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目が醒めると自室だった。壁には無味無臭な白い壁紙。
鳴り響く目覚まし。ベッドから起き上がり、机の上にあるカレンダーを見てみると、僕の飛び降り未遂の三か月前に戻っていた。
下に降りて、朝食を食べながら見ていたテレビでも三か月前に戻っていた。隣町の強盗が多発していること。宝くじが今夜抽選されることなどどうでもいいニュースで世間は騒いでいた。僕はなるべく、挙動不審にならないようにいつもの登校時間に家を出た。

学校に着くと僕の席はピカピカのままだった。三か月前には無駄に早起きして落書きしているクラスの三軍がいるはずだから綺麗なことはないのに…
不思議に思っていると教室の扉が開かれた。
そこには、僕をいじめていた頃には全く見えなかった、女子特有の弱々しさがあった。表情は暗く、僕の事を明らかに避けていた。その女の子が座った席にはおびただしい数の落書き。机の上には、中学生が精一杯空っぽの脳味噌をひねり出して考えた、罵詈雑言が書いてある紙と、白い花が花瓶の中に載せてあった。
ここで僕はようやく気付いたのだ。女の子と立場が入れ替わり、過去に戻った事に。

彼女が学校に登校してまずする事は、机の掃除だった。
机の上に書かれた落書きに消しゴムをかけ、中に入っていたゴミをゴミ箱に捨てる。その行動の中に彼女の意志は見えず、機械のように従順に、無情に動く。
しかし、机の中のゴミを捨てている時に、生理的に不快な音が聞こえてきた。もちろん、教室の中の彼女の机からだ。彼女は、机の中に手を入れるのも面倒くさそうに机を横にした。知ってか知らないでか、机の上にあった花瓶も一緒に横に傾いた。もちろん花瓶ごときが重力に逆らえるわけがなく、地面に向かって落ちるところで僕の体は我慢できずに花瓶に向かって手を出していた。
結果的には花瓶をつかむことができたが机の中に入っていた生理的に不快な音を出していた元凶は教室に一斉に駆け出した。驚きながらも彼女はこちらを向きお互いに目を合わせた。眩しい朝日。元気にカサカサなる音。地面に向かって落ちる花と水。水が落ちる頃には互いに目を逸らした。彼女はどうにかして僕に感謝の気持ちを示そうとしているのだが、あたふたして言葉が出てこないらしい。この表情は僕をいじめていた頃には見られなかった表情だ。それでこそ、可愛げがあるものだ。そこで、彼女は不思議そうな表情を見せて話しかけてきた。
「なんで、いつも助けてくれないのにたすけてくれたの?」どうやら、完全には彼女と僕の立場は変わらなかったらしい。それはそれで便利だからいいのだけど…
「特に理由はないよ。」精一杯の優男を出してみたが背伸びした感が溢れ過ぎて自分が嫌になってきた。暫く顔を赤くしてから、自分の席に向かって歩き出すと彼女は僕の背中に向かってありがとうと一言いった。
こちらこそ、ごめんなさい。これから始まる学校という小さな社会の中では、君に関わることさえ拒絶するのだから。
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