異世界で僕…。

ゆうやま

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2章85話

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広い海に爽やかな風が舞う場所で一人の女性が砂浜を歩いていた。

海のように青い髪と青い瞳を持った美しい女性はその身に自身の地位を見せつけるように様々な眩しい飾り物をしている。

「クルール…」

この海辺は生命の海ナン厶でその女性は大海母神ティアマトであった。

「はい、ティアマト様」

そして呼び出した眷属はティアマトの11の眷属の筆頭である人魚姫クルールが海から出て姿を見せた。

「あの子はまたマシュ山で引きこもっているの?」

「はい…まだ下界に未練が残っているようです」

「そうか…」

「これ以上引き継くようでしたら記憶を消してしまった方が…」

「………」

ティアマトは何も言わずに海を眺めていた。

「出過ぎた事を言って申し訳ありません」

「未練ね…」

「呼びますか?」

「いや…しばらくそっとしてあげなさい」

「はい…」

その時、クルールに角が付いた1匹の巨大な蛇が現れて何かを伝えた。

「ティアマト様…ジズが何者かの手によって蘇ったとバシュムから報告がありました」

「ん?ジズが?………ふーん、面白い事になりそうね…」

「面白い事ですか?」

「うふふ…全員、入り口に警備に当たるように伝えなさい」

「我等…全員ですか?」

「そう」

「はい、かしこまりました!」

「それと、あの子は私が呼ぶまではマシュ山で待機でいいと伝えなさい」

「かしこまりました!」

ジズの復活を耳にしたティアマトは自分の聖域に誰かが来ると予想して眷属を入り口に配置した。

「退屈していたのに…いい暇つぶしにはなりそうだね」

ティアマトは少女のようにクスクス笑った。









僕はルル姉と一緒にテイルナノクの視察の為に各集落に向かった。

「ハルト君!私はまずハルト君の居城を見たい!」

「えー?まだ視察を始めてもないのに…」

「へぇ…あの重度の引きこもりのだったハルト君が本当に真面目になったわね…」

「うん…」

面倒くさがり屋で他人に興味が無かった僕だったが…この世界に来てから変わって行く姿に自分でも驚いている…。

「でも、バムとレヴィが作り始めて3日しか経ってないから…多分基礎工事を始めている程度じゃないかな?」

それに…僕は居城に興味がなくてそこの場所すら知らない。

「ん?前見に行った時は基礎工事ところか…ほぼ出来ていたぞ?」

「はい?本当に?」

「うん…私もちょっと手伝ったよ?」

「まじか…」

それを聞いた僕は居城に行ってみる事にしてルル姉がその場所に連れててくれた。

そこには既に光り輝く立派な城がほぼ完成していた。

「レヴィ!内部はどのぐらい出来た?」

「もう完了よ!あとは内装と家具だけだね…」

「よし!こっちも外観工事も終わった」

すげ……この二人と建築会社を立ち上げればぼろ儲けしそうだ。

「もう出来たみたいだな!一緒に中を見てみよう」

「うん…凄い城だね」

バムとレヴィが案内と説明をしてくれてルル姉は楽しそうに見ていた。

「凄いね…こんな短時間に出来上がるとは…」

「主をこれ以上公務室に寝泊まりさせる訳にはいけません」

「そうですよー♪早く主様と同じ屋根の下で住みたいしね♪」

僕としては公務室のあの暗い雰囲気がたまらなく好きなんだが…。

その城のは硬い金属のような物で出来ていてルル姉が表面を叩くと何か重い音がした。

「もしかしてこの城は全部クォツアイロンで出来ている?」

はぁ?全部ミスリルだと?

「その通りです、高純度クォツアイロンの塊で出来た山を丸ごと切り取って作りました」

「柔らかさもちょうどよかったから苦労せずに作業も楽でしたよ♪」

「そ、そうなんだ…」

オレイカルコスすら粘土のように加工出来る奴らだ…ミスリルなど朝飯前か…。

しかし…ミスリルで出来た城…。

凄い贅沢な城だね

この城のミスリルを売り出せばテイルナノクの資金事情は大分楽になるんだが…。

プァフニールの財産を取りあげた意味あるの?

バムとレヴィも物の価値には疎いようだ。

内部は沢山の部屋があって完成したら誰がどの部屋を使うか決める事にした。

今決めて置くと間違いなく色々面倒な事になると確信したからだ。

そのあと様々な集落を訪ねて現状を確認した。

まだ…資材が足りなくてどこもあまり進んでなかったようで物資が届いてからみんな笑顔で張り切って作業に取り掛かった。

ルル姉も意外と楽しそうに見ているようでちょっとホッとした。

つまらないと言い出したらどうしようかとずっとヒヤヒヤしていた。

デートの経験がない僕としてはこれが精一杯だった。

テイルナノークは広く、全部回るのは無理だったので今回はダークエルフの里を最後の視察とした。

「この方向は…」

「この先にスヴァルト達の里があるよ」

「……そ、そう」

ルル姉は何故かそこに行く事に躊躇しているように歩きが遅くなった。

そして…里に着いたら何故かスヴァルトのみんなは土下座して震えていた。

「み、みんなどうしたの!」

「ハルト様…私はどうなっても構いませんが…他の者は助けて下さい」

「は?意味が分かりませんが?」

「実は私が破壊の女神様と知らずにその気迫に怯えて化け物と言ってしまって…大変な無礼を働いてしまいました…」

「……そ、そう?」

ルル姉は僕から背を向けて黙秘権を行使した。

きっと僕が寝込んだ時何かあったんだろ。

「安心して下さい!破壊の女神様はそんな事は望んでいませんよ…ねぇ?ルル姉」

「あら~やだな!そんなバカみたいな自己紹介を真に受けるとはね」

「へぇ…一体どんな自己紹介をしたの?」

「そ、それは…」

今度は顔を逸らして黙り込んだ…。

聞かずとも予想は付いている…。

「自分のアイデンティティを述べた自己紹介でもしたの?」

「さ、さすがだな…」

ルル姉はその事を水に流すと言って安心したダークエルフ達はルル姉を歓迎して宴を用意してくれた。

ダークエルフ達も亜人達と同じくルル姉を慕っているようでみんなルル姉を見て怯えている姿はなかった。

スヴァルトの伝統の踊りや音楽…様々な芸を披露してくれてルル姉も喜んでいた。

「下界の者にこんなに歓迎された事は初めてだな…何か嬉しい」

「これから本当のルル姉の事を知って、みんな好きになると思う」

「ハルト君……あ、ありがとう」

「うん…」

ルル姉は顔には出してなかったが…その目は涙で少し濡れていた。

今まで恐怖の象徴と恐れていたルル姉はこんなに歓迎されて…僕も本当に嬉しくて…優しいルル姉をみんなに知って貰えるように何かしてやりたいと思った。

日が暮れ始めて僕とルル姉は拠点の近い巨木に来た。

そこに座って僕とルル姉は風景を眺めた。

夕暮れが始まった空は赤く…日が沈む光景を見ると落ち着く感じがした。

「いい眺めだね…」

「うん…」

僕がルル姉の手を握って指を絡めるとルル姉は肩に顔を寄せた。

「本当はルル姉が器に戻ったあと、もう会えないんじゃないかと思ったよ」

「そうか…」

「これからはずっと一緒にいられる?」

「うん…ずっと一緒いる」

「ルル姉…」

「ハルト君…」

約束通り…そっと抱きしめて僕はルル姉にキスをした。

その柔らかい唇の感触はだだ[ヤバイ]としか表現出来なかった。

今度は邪魔も無く、血を吐き出す事もない。

このタイミングでルル姉に好きだと告白したかった。

でも、その瞬間…双子の顔が浮かんでそれを言えなかった。

「ル、ルル姉…大事な事を伝えたいけど双子の事が終わってからでもいい?」

「……うん」

「本当にごめんね…」

「……うん」

「もしもし?」

「……うん」

だめだこりゃ…。

ルル姉の意識は何処かに飛んで行ったようだ…。

「工房に行こう……」

「……うん」

デートはこれで終了して…抜け殻のようなルル姉を連れて僕は工房に向かった。

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