6 / 15
第1章 大聖女は宰相をまだ信じない
第6話 こうして大聖女は監禁される
しおりを挟む
「保護って、保護って何よ!!」
「貴方は、貴方自身が救われようと考えていませんから。生きようとしてない貴方を死なせないのは困難だと、改めて認知しました」
どうやら私の笑みは、セオドアの決意を新たにしてしまったらしい。
「限られた情報だけを与えられ、偏った行動を強いられ、喜んで死ににいくように洗脳された。教会の醜悪さは調べがついています」
「教会はいつだって正しい。あんたが陰険なだけ!」
あることないこと、宰相はいつもネチネチ追求してくる。
教会は間違わない。教会は神の意志を代行するのだから。
「そういうところですよ、大聖女ルチア。僕は……やっぱり貴方が憎い」
憎いと言われたのに、……私は安心した。それは今まで何度も向けられたことがある、見知った感情だったから。
どの口が愛してるとか言うんだと、怒ることができるから。
「僕の想いを理解せず、振るどころか受け取ることもしない。そんなことされたら、諦められないじゃないですか。この執念に似た愛をどうしろと言うんですか。そうやって行き場がなくなった激情が、この監禁を引き起こしている」
宰相が、私の頬にかかった髪をそっと払う。そのまま輪郭をつぅとなぞられる。
ここにいるのだと、存在を確かめられているようだった。
「頭では貴方をそう歪めた教皇を恨むべきだと弁別しているのに、貴方を恨まずにいられない」
優しい指先とは裏腹に、表情は硬く険しかった。
「どうしてそんなに……私のことを考えるの……?」
「…………さあ。どうしてでしょうね。初めて会った時から、ずっと嫌いですよ。ずっとずっと憎たらしい」
セオドアが自分を嘲るように笑った。
なのに、と吐息がくすぐったい。
「愛しています、ルチア」
怖いぐらい、真剣な目だった。
シーツが柔らかくまとわりついて、私を逃がさない。こいつの告白を聞くしかない。
「貴方の生命を守るためなら、貴方の尊い意思を踏み躙るぐらいに」
食べられると思うぐらい、私だけを見ていた。
聞きたくないのに、目が離せなかった。こんなにセオドアを見つめたことはなかった。
宰相は、こんな風に感情をあらわにするんだ。
知らなかった一面を発見して、私は言葉を失う。
部屋の静けさで、耳が痛い。
長く見つめあっていたが、やがて宰相は諦めたように身を起こした。
「……教会に囚われる貴方だ」
悲しそうな、寂しそうな、それでいてどこか喜んでいるような。
そんな不思議な色を瞳に宿して、宣言する。
「僕に囚われたって変わらないでしょう」
それが最後の言葉で、セオドアは私を拘束したまま部屋を出ていった。
「貴方は、貴方自身が救われようと考えていませんから。生きようとしてない貴方を死なせないのは困難だと、改めて認知しました」
どうやら私の笑みは、セオドアの決意を新たにしてしまったらしい。
「限られた情報だけを与えられ、偏った行動を強いられ、喜んで死ににいくように洗脳された。教会の醜悪さは調べがついています」
「教会はいつだって正しい。あんたが陰険なだけ!」
あることないこと、宰相はいつもネチネチ追求してくる。
教会は間違わない。教会は神の意志を代行するのだから。
「そういうところですよ、大聖女ルチア。僕は……やっぱり貴方が憎い」
憎いと言われたのに、……私は安心した。それは今まで何度も向けられたことがある、見知った感情だったから。
どの口が愛してるとか言うんだと、怒ることができるから。
「僕の想いを理解せず、振るどころか受け取ることもしない。そんなことされたら、諦められないじゃないですか。この執念に似た愛をどうしろと言うんですか。そうやって行き場がなくなった激情が、この監禁を引き起こしている」
宰相が、私の頬にかかった髪をそっと払う。そのまま輪郭をつぅとなぞられる。
ここにいるのだと、存在を確かめられているようだった。
「頭では貴方をそう歪めた教皇を恨むべきだと弁別しているのに、貴方を恨まずにいられない」
優しい指先とは裏腹に、表情は硬く険しかった。
「どうしてそんなに……私のことを考えるの……?」
「…………さあ。どうしてでしょうね。初めて会った時から、ずっと嫌いですよ。ずっとずっと憎たらしい」
セオドアが自分を嘲るように笑った。
なのに、と吐息がくすぐったい。
「愛しています、ルチア」
怖いぐらい、真剣な目だった。
シーツが柔らかくまとわりついて、私を逃がさない。こいつの告白を聞くしかない。
「貴方の生命を守るためなら、貴方の尊い意思を踏み躙るぐらいに」
食べられると思うぐらい、私だけを見ていた。
聞きたくないのに、目が離せなかった。こんなにセオドアを見つめたことはなかった。
宰相は、こんな風に感情をあらわにするんだ。
知らなかった一面を発見して、私は言葉を失う。
部屋の静けさで、耳が痛い。
長く見つめあっていたが、やがて宰相は諦めたように身を起こした。
「……教会に囚われる貴方だ」
悲しそうな、寂しそうな、それでいてどこか喜んでいるような。
そんな不思議な色を瞳に宿して、宣言する。
「僕に囚われたって変わらないでしょう」
それが最後の言葉で、セオドアは私を拘束したまま部屋を出ていった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
英雄の元婚約者は魔塔で怠惰に暮らしたいだけ。
氷雨そら
恋愛
魔塔で怠惰に暮らしているエレノアは、王国では魔女と呼ばれている魔塔の長。
だが、そのダラダラとした生活は、突然終わりを告げる。
戦地から英雄として帰還した元婚約者のせいで。
「え? 婚約破棄されてなかった?」
連れ去られたエレノアは、怠惰な部屋で溺愛される。本人はそのことに気が付かないけれど。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる