良と不良

ろくえんさん

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ある日  英 聖良サイド

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ずっと、あなたが嫌いだった。

「次、この問題を……三谷。この答えは?」
「………」
「おい、三谷、聞いてるのか?」
「…あー、分かりません」
「全く…時間が無いな。じゃあ英、解いてくれ」
「分かりました、この答えは─」

三谷はずっとムスッとした顔で窓の外を見つめていた。ちらりと横目で見たところ、何故か私と目が合う。すると彼女は舌打ちをしてまた外を見た。一体何なんだ。

チャイムギリギリで終わった授業の後、私は早歩きで生徒会室へ向かう。あーあ、弁当一口も食べられなかった。どうせ今日はお手伝いさんじゃなくてあの母親が作ったものだから良いけど。

「…あ、英さんじゃん」

ひそひそ話を無視しつつ、足を早める。ロクなこと言われたものじゃない。けれどもそれは無意識のうちに耳に入ってくる。

「あの子鬱陶しいよね。良い子ぶってて」
「分かる~、誰にでもニコニコしてるし」
「優等生だからってさ…あの先生にもえこひいきされてるし」

言わせとけ、とは思う。なのにどうして、心を離れてくれることはなかった。どうせ私は外面が良いだけの薄っぺら。さっきだって、時間が無いからさっさと解ける私を選んだだけだし。…良い子ぶっているのは、本当のことだし。

薄ら笑いを浮かべながら、一日は勝手に過ぎて行く。帰りたくない家にいる時間を短くするため自習室へ寄ろうと席を立ったところで、誰かが声をかけてきた。

「おい英」

忌々しい声だった。

「…どうしたの、三谷さん」
「そのキモい笑顔止めろよ」
「…え?」

彼女はそれだけ言ってスタスタと教室を出て行った。三谷は時々こうして学校に気まぐれに来ては、私に適当に突っ掛かるだけ突っ掛かって帰ってゆく。訳が分からなかった。

私は腹を立てたが、とりあえず自習室に行くことにした。勉強していれば気は紛れる。…でも、夕暮れは近付いてくる。

「…ただいま」
「聖良!」

帰宅直後にそう叫ぶなり、母親は私を玄関に正座させた。…だから嫌だったのだ。

「この結果は何?どうして2番だったの?何で1位になれないの!?」
「ごめんなさい、お母さん、次は頑張るから」
「前もそう言ったわよね?何回失敗したか分かってるの?全く、お姉ちゃんはいつも1位だったのに…」

そして、散々怒鳴って泣いて喚き散らかして、やっと自室に戻って行った。私が部屋に帰ると、気まずそうにお手伝いさんが夕食を運んできた。

机の上には、母親が飾れと言った写真がある。幼い頃の私と姉……そして、後ろの方に三谷が写っていた。そう、この後に彼女は私に話しかけてきたのだ。

嗚呼、三谷はいつもそうだった。勝手に私に話しかけてきては嵐のように振り回して帰っていく。いつも自由で誰にも縛られなくて、自分自身を素直に表現できる女。

三谷……莉世のように、なりふり構わぬ不良に、私もなりたかった。
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