32 / 44
第32話「これまでとそれからと」
しおりを挟む
「ううー、何やら私が眠っている間にそのように色々なことがあったのですね」
あれからクリスト達との決着をつけたオレ達は、その場で未だ混乱していたミーティアに対し、これまでの事を話した。
セルゲイ達との勝負の結果。
バズダルの真意。
そして、クリストという黒幕がいたこと。
先程の鬼ごっこの勝負の結果も踏まえて話し終えたところで、何やらミーティアは悔しそうな表情を浮かべて、そう呟いた。
「私も天士様のお役に立ちたかったのに、これじゃあお荷物じゃないですか~! 折角一緒についてきたのにいいところなしですよ~!」
そう言って涙目を浮かべるミーティアであるが、オレもリーシャもそのようなことは気にしていなかった。
「いや、そんなこと気にする必要はないよ。それよりもミーティアの身が無事で安心したよ。オレにとってはそれが一番重要だったからさ」
「天士様……」
オレのそのセリフにミーティアはキラキラとした瞳を向けて、祈るように両手を組む。
「あっ、ですがイノさんはこれからどうなさるのですか? 今回の件はクリストさんが自国に帰ったあと公表して裁きを待つようですし、そうなればイノさんの奴隷になった経緯も仕組まれたものと発覚し、国に戻れるのでは?」
ミーティアのその発言に対し、しかしイノは首を横に振る。
「いえ、父上が目覚めたのであれは、エルフ国の統治は当分は安心です。それに先程も言ったように仕組まれたものであったとしても今の私は天士様に仕える奴隷です」
そう言って先程と同じようにイノの腕がオレの腕に強く絡んでくる。
気のせいか、前よりもイノが積極的になってる気がする。
そんなことを思っていると、ミーティアも同じことを感じたのかジト目でイノを見つめる。
「……それってもしかしなくても、単に天士様と一緒にいたい口実なだけでは?」
ミーティアのそのセリフに対し、イノは笑顔を浮かべたままそっぽを向く。
どうにも図星っぽい、その行動にミーティアは思わず両手をブンブン振り回す。
「なっ、ず、ずるいですわよ! 天士様は私達のヒーローなんですから、そのような独り占めは許されませんわよ! それに私だってまだ腕を組んだことないのに、離れなさいー!」
「そうはおっしゃいましても……私のためにここまでしてくださった天士様に尽くさないのはエルフ族の名誉にも関わります。今後は天士様のお傍を離れることなく、その世話をずっとしていく所存です」
「いや、あの、別にそこまでする必要はないんだけど」
さすがにずっと傍にいられるのも疲れるので、ほどほどにしてくれと頼むが、興奮した様子のミーティアとの言い合いに忙しいようであった。
そんな二人のやり取りを眺めていたリーシャや呆れつつも、どこか微笑ましい笑みを浮かべていた。
「姫様も、イノも相変わらずだなー。けど、これでようやくいつもどおりかな」
そんなリーシャの台詞にオレも苦笑いを浮かべつつ、同意する。
「イノ様が天士様にお仕えするのでしたなら、我らの領土もそれに仕えるまで。天士殿。また何か困ったことがありましたら、ぜひ私の方を頼ってください」
「バズダルさん……。はい、ありがとうございます」
オレは差し出されたバズダルさんの手を握りながら、そう返す。
思えば、この人も最初に印象とは随分変わったものだ。
それに弱小国である人族にとって、バズダルさんのような協力をしてくれる領土の存在はありがたい。
いずれ、彼の力を借りることもあるかもしれないと思いながら、オレはバズダルさんとの握手を終える。
「天士……」
そして、そんなバズダルさんに仕えていたスポーツ選手であるセルゲイが何やら真剣な表情でこちらに近づいてきた。
「天士、よければ今後はオレもお前と同じチームで……いや、人族と一緒に戦わせてもらえないか?」
その思わぬ提案に対し、逆にオレの方が驚き息を呑んだ。
「そりゃ、オレからすれば願ってもないことだけど、お前の方はいいのか? お前が仕えているのはバズダルさんなんだろう?」
「バズダル殿からの了解はすでに得ている。お前に仕えることはイノ様に仕えることでもあると言ってな。それにオレ個人としては、お前と一緒に今後もスポーツをしていきたい。許されるならパートナーにして、もらえないだろうか……」
そう呟いたセルゲイは、後半恥ずかしさのために小声で呟いたが、それがセルゲイの本音であると気づき、オレは一も二もなく頷いた。
「勿論、大歓迎だせ。これからよろしくな」
そう言って差し出したオレの手をセルゲイは一瞬ためらったが、すぐに力強い握手を交わしてくれた。
「ミーティア姫も構わないかな?」
「もちろんですわ! ウォーレム族が仲間になってくれるなんて、私達人族にとってはこれ以上ない戦力ですわ!」
「まあ、オレの活躍の舞台がちょっと減りそうなのがあれだけど、いいんじゃねーか。けど、オレの方が先に天士のパートナーやってるんだからな。お前はオレの後輩だぞ、いいな!」
「わ、分かった……」
ミーティアもリーシャもそれぞれセルゲイを歓迎しながら、オレはそんな一同のやり取りを眺め、自然と笑みがこぼれていた。
やがて僅かな談笑の後、空から日が落ち始めた頃、オレ達はそれぞれの国へ帰る準備を始める。
後ろでは、鬼ごっこの舞台となった遺跡が夕日を背に美しく輝いており、その背後にはエルフ族の国である森が地平線を埋め尽くすほど広がっていた。
オレはその美しい光景を忘れないよう胸に刻み、そして、馬車に乗ると同時に告げる。
「それじゃあ、帰ろうか。人族王国ルグレシアに!」
『はい!』
皆の掛け声と共にオレ達はそれぞれの居場所へと戻っていった。
あれからクリスト達との決着をつけたオレ達は、その場で未だ混乱していたミーティアに対し、これまでの事を話した。
セルゲイ達との勝負の結果。
バズダルの真意。
そして、クリストという黒幕がいたこと。
先程の鬼ごっこの勝負の結果も踏まえて話し終えたところで、何やらミーティアは悔しそうな表情を浮かべて、そう呟いた。
「私も天士様のお役に立ちたかったのに、これじゃあお荷物じゃないですか~! 折角一緒についてきたのにいいところなしですよ~!」
そう言って涙目を浮かべるミーティアであるが、オレもリーシャもそのようなことは気にしていなかった。
「いや、そんなこと気にする必要はないよ。それよりもミーティアの身が無事で安心したよ。オレにとってはそれが一番重要だったからさ」
「天士様……」
オレのそのセリフにミーティアはキラキラとした瞳を向けて、祈るように両手を組む。
「あっ、ですがイノさんはこれからどうなさるのですか? 今回の件はクリストさんが自国に帰ったあと公表して裁きを待つようですし、そうなればイノさんの奴隷になった経緯も仕組まれたものと発覚し、国に戻れるのでは?」
ミーティアのその発言に対し、しかしイノは首を横に振る。
「いえ、父上が目覚めたのであれは、エルフ国の統治は当分は安心です。それに先程も言ったように仕組まれたものであったとしても今の私は天士様に仕える奴隷です」
そう言って先程と同じようにイノの腕がオレの腕に強く絡んでくる。
気のせいか、前よりもイノが積極的になってる気がする。
そんなことを思っていると、ミーティアも同じことを感じたのかジト目でイノを見つめる。
「……それってもしかしなくても、単に天士様と一緒にいたい口実なだけでは?」
ミーティアのそのセリフに対し、イノは笑顔を浮かべたままそっぽを向く。
どうにも図星っぽい、その行動にミーティアは思わず両手をブンブン振り回す。
「なっ、ず、ずるいですわよ! 天士様は私達のヒーローなんですから、そのような独り占めは許されませんわよ! それに私だってまだ腕を組んだことないのに、離れなさいー!」
「そうはおっしゃいましても……私のためにここまでしてくださった天士様に尽くさないのはエルフ族の名誉にも関わります。今後は天士様のお傍を離れることなく、その世話をずっとしていく所存です」
「いや、あの、別にそこまでする必要はないんだけど」
さすがにずっと傍にいられるのも疲れるので、ほどほどにしてくれと頼むが、興奮した様子のミーティアとの言い合いに忙しいようであった。
そんな二人のやり取りを眺めていたリーシャや呆れつつも、どこか微笑ましい笑みを浮かべていた。
「姫様も、イノも相変わらずだなー。けど、これでようやくいつもどおりかな」
そんなリーシャの台詞にオレも苦笑いを浮かべつつ、同意する。
「イノ様が天士様にお仕えするのでしたなら、我らの領土もそれに仕えるまで。天士殿。また何か困ったことがありましたら、ぜひ私の方を頼ってください」
「バズダルさん……。はい、ありがとうございます」
オレは差し出されたバズダルさんの手を握りながら、そう返す。
思えば、この人も最初に印象とは随分変わったものだ。
それに弱小国である人族にとって、バズダルさんのような協力をしてくれる領土の存在はありがたい。
いずれ、彼の力を借りることもあるかもしれないと思いながら、オレはバズダルさんとの握手を終える。
「天士……」
そして、そんなバズダルさんに仕えていたスポーツ選手であるセルゲイが何やら真剣な表情でこちらに近づいてきた。
「天士、よければ今後はオレもお前と同じチームで……いや、人族と一緒に戦わせてもらえないか?」
その思わぬ提案に対し、逆にオレの方が驚き息を呑んだ。
「そりゃ、オレからすれば願ってもないことだけど、お前の方はいいのか? お前が仕えているのはバズダルさんなんだろう?」
「バズダル殿からの了解はすでに得ている。お前に仕えることはイノ様に仕えることでもあると言ってな。それにオレ個人としては、お前と一緒に今後もスポーツをしていきたい。許されるならパートナーにして、もらえないだろうか……」
そう呟いたセルゲイは、後半恥ずかしさのために小声で呟いたが、それがセルゲイの本音であると気づき、オレは一も二もなく頷いた。
「勿論、大歓迎だせ。これからよろしくな」
そう言って差し出したオレの手をセルゲイは一瞬ためらったが、すぐに力強い握手を交わしてくれた。
「ミーティア姫も構わないかな?」
「もちろんですわ! ウォーレム族が仲間になってくれるなんて、私達人族にとってはこれ以上ない戦力ですわ!」
「まあ、オレの活躍の舞台がちょっと減りそうなのがあれだけど、いいんじゃねーか。けど、オレの方が先に天士のパートナーやってるんだからな。お前はオレの後輩だぞ、いいな!」
「わ、分かった……」
ミーティアもリーシャもそれぞれセルゲイを歓迎しながら、オレはそんな一同のやり取りを眺め、自然と笑みがこぼれていた。
やがて僅かな談笑の後、空から日が落ち始めた頃、オレ達はそれぞれの国へ帰る準備を始める。
後ろでは、鬼ごっこの舞台となった遺跡が夕日を背に美しく輝いており、その背後にはエルフ族の国である森が地平線を埋め尽くすほど広がっていた。
オレはその美しい光景を忘れないよう胸に刻み、そして、馬車に乗ると同時に告げる。
「それじゃあ、帰ろうか。人族王国ルグレシアに!」
『はい!』
皆の掛け声と共にオレ達はそれぞれの居場所へと戻っていった。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる