命の対価

桜庭 葉菜

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交わらない思い出 3

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 思っていたよりも大きな声が出た。

「久しぶり! 家近いのに会わないなーって思ってたんだよ」

 さっき話をしていた他の4人は忙しくて連絡を取っていないとは言えど、駅などで1度や2度くらいはばったり会ったことがある。

 でも一番家も近いはずのひろゆきにだけはなぜか会えていなかった。

「ちょっと今遠くにいてさ、夏休みだから久々に帰ってきたんだ」

「そうだったのか。いやぁ、誰もそんなこと教えてくれないから、知らなかった」

 でも、会えてよかった。

 純粋な喜びもつかの間、ひろゆきが不思議なことを口にした。

「あれ、もしかして後ろにいるのって、ことね?」

 そう言われ、俺は振り向いた。

 ことね……それがわからないわけではない。

 鈴木さんの下の名前だ。

 でも、なんでひろゆきが?

「やっぱりことねじゃん! 久しぶり! 俺のこと覚えてる?」

「──あ!」

 鈴木さんが声を上げる。

 俺の疑問の答えは一向に出ないまま、2人だけで話が進んでいく。

「ことね?」

 俺が初めてその名を口に出す。

「そうだろ? 俺たちずっと遊んでたもんな、懐かしいよな」

 懐かしい?

「あー、ことね!」

 ことねと、俺たちが?

「そうだったな、またみんなで集まりたいな」

 そう言って思い浮かべた人たち。

 俺はその中にことねを思い浮かべることは出来なかった。

「あ、俺そろそろ行かなきゃ。またな!」

 相当急いでいたのか、俺たちの返事も聞かぬまま、現れた時と同じように、サラリといなくなった。

「こうちゃ──」

「ごめん、鈴木さん」

 鈴木さんが何を言おうとしていたのかなんて、俺には全く聞き取れなかった。

 ただ俺は、もうすっかり呼び慣れたこの名前を呼んだ。

「私のこと、思い出してくれたんじゃ……?」

「あの時はひろゆきが居たから、つい……でも、本当にわからないんだ。
俺たちはどこで出会ってるんだ?
鈴木さんは、俺にとってなんなんだ?」

 ひろゆきの口から鈴木さんの名前が出てきた。

 その意味が分からない。

 もしかして、ひろゆきだけじゃなくて、他のみんなも鈴木さんを知っているのか?

 ひろゆきの前だからと繕っていた表情が剥がれ落ちる。

 動揺が、隠しきれない。

「私とこうちゃんは、ここで出会ったんだよ……この、公園で……」

 もうほとんど呼ばれぬその呼び方。

 そういえば、鈴木さんに初めて会った時も今みたいに呼ばれたな。

 目の前に広がる何一つ変わらぬ公園。

 俺たちはここで出会った?
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