顔面&膝強打の危険があった所をギリギリで抱きとめる。

「きぃちゃん、怪我してない?大丈夫?
  どこも痛くない?」

「ん、大丈夫。ありがとっ」

んふふっ、と笑いかけられて、柊真に何重にも巻かれている目に見えない鎖がピシリと音を立てた。

「きぃちゃんそろそろ離れて。
  着替えなきゃ風邪引いちゃうよ。」

その場合柊真が襲うのが先だろうが。

「えぇ、やだ。
  このままぎゅーってしてちゃだめ?」

明石さんの匂い安心すると言って柊真の首元に顔を近づけてスンスンと鼻を鳴らす。

「……俺の我慢がそろそろ限界だから駄目。」

酔っている彼女に伝わるか分からないが正直に伝えると、季衣は顔を離して柊真の方を見ながら首を傾げる。

「がまん……?…………あ。
  えへへっ、明石さんにならいいですよぅ。」

「は、」

今なんて言ったこの子。

「シた事ないし、おっぱいちっちゃいけど、
  それでもいいならお好きにどうぞ。」

え?は?え?

俺は我慢の限界で、きぃちゃんは生足で、処女で、抱いても良いって言ってる……?

抱いても良いって言ってる!?

ヒビが入った所からメシメシメシと壊れ始め、ジャラジャラと鎖が床に落ちていく。

「そんな事言って、途中で帰りたいって
  言っても帰してあげられないよ?いいの?」

「うん。」

そして、頭の奥でぶつりと音がして、最後の一本が千切れた。

今まで泥酔した季衣に対して、あれだけ理性を保とうと必死だったので忘れているかも知れないが、柊真もれっきとした酔っ払いで、まともな判断力なんて皆無に等しいのである。
住所も言えない酔っ払た女の子を家に連れ込んで、どんなに頑張ろうが逃げ切れる訳が無いという事に気付かないくらいには。

「ホントにいいんだね?
  ……分かった。じゃあベッド連れてくから首に
  掴まって。
  ……そう。立つよ。」

ギリギリで保っていたのもあって、季衣の一言で簡単に理性が崩れ落ちた柊真は季衣を抱っこして寝室へ運び、ベッドのへりに下ろす。  

傍から見れば興奮している様には見えないのだが、柊真の目は森の中で獲物を狙うヒョウのようにギラギラしていた。

「うわぁ、ベッドふかふか~。」

これから彼氏でもない男に抱かれようというのに、季衣はきゃっきゃっとご機嫌な様子ではしゃいでいる。

「きぃちゃん、ちょっとだけここで待っててく
  れる?」

「ん。分かった。」

「いい子」

額にちゅっと唇を落とすと、おでこにちゅってしたぁ、と相変わらずきゃっきゃっする季衣を後にして寝室を出る。


廊下を真っ直ぐ進んで手を伸ばすと、玄関の鍵をガチャリと閉めた。



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