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22 あやかしの漫画家

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「あ、あやかし……。雪女って……き、君が?」

「……はい」

 佳祐からの確認に女性は申し訳なさそうに答える。
 それを見かねて女性は自らの名前を名乗る。

「……ごめんなさい。私の名前は白縫雪芽と言います。このマンションにはオーナーさんの好意で住まさせてもらっています……驚かせてすみません」

「ああ、いや、こちらこそ……」

 と相手の謝罪に対し、思わず頭を下げる佳祐であったが、その瞬間、相手が名乗った名前に思わず反応をする。

「って、ちょっと待って! 白縫雪芽!? 今、白縫雪芽って言いましたか!?」

「え? え、ええ、はい……。そ、その、私の名前がどうかしましたか……?」

 思わず叫んだ佳祐に雪芽は驚いたような顔を向けるが、佳祐もまさかと思い、しかしすぐさま頭を横に振る。

(いやいや、いくら同じ名前だからと言って目の前のこの人があの新人漫画家の白縫雪芽のはずがない……きっとたまたま偶然……)

 そう思う佳祐であったが、そんな偶然もあるかもしれないと頭の中で考え、恐る恐る目の前の女性に問いただすことにした。

「あ、あの、続けて変な質問をしますが……もしかして『月間アルファ』という雑誌で新連載をした新人漫画家の白縫雪芽さん……ですか?」

「えっ!?」

 佳祐がそう問いかけると雪芽は驚いたように口を開くと、すぐさま頷く。

「た、確かに私がその雪芽ですけれど……ど、どうしてあなたがそのことを知っているのですか?」

「あ、ああー。やっぱりそうでしたか……」

 思わぬ新人漫画家の正体に驚く佳祐。
 無論、その驚きには目の前の女性があやかしであることも含まれていた。

(まさか、あの新連載を勝ち取った漫画家が同じマンションに住んでて、しかもあやかしだなんて……なんの偶然だよこれは……)

 もはや何に驚けばいいのかよくわからない感情のまま苦笑いを浮かべ、佳祐は質問を続ける。

「その、あやかしが漫画家ってよくなれましたね……」

 無論、その質問に悪意はなく単純な疑問であったのだが、それを聞いた雪芽はなぜだか気まずそうに視線を逸らし答える。

「あっ、そ、その……実は私、ある人に憧れて……それで漫画家を目指そうと思って……」

「ある人?」

「は、はい……私が住んでいるところは雪山の奥で、すごく辺鄙な田舎なんです……。だから、そこでは町から届く漫画が楽しみで……中でもある漫画家さんの漫画がとてもお気に入りで……私もこの人みたいな漫画を描きたいと……たまたま応募した漫画が編集部に気に入られて……それでこっちに引っ越してきたんです。幸い、あやかしでも住居可能なマンションがここにあったので先日引っ越したばかりで……」

「そうだったんですか。それにしてもすごい行動力ですね」

「は、はい……私、いつかその漫画家さんとお会いするのが夢なので……」

「夢、か。あんな素敵な漫画を描けるんですから、あなたが憧れている漫画家さんってのはよっぽどすごい人なんですね」

「はい! 私、あの人のような漫画家を目指しているので!」

 佳祐からの質問に目を輝かせて答える雪芽。
 あやかしでありながらここまで漫画を好きになり、憧れた人に近づくため一生懸命な彼女を見れてば嫉妬心よりもむしろ応援したいという気持ちが佳祐の中に湧き上がる。

「そっか。それじゃあ、応援していますよ。あなたがその漫画家さんに会えることを。オレもこう見えて一応漫画家だから、あなたの苦しみとか連載を勝ち取るまでの苦労とかは分かるつもりですから」

「え、あなたも漫画家さんなのですか……?」

「ええ。と言っても全然売れてないマイナーな作家ですよ」

「……お名前、聞いてもよろしいでしょうか?」

「田村佳祐です。漫画描く際のペンネームも同じですから」

「えっ!?」

 佳祐が名前を告げると雪芽は驚いたような顔し、そのまま固まる。
 その姿に一瞬小首を傾げる佳祐であったが、外はすっかり日が落ちたのを確認し、そろそろ部屋に戻られなければと急ぐ。

「あ、それじゃあ、オレはもうそろそろと自分の部屋に戻らないといけないから。雪芽さんも連載頑張ってください。オレも同じ漫画家として応援していますから。それじゃあ」

「あっ――!」

 そう言ってエレベーターに乗り、立ち去る佳祐であったが、彼がエレベーターに乗った瞬間、雪芽がなにやら慌てた様子で手を伸ばすがそれがドアに届く前にエレベーターへ上へと向かい、佳祐は最後に見た雪芽の姿に僅かに疑問を感じるのであった。
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