上 下
67 / 101
第5章 地下都市編

第67話 地下都市ソドム

しおりを挟む
「もう一度確認するが、本当に良いんだな? 一度進むと引き返す事はできないぞ?」

 木で作られた簡素な椅子に腰掛けながら上目遣いで、地下都市へと続くリフトの守り人となっている男はしつこく俺に聞いてきた。
 守り人は顔に皺を刻んだ小柄な老人だった。

 地下都市の中では地上世界のいかなる法も適用されない無法地帯であるという事。
 冒険者ギルドは地下世界には存在せず、地上世界のいかなる冒険者ランク、称号も地下世界では全く意味を為さない事。
 地下から地上に上がるには高額な通行証が必要になる為、一度地下に堕ちるとほとんどの人間がその後の一生を地下世界で生きる事になる事。
 地下世界に行くのは借金などの金銭的な困難が主な理由がほとんどで、望んで地下世界に行く人間はまずいないという事。
 地下世界に降り立った瞬間に身ぐるみを剥がされて、その後の一生を地下世界で過ごすはめになる可能性が非常に高い事。
 弱肉強食で弱いものは容赦なく食われる世界であるという事。

 以上の説明を老人から受けている。
 もちろんそれを俺たち全員で同意の上で、地下世界への移動希望であった。
 エヴァとミミに至ってはその顔に好奇の色が伺え、ワクワクすらしているようだ。
 一方ソーニャはなぜかその表情にどこか陰があるように感じる。

「ああ、構わない。すべて自己責任で。地下まで送ってくれ」
「……分かった、それじゃリフトに全員乗ってくれ」

 俺たちが全員リフトに乗り込むと、

「それじゃあここが地獄の入り口、この先がこの世の地獄だ。地獄の旅を精々楽しめ」

 守り人はガチャっとおそらく発進装置であろうレバーを下げるとリフトは下降を始めた。
 細かな振動を伴いながらリフトが下降を始めてから数百メートル程だろうか。
 地下世界は俺たちの眼下にその姿を顕にした。

 幾層にも重なり合った建物群。
 その建物の一つ一つは乱雑でまるで規則性がない。
 下の地面を確認してみると数百メートルも下に人々の姿が道行く人々の姿は豆粒のように見える。
 地下の天井は相当高く、その天井まで無秩序に建物は幾層にも折り重なるにように建ち並んでいる。

 建物群は通路で繋がっているものもあれば繋がっていないものもある。
 何かの宣伝用であろうか、蛍光を放っている看板もいくつか散見された。
 全体的に薄暗く、露店や商店などが立ち並んでいる地上部分以外では、おそらく魔導技術の発光で控えめな灯りがぽつりぽつりと地下世界を灯していた。
 永き時を経て形作られてきたのだろうか都市を形成する建物一つ一つはどれも古い物であるように感じられた。
 地上世界では今まで見たことがない、どこか現実感がなく、別の次元の空間に迷い込んでしまったかと錯覚してしまうほどのその光景に圧倒される。

 地下の底の地面にリフトが降り立ち、その扉が開かれる。
 リフト前はそこはちょっとした広場になっており、広場の先に大きめの道路が走っていた。
 広場には何やら何十人かの人だかりができている。

「ようこそ、ソドムへ! 咎人でない一般人の子羊の群れが降りてくると聞いて、半信半疑だったがまさか本当だったとはな」

 その場に集まった男たちの中の一人。
 頭をスキンヘッドに剃り上げ、その頭皮へ入れ墨を入れた男がそう述べる。
 他の男たちはどいつもこいつも狼が舌なめずりをするような表情でニヤニヤと俺たちの方を見ている。

「おい、早い者勝ちだろうな」
「ああ、早い者勝ちだ。攫う人間にもう当たりをつけたか?」

 スキンヘッドの男にやたらと横幅の大きい巨体の男が尋ねる。

「擦れてなさそうな地上の女。たまらねえなあ、たっぷりと楽しんだ後に売り飛ばしてやるぜ」
「エルフに、もう一人は魔族、それに人間の女か。俺たちはエルフをもらうぞ」

 集まった男たちは円環上に徐々に俺たちとの間合いを詰めてくる。

「念の為、殺さないように手加減してな」

 俺はそう述べながら鞘から抜かずに妖精王の剣を腰から取り出す。
 ソーニャは短剣を抜き、ミミはナックルガードを拳にはめた。

「………………」

 男たちは俺に対して虚をつかれたような驚愕の表情を向け、そして、お互いに確認し合うように顔を見合わせた後に――

「ギャーーハッハッハッ!」

 弾かれたように盛大な笑い声が巻き起こった。

「おい、手加減してくれるらしいぜ、こいつらよぉ!」
「お手柔らかに頼むぜ、お坊っちゃんよぅ!」

 腹を抱えて笑っている。
 笑いすぎて目から涙を流している男も中にはいた。

 少年に女たちの集団。
 表面上の情報だけでしか敵の戦力分析ができないようであれば、きっとそういう認識になるのだろうが。
 やれやれ、と俺は一つため息を吐く。
 毎度の事であるがこういう輩には分からせる必要がある。

 ミミとソーニャとエヴァ、それぞれと視線を交わし頷く。
 俺たちはそれぞれ周りを取り囲んだ敵に対して、一歩踏み出し戦闘が始まる事になった。



「お前たちはソドムでどれくらいの実力?」

 ミミが尋ねる。男たちは正座して一直線上に並べられていた。
 広場の先にちらほら見える通行人たちからは、正座して並べられた男たちは奇異の目で見られていた。

「最底辺のグループで組織と呼ばれる程の力はないです。たまたま地上から来訪者が来るって情報が入って。それが少年と女の集団だって聞いたんで……」
「一目みるだけでどれくらいの実力差があるかわかるじゃろうが。全くランスの顔を立てなければお前ら皆殺しじゃぞ」

 エヴァが中腰で屈みながら男たちに向かって物騒な言葉を投げかける。

「とりあえず持ち金をすべてミミに出せ」

 男たちはそれぞれポケットに手を突っ込んだり、財布から金銭を取り出してミミにそれを差し出す。

「よし、ジャンプしろ」
「ジャ、ジャンプ……?」
「まだ、小銭を隠しているやつがいないか確認する。その場にジャンプしろ」
「………………」

 男たちはお互いに顔を見合わせながらジャンブをする。
 するとチャリンという硬貨が擦れ合う音が一人の男から聞こえたと思うと――

 ドゴォオーーーーーンッ!

 ミミの強烈な拳がその男の腹部に突き刺さり、吹っ飛ぶ。

「ん」

 ミミは再度、手の平を前に差し出す。
 顔を青くした男たちから隠し持っていた所持金がその手に差し出される。

「まあ、今日はこれくらいで勘弁してやる。ランス、この後どうする?」

 散々痛めつけて満足したようでミミたちは俺の方へ向き直る。
 今度は俺が一歩前に出て、男たちに向き合い、

「とりあえず宿の場所と……後、情報提供を受けられるような場所があれば教えてほしい」

 男たちはこれで解放されると思ったのかホッとした表情で俺に素直に情報提供をしてくれた。
 その後、しばらくの拠点となる宿にそれぞれ個室を確保した後、情報交換の場として使われているという酒場まで向かった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...