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執念深い村の守り神に魂全てを捧げて永遠に共に生きる

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……ん……?

ああ……、帰ってきてしまったのか、少年。

なに? もう、そんな歳ではない? 私からすれば、少年はいつまでも童と変わらないがな。

「見くびらないでほしい」、か。確かに背丈は10寸ぐらい伸びたか? だが、そんなもの誤差だろう。

見下ろしたときに見えるつむじが、少々近づいた程度。少年はいつだって、可愛らしいものだ。

ああ、すまない、すまない。懐かしい顔を見たせいで、つい軽口を叩いてしまう。何しろ、わたしはこの二十年、退屈でたまらなかったからな。

ああ、からかいがいのある、小さな男子おのこが村を出てしまったおかげで。

なぁに、黙ってくれるな。わたしを楽しませてくれるな、少年。

『……世間はハロウィンで盛り上がってるのに、この村は静かだ』だと?

なんだ。異郷の祭りなど、わたしは知らん。また、その小さな板の話題か?

そんな小道具で知り得ることなどたかが知れているというのに。人はそんなものを有難がって……、分からんな。

わたしなら、もっと正しい“モノ”を視せてやれるというのに。

それとも、なにかぁ? よその神でも祀り上げる気か?

わざわざわたしの前に姿をあらわして、そんな愚かしい振る舞いをするとは、命知らず、なんて言葉でくくれないがな。

…………ふふっ、まったく。すぐ青くなる臆病さは、微塵も変わっていないじゃないか。

はは、神の戯言だ。小童一人の言葉に機嫌を損ねるほど、器が小さいわけもあるまい。

わたしは、この村の守り神なのだから。

知っているだろう、この神は失言は一度までなら赦してくれると。

さて、少年。

少年で遊ぶのも大概にしてやろうじゃないか。

この寂れた村に、今更になって帰省とは、一体なんの心変わりだ?

言い分をきいてやろう。

あの夜、両親と一緒に泣きじゃくって、命からがら逃げ出したことを忘れたわけではあるまいな。

ああ、わたしはよぉく覚えているよ。

少年がわななかせる唇の赤さも、まぁるい頬に流れた涙の青さも、落っこちそうなほどの見開いた瞳の黒さも。

後悔しているのだろう? 取り消したいのだろう?

あの日の、あの求婚を。

なぁ、うっかり、わたしに永遠を誓った愚か者の少年。

わたしは少年の真名なまえを知っているし、神たる目からはどこへ逃げても逃れられることはない。

そう震えてくれるな、話の途中だと言うのに虐めたくなるだろう。

学習しない少年だ。

あの夜は、せっかく逃がしてやったというのに。

言っただろう。

次、わたしの爪が届くところにやって来たら、もう離してやれない、と。

にもかかわらず、少年は再び、この地を踏んだ。

その意味が分からぬほど、蒙昧であるまい?

愚か者であっただけではなく、命知らずでもあったのか。どんな心境の変化だ。

私が滅びるまで、少年は逃げ延びるつもりであったのでは?

神でなかろうと、童でも理解わかる。

この村はもはや、百年も保たぬだろう。

人の子は減るばかり、草木は生気を失い、信仰はほとんど失われた。

大人は歳をとり土に還り、子供は歳を経て町に行く。

どちらも、この村に帰ってこないという意味では同じだ。

この身を支えるのは、人の息吹。

元より祠のそば、村のなかまでしか動けぬ身だが、神とて不便なものだ。

笑うところだぞ、少年。

こんな死にかけの風体といえど、まだ私は土地神。

少年一人を隠すほど、造作もない。

それに恐怖するならば、踵を返せ。泣き喚いて逃げ出すがいい。

少年の怯える顔を、そして僅かばかりの成長を目撃して、私が面白がっているうちに、な。

…………なぜ、逃げない。

……………………なぜ、私の眼前まで歩む。

神を恐れよ、畏怖せよ、膝を折り、叩頭せよ。

近付くな。近づくな、少年。

その意味を理解しているのか、それがどんな結末を呼ぶのか、判別できぬほどの齢ではあるまい。

なのに、……なのに…………。

…………そうか、少年。
 
そう、なのか、……しょうねん……。

最後に、一緒にいてくれるのか。

村人がじきに絶える土地神の、この化け物の傍にいることを選ぶのか。

……愚かな、卑しい……人の子……。

何も手に入れられないと、何かを手にできるわけではない。

この惨状を見れば、益がないことは明白だというのに。

……そうか、これが、……これが、歓び、なのだろうな。

ふたたび、……そのすがたを、目にすることができるとは、思っていなかったんだ。

存在(い)きていて、よかった。

しょうねん、……少年。

ああ、愛している。

私の少年、…………いや、もうこの呼び方もよそうか。

なんだ、それも不服なのか?

いやはや、気持ちは解る。私もこの呼び名を……気に入っていたからな。

ならば、ちこうよれ。この祠の元まで、歩を進めよ。

……いい子だ、少年。

相も変わらず、小さき体躯だな。私の腕の中に捕らえてしまえる。

さて、次、目覚めたときは私の肚の中。

そのときに、君の真名を呼んでやる。

喜べ、その耳に注ぎ込んで、神の吐息を受けるといい。

その身を縛り付けて、魂すら抱き締めてやろう。

これで現世に左様なら。

人として最後の呼吸を噛み締めるといい。

この世が朽ち果てるまで共に……愛しい、私の少年。



◆クレジット例
真己
「【男性向けシチュボ】執念深い村の守り神に魂全てを捧げて永遠に共に生きる【フリー台本】」
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