上 下
25 / 45

第25話 街を比べよう①

しおりを挟む
「だいぶ成長したなー」

「ですね! これなら十分に首都と呼べるほどの発展ですよ! ご主人様!」

 あれから一ヶ月。
 オレやケルちゃん、アメジストは街やギルドの発展に協力しながら、様々な問題に対処して過ごした。
 そのかいもあってかギルド館はかなりの成長を行い、それに伴うように街も最初に出来上がった時よりも随分と成長した。
 主には店の品揃えや、新しく街の領土を広げ、家を建てたりなどだが、それよりも成長したのは街の住民。そして、ギルドのいる人々。
 まあ、このあたりはセバスとの街の見せ合いで披露するつもりだ。

「い、いよいよ約束の一ヶ月ですね。ご主人様」

「だな。少し緊張するぜ」

 隣ではオレ以上に緊張した様子のアメジストが武者震いを起こしているようであり、それとは対照的にケルちゃんは落ち着いた様子である。

「ケルは心配していません。ここまでご主人様や私達、それにご主人様が頑張ったんです。負ける要素はありません。それになによりもご主人様のあのアイデアは素晴らしいです!」

「ケルちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」

 笑顔でオレをヨイショしてくれるケルちゃんだが、その際はありがたい。
 さて、そろそろセバス達が戻ってくる頃合だ。
 まずはどちらの街の判定を先にするか、とここでオレは重大な見落としに気づいた。

「あっ」

「どうしたのですか? ご主人様」

 口を大きく開けたオレをアメジストが不思議そうな顔で覗く。

「いや、その、街を見せ合って評価するのはいいんだが……肝心のその勝敗を決定する審判役がいない」

『あっ』

 それには思わず二人も口を開ける。
 そうだ、しまった。

 街を見せ合い、どちらがより首都に相応しい発展を遂げている。
 これを評価するにはオレ達のどちらの陣営でもない第三者が必要なんだ。
 仮にここで監視塔の見張りをしているメイドに頼んだとしても、彼女達はやはりオレ寄りの審査になってしまう。

 しまったな。こういうことなら、以前この街を訪れたケインに留まってもらうべきだったか……。
 いや、彼は急いで国に戻らないといけないと言っていたから、どの道それは不可能だ。
 ならば、そのケインに会いに彼の国に行って、彼かあるいは全くの第三者に今回の判定をしてもらうか?

 なんとかいい打開策を探るオレであったが、しかし、その解決は意外なところから訪れる。

「ほっほっほっ、そういうことなら儂が審査をしよう」

「へっ?」

 突然聞こえた声に振り向くとそこには一人の老人の姿があった。

「久しぶりじゃな。トオルよ」

「神様!」

 そこにはオレを転生させてさせたくれたあの神様の姿があった。

「久しぶりですね。どうしたんですか? というか会いに来て大丈夫なんですか?」

 確か前に転生者がその世界に転移、転生してきたら、もう直接の干渉は出来ないとか言っていた気がするが。

「ほほっ、その件ならば大丈夫じゃ。今回は単に様子を見に来ただけで、お主のやっている事に干渉するつもりはない。ほれ、先ほど言っていたではないか。どちらの街がより優れていのか。それを審査するために降りてきただけじゃ」

「え、いいんですか!?」

「構わぬ構わぬ。どちらがいいか、判断するだけならば直接の干渉にはならぬ。それに儂ほど公平な審判もおるまい」

 確かに。
 神様という点を差し引いても、この人ならオレとセバス。どちらの街がより優れているか変な先入観もなく、決めてくれそうだ。
 これは思わぬ審判役が降りてくれて、オレとしてもありがたい。

 そうこうしているうちに向こうから人影がこちらに近づいて来るのが見える。
 あれはどうやらセバス達で間違いないようだ。

「お久しぶりです、主様」

「ああ、久しぶり。セバス」

 やはり、予想通りそれはセバス達であり、彼らはオレの姿を確認するやいなやすぐに頭を下げて挨拶する。
 その後、オレ達のすぐ傍にいる老人――神様を目にすると不思議そうな表情をする。

「主様。そちらの方は?」

「ああ、この人は神様。今回、オレとセバスのどちらの街がより優れているか、その判定のために降りてきてくれたんだ」

「なんと! 神、ですか!? こ、これは失礼いたしました」

「ほっほっほっ、気にするでない。儂も遊びで降りてきただけじゃ。それ以上のことをするつもりはない」

 畏まるセバスに対し、神様は必要ないとばかりに笑う。
 それにしても遊びに来たって……いやまあ、ある意味間違っていないか。
 そんなことを思いつつも、役者が揃い、これにて街の判定が行われることとなる。
 まず、どちらの街を先に判定するか。
 それを神様に決めてもらうべく、声をかける。

「そうじゃな。では、まずはそちらのセバスとやらの街から見てみようかの」

「かしこまりました」

 そう言って頭を下げるセバス。
 それじゃあ、早速移動しようかとしたその瞬間、

「お待ちください。移動なら、こちらにお乗りください」

 と、セバスが待ったをかける。
 一体何事かと訝しむと、地平線の向こうからこちらに近づく何かが見える。
 それが近づくにつれ、オレは思わず驚きに表情を変える。
 なぜならそれは馬や人といった小さなものではなく、もっと大きな、そして、巨大な鉄の塊であった。

「どうぞ、こちらの蒸気機関車にお乗りください」

 オレ達の眼前に現れたそれは横幅およそ数メートルほどだが、紛れもない蒸気機関車と呼べる列車のようなものであった。

◇  ◇  ◇

「ほお、機関車とな。お主の世界にも似たようなものがあったが、まさかそれをこの世界で再現するとはあの執事、なかなかやるみたいじゃのぉ」

「え、ええ、オレも驚いていますよ」

 あれから蒸気機関車に乗ったオレ達はそこに設置された座席に座り、平原を走る機関車の中で移り変わる窓の景色を眺めていた。
 機関車といっても中の大きさはバスくらいのもので、運べる人数はおよそ十数人といったところだろう。
 しかし、それでもオレ達を乗せるくらいなら十分なスペースであり、なにより速度も走るよりも圧倒的に早く平野を駆け、こうして何もせずに目的地までゆっくり出来るというのはすごい。
 まさかセバスがこんなものを開発していたとは。
 これだけでもすでにオレ達の上を行っているのではないかという焦りすら覚える。
 事実、ケルちゃんやアメジストも、目の前に現れたこれにはひどく驚き、今尚走るこの機関車の中でも落ち着かない様子で座席に座っている。

 ううむ、多少の予想はしてはいたがこれは完全に予想の上を行かれている。
 出鼻をくじかれる勢いになったが、それでもまだ負けたわけではない。
 実際にセバス達が作った街を見ないことには勝負にならない。

 そんなことを思っているオレにセバスの声が耳に入る。

「主様、皆さん。もうすぐ目的地につくようです」

 そのセバスの声に反応し、オレ達は思わず窓から身を乗り出し、機関車の先を見る。
 そこにはまさにオレ達の予想を上回る巨大な、そして、予想外の街の光景が広がっていた。

「あれが私が作った街。蒸気街セバトスになります」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...