上 下
1 / 1

日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。

しおりを挟む
 日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。

 俺が伝えたいのはそれだけである。

 さて、俺は社会人だ。それも冴えない独身男だ。
 社会人になって数年、会社にももう慣れ、仕事と仕事と仕事と仕事と、それだけをこなす日々が続いていた。
 誰がやっても変わり覚えのないような仕事をして、キーボードを叩いて、営業回りをして、 満員電車に乗って。
 何一つ輝くことのない、そんな毎日を送っていた。
「昔はよかった」
 そんな言葉が口をついて出るような、夢ない大人になっていた。入社したころにあった情熱も、大学生の頃にあった若さも、もうとっくに失っている。ただ上司に言われたことを、言われたようにするだけ。それ以上でも、それ以下でもなく、ただ平凡にただ普通に求められる事をその通りに行う。
 いつも思っていた。この仕事をするのは別に自分じゃなくてもいいと。たまたま自分がやっていただけだと。好きで入ったわけでもない会社で、やりたいことなんて特になく、ただ給料もらうために働いていた。
 そして、そうしているうちに給料の使い方も忘れていた。日々の鬱憤を晴らすため、酒を飲んだこともあったが、その飲み方では楽しめるはずもなく。使い道を失った。給料が通帳に重なっていくだけだった。
 何も楽しくなかった。何の趣味もなかった。何もすることがなかった。金の使い道もなく、時間の使い方も分からず、ただベッドで 横になって休日を過ごしていた。怠慢をタイマンとも思えず、日々の仕事で疲れた体を怠けさせるにも似たような姿で、休ませるだけだった。

 そんな時に、昔の同級生と会った。田舎に帰った時にたまたま会った友人は、高校の時から何も変わっていなかった。
 出会い頭、俺の腕を掴んでこういった。
「今期の戦隊もの最高だったと」
 この同級生は昔からこういうオタクだった。体を揺さぶられながら、「あーそうだっただ」と思いながら、俺のことなど気にも留めず、流れるようなマシンガントークを決められた。正直どうでもよかった。揺さぶられるのが気持ち悪いのでやめてほしかった。だが、 俺のそんな顔にも友人は喋った。しゃべってしゃべってしゃべった。あまりもうざくなって、近くの居酒屋に入って、仕方なく話を聞いてやった。ニコニコと笑いながら、 話の続きを話す友人は、やっぱり俺と違って何も変わっていなかった。その妙な寂しさだけが俺の胸に残って、話にも集中できなかった。2時間ほど話して 友人は俺に言った。

「ということで、来期の戦隊物見てね、感想聞くから」
「はあ?!」

 戦隊物が放送されるのは、九時半。そんな時間、俺は寝ている。社会人になって、そんな時間に起きたことなんてない。

「ムリだろ!」
「無理じゃないよ? 面白いから、楽しみでワクワクして起きちゃうよ?」
「お前じゃあるまいし、」
「大丈夫ー!」
 そういって、友人は伝表を持ち立ち上がる。
「感想のお代は先にもらっとくから!」
 そのまま、ルンルンとレジに向かった。
 友人からしてみれば、貸しを作ったつもりなのだろう。

 ……その代金は、お前のオタク話を聞いてやった代金なんだけどな。

「モーニングコールはいる?」
「いらねえよ!」

 そうやって、俺たちは別れた。

 もう一回言う。
 日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。

 やらないと(友人が)めんどくさいことになるので、起きた。

 9時半までには時間があるので、ベッドから降りた。顔を洗った。髭を剃った。まだ9時半はこない。
 トーストを焼いた。平行作業で洗濯を始めた。
 あと五分でテレビが始まる。
 椅子に座った。バターを塗った。かじった。テレビが始まった。手元からパンが無くなった。テレビが終わった。電源を切った。

 今は10時だ。
 ……10時だ。今日が終わるまで、あと14時間もある。いつも、1時頃まで寝てる俺からしたら、驚きすぎる。やることがなさすぎる。

 スマホが鳴った。あの友人からだった。朝から元気なやつだ。
 仕方がない。出てやろう。話を聞いてやる。ついでに、戦隊物の過去作のおすすめを聞いてやろう。

 まだ、10時。残念なことに、時間はある。

 近くのレンタルビデオ屋の開店時間が思い出せないまま、スエットを脱ぎだして、着信ボタンを押す。

「おい、暇だから、おすすめのシリーズ教えろよ」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...