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夢の中の女の子 3
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俺たち男子は近くのお店からダンボールをもらいに行ったり、買い出しに。
残った女子は内装のデザインを考えた。
人数が少ないなりに、うまく分担して順調に進めることができた。
午前の準備はあっという間に進み、力仕事ばかりやらされた俺たちは昼飯の時にはもうクタクタだった。
「はい、感想聞かせてね」
そう言ってクラスの女子から紙皿に盛られた焼きそばと割り箸を渡される。
自らの手に乗せられた美味しそうな匂いに思わず喉が鳴った。
それと同時に急に空腹を感じ始めて、俺はすぐに焼きそばを食べ始めた。
隣で雅也も夢中で食べ進めていた。
「焼きそばってこんな美味かったか?」
俺より先に綺麗に平らげた雅也が言った。
確かにそれは俺も思った。
たくさん働いたからだろうか、それとも出来立てだからだろうか。
はたまたこれが、お祭りとか、こういうところで作って食べるもののほうが何倍もおいしい、と感じてしまうあの謎の現象ゆえなのか。
ともかく、今食べている焼きそばがここまで美味しいのなら、当日これが売れるのは間違いないだろうと確信できた。
全員に平等に配られた焼きそばだけではもちろん足りず、俺は朝母さんから受け取ったお弁当を広げる。
雅也も俺の家を通る前に買ってきたのであろうコンビニの袋を持って来た。
「佐々木くん、新島くん、焼きそばどうだった?」
いつも聞いている男たちの声とは違う、おしとやかな声が俺たちの名前を呼んだ。
「あぁ、めっちゃ美味しかった」
そう言った後でようやく相手の顔を認識した。
目の前にいたのは――佐倉 雛子。
高校に入ってから、唯一2年続けて同じクラスになっている女子だ。
料理の邪魔にならないようにか、鎖骨まである髪を後ろでラフに結ってある。
普段下ろしている姿しか見たことがなかったせいで、俺は彼女を認識するのが数秒遅れた。
クラスメイトの名前はしっかり覚えているが、まさか髪型が少し変わっただけで一瞬分からなくなってしまうとは。
いつか同窓会で会ったときなんて、クラスの女子全員わからないんじゃないか?
なんて、今は全く必要のない心配をしてしまった。
俺の感想を聞き、その後無事に雅也の感想も聞き出せたらしく満足した佐倉さんは、俺たちに軽く手を振ってから女子の輪の中に戻っていった。
その姿を見た瞬間、俺は何故かあの夢の女の子を思い出した。
いつも夢の中で一緒に遊ぶ女の子。
その女の子は小学生くらいの幼い子で。
顔も名前も声も、何もわからない女の子と2人きりで、俺はいつも楽しそうに遊んでいる。
そして夢の最後で必ずその子と別れる。
寂しそうに手を振っている時や、はたまた引き裂かれるように別れる時。
別れ方はその時によるが、俺たちが別れることはいつも決まっている。
今目の前の佐倉さんは笑顔で手を振っていたのに、どうしてあの夢の女の子と重なったのだろう。
もう女子の輪の中に戻った佐倉さんを無心で見つめる。
──カシャン。
教室に響いた小さな音。
それが俺にだけは大きな音に聞こえた気がして、1人大袈裟に反応してしまった。
今の音の正体に、俺は自分の足元を見て気がついた。
「……洗ってくる」
1つため息をついてから重い腰を持ち上げ、落とした箸を片手に廊下へ出た。
その時、俺は後ろからのひとつの視線に気づかなかった。
残った女子は内装のデザインを考えた。
人数が少ないなりに、うまく分担して順調に進めることができた。
午前の準備はあっという間に進み、力仕事ばかりやらされた俺たちは昼飯の時にはもうクタクタだった。
「はい、感想聞かせてね」
そう言ってクラスの女子から紙皿に盛られた焼きそばと割り箸を渡される。
自らの手に乗せられた美味しそうな匂いに思わず喉が鳴った。
それと同時に急に空腹を感じ始めて、俺はすぐに焼きそばを食べ始めた。
隣で雅也も夢中で食べ進めていた。
「焼きそばってこんな美味かったか?」
俺より先に綺麗に平らげた雅也が言った。
確かにそれは俺も思った。
たくさん働いたからだろうか、それとも出来立てだからだろうか。
はたまたこれが、お祭りとか、こういうところで作って食べるもののほうが何倍もおいしい、と感じてしまうあの謎の現象ゆえなのか。
ともかく、今食べている焼きそばがここまで美味しいのなら、当日これが売れるのは間違いないだろうと確信できた。
全員に平等に配られた焼きそばだけではもちろん足りず、俺は朝母さんから受け取ったお弁当を広げる。
雅也も俺の家を通る前に買ってきたのであろうコンビニの袋を持って来た。
「佐々木くん、新島くん、焼きそばどうだった?」
いつも聞いている男たちの声とは違う、おしとやかな声が俺たちの名前を呼んだ。
「あぁ、めっちゃ美味しかった」
そう言った後でようやく相手の顔を認識した。
目の前にいたのは――佐倉 雛子。
高校に入ってから、唯一2年続けて同じクラスになっている女子だ。
料理の邪魔にならないようにか、鎖骨まである髪を後ろでラフに結ってある。
普段下ろしている姿しか見たことがなかったせいで、俺は彼女を認識するのが数秒遅れた。
クラスメイトの名前はしっかり覚えているが、まさか髪型が少し変わっただけで一瞬分からなくなってしまうとは。
いつか同窓会で会ったときなんて、クラスの女子全員わからないんじゃないか?
なんて、今は全く必要のない心配をしてしまった。
俺の感想を聞き、その後無事に雅也の感想も聞き出せたらしく満足した佐倉さんは、俺たちに軽く手を振ってから女子の輪の中に戻っていった。
その姿を見た瞬間、俺は何故かあの夢の女の子を思い出した。
いつも夢の中で一緒に遊ぶ女の子。
その女の子は小学生くらいの幼い子で。
顔も名前も声も、何もわからない女の子と2人きりで、俺はいつも楽しそうに遊んでいる。
そして夢の最後で必ずその子と別れる。
寂しそうに手を振っている時や、はたまた引き裂かれるように別れる時。
別れ方はその時によるが、俺たちが別れることはいつも決まっている。
今目の前の佐倉さんは笑顔で手を振っていたのに、どうしてあの夢の女の子と重なったのだろう。
もう女子の輪の中に戻った佐倉さんを無心で見つめる。
──カシャン。
教室に響いた小さな音。
それが俺にだけは大きな音に聞こえた気がして、1人大袈裟に反応してしまった。
今の音の正体に、俺は自分の足元を見て気がついた。
「……洗ってくる」
1つため息をついてから重い腰を持ち上げ、落とした箸を片手に廊下へ出た。
その時、俺は後ろからのひとつの視線に気づかなかった。
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