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第4章 帝国編

第58話 裏切り

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「…………なぜ、分かった?」

 リバーシのその手には腰に吊り下げていたはずの剣が握られ、ランスの剣とその鈍色の剣身を互いに重ね合わせている。

「これという決め手は…………特にはない。だが最初から怪しむ視点は持っていたぞ」

 王子フィリドはその目を細めながら空いたグラスに再度シャンパンを流し込む。
 そしてそのグラスに注がれたシャンパンの無数の気泡を眺めながら。

「元帝国騎士団長。そんな優秀な人間がなぜ無能で怠惰の噂の高い第7王子の元へ来る? その時点でおかしい。次は件のブルックスへの討伐命令だ。確かに暗黒世界になり今まで何も行動していなかった俺が、世界を憂い行動し始めたのは奇異に写った可能性はある。しかし、宰相目線で脅威に感じる程ではなかったはずだ。それなのにも関わらず強引に死刑宣告とも取れる討伐命令が出される。それは俺という人間の人となり、隠していた能力を正確に把握できる人間から、宰相側に情報が流れたとしか仮説立てができない。そして、その可能性を勘案した時に最も可能性が高いのは、側近で俺の能力を正確に把握できる立場にあった、お前という事になる」

 王子はグラスのシャンパンを一気に喉に流し込み、炭酸が効いたのか渋い顔をした。

「討伐命令は俺に取っては実は僥倖だったのだ。側近のお前が敵であった場合、暗殺という手段を取られると俺にはそれを防ぎようがない。よって、第三者の強者の確保が必要不可欠であったが、俺が独自に動くと暗殺を誘発する恐れがあった。まあ、ランスという人材が来てくれたのは幸運というしかないがな」
「ふふふ…………だから、殿下をすぐにでも消そうと、働きかけていたんですがね」
「おそらく、スコッドはお前という人材を、なるべく近場に置いておきたかったんだろうな。王子暗殺という自体になった場合、その関係者がそのまま、王宮のなんらかの実務で残るという事は考えにくからな」

 リバーシはその剣を鞘に収めた。

「一つ、聞いていいか?」
「なんなりと」
「……理由は?」
「…………金ですよ、それ以外にありますか?」
「……衛兵!」

 王子のその呼びかけに部屋の外で見張りをしている衛兵が執務室に入ってきた。

「お呼びでしょうか殿下!」
「リバーシを拘束して投獄しろ!」
「えっ!? リバーシ様を……ですか……?」
「俺の……暗殺未遂だ」
「!?………御意に」

 リバーシは衛兵にその両腕を掴まれて連れられていった。

「……おそらく、金というのは嘘だな……」
「何かそう判断する理由が?」
「勘だ。だから何も根拠はない。いや、もしかしたら、あいつに情が移ってそう思いたいだけなのかもしれんが……。後で念の為、調べさせよう」

 王子フィリドは少し寂しげに見えるような横顔を俺に見せた。
 部屋には置かれたそのシャンパンから気泡が勢い弱く、そして人知れず消え去っていっていた。

 こうして王子は宰相とそして、身近な脅威を排除し、そして統治局の監督権を有した王子の権力基盤は、ある程度は固まったと言ってもいい状況となる。



 宰相の逃亡。
 それから半日後、夜になって宿でのんびりしていた俺たちの下にその報が届いた。
 王子は警備に激怒したらしい。それはそうだろう。
 帝国にとっても怨敵と言っていいような存在だ。
 宰相は一体どこに逃げたのか。
 明朝に早速、俺たちは王子と会う予定となった。



「おそらく逃亡先は光の教団だ」

 王子は険しい表情で報告書を眺めている。

「これを見てみろ。光の教団に対する懸念は上がっていたが、すべて宰相によって途中で握り潰されている。なんらかの関わりがあったと見るのが妥当だろう。逃亡の足取りを追った所、方角的には光の教団、本部がある方角に向かっている」
「でも一体なんの関わりが? それに光の教団とは一体なんなのですか?」
「それはまだ正直はっきりした事は分からん。光の教団は暗黒世界後に理想郷を謳い、家や家族を失ったものや、収入を絶たれた世界中の人々を救済の名の元に集めて急速に勢力を伸ばしてきた宗教団体。その内部実体、教義の詳細について詳しい事は分かっておらん」
「女神アテネからは光の教団は、【光の】っと名乗ってははいるが、実際には闇の神を信望している教団との事でした。それにもう一つの闇の塔も光の教団の本拠地の近くにあるはずです」
「なんだと!? ……それが事実なら実に厄介だぞ。信徒を盾に、または、信徒を兵に使われたらかなり厳しい戦いになる。すぐに対策会議を招集する! ランス、情報提供感謝する」

 その会議の後、一旦情報収集を進めて、どう出るかはそれから決めるという事となった。
 しかし、光の教団の本部がある北西のアムール地方では、着々と闇の勢力の拡大は秘密裏に進行されていたのだった。
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