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第2章 魔術書争奪編
第19話 エデンバラ王都
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「おい! お前、通行証を出せ」
エデンバラ王都への通行門。
大人が何人も縦に入りそうな巨大さだ。
通行門左右のその高い城壁は、目視で確認できないほど遥か遠くまで続いている。
「これ、通行証」
俺はクリスティンに言われていた通行証を警備兵に手渡し、自分の何倍もありそうなその巨大な通行門をくぐる。
しばらく歩いた先に見知った顔が待ち構えていた。
「遅かったわね。問題なく通れたでしょ」
「ああ、問題なかったよ」
クリスティンは、その豪奢な馬車の中から話しかけてくる。
その傍には執事のハーバードもいた。
「じゃあ、ついて来て。王都の邸宅に向かうわ」
クリスティンは、どうやら王都に邸宅を持っているらしい。
というか、元々王都出身だったらしい。
都落ちをして、カラカス地方に流れてきたのか。
その辺りの事情は、後で教えてくれるらしかった。
クリスティンを乗せた馬車が進んでいき、俺たちはそれについて行く。
「ここよ! 懐かしき我が故郷」
馬車を止めて降りてきた、クリスティンが話す。
彼女の目の前には、周辺の屋敷に比べても一際大きな屋敷が建っている。
部屋は20くらいあるだろうか。
そして広い庭。庭だけでそこらへんの屋敷なら2、3軒は建ちそうだ。
手入れは、行き届いているとは言い難く、今は雑草が生い茂っている。
屋敷も、誰も住んでいなかったのだろう、少し傷んでしまっているように見えた。
「使用人には前もって入ってもらってるから、中は外に比べたらマシなはずよ。さあ、みんな入って」
屋敷中央の大扉から玄関を入る。
そこは2階まで吹き抜けになる、広い空間が広がっていた。
入って正面には、高価そうな装飾が施された鎧。
壁には絵画が飾られ、玄関から向かって奥には、2階へ登る階段に赤い絨毯を敷き詰められてあった。
クリスティンの言葉通り、屋敷内は外の様子と比べるとずいぶんきれいだ。
きっと使用人さんたちが、頑張って掃除してくれたんだろう。
「じゃあ、執務室は2階になるから、ついてきて」
俺たちは、クリスティンについて、赤絨毯のその階段を上がり。
2階のある一室へと入っていった。
執務を行うであろう、大きな机とその後方に本棚。
そしてその前方には、客用であろうソファーがあり、俺たちはそこに通される。
クリスティンは、その執務机とそして、大きな椅子、本棚などを懐かしむように手でなぞっている。
俺はクリスティンのその仕草から、ここは何かしら彼女にとって、何か特別な場所であるような気がした。
「幼い頃、よくここに忍び込んでお父様に怒られたわ。幼い私にとってここは秘密基地のような場所であり、お父様の執務への好奇の場所でもあった……」
クリスティンは本棚に立てかけられていた、小さな肖像画を眺めている。
彼女の両親だろうか。
「みんな私に初めて会った時、こんな小娘が公爵家の当主ってびっくりしたでしょ。もちろんそれには理由があるの。それについてこれから話すわ」
クリスティンはそう言うとその大きな椅子にもたれかかり、彼女の身の上と、マクルーハン家の悲劇について話を始めた。
「そうあれは私がまだ6歳の頃だった」
◇
ドキドキ。ドキドキ。
執務室の机の下に潜んでいる。
もう少ししたら、お父様が帰って執務室にやってくるはず。
そうしたら、ばっと出て、驚かせてやるんだ。
「お嬢様ー! お嬢様ー!」
クリスティンを呼ぶ大きな声。
あの声はきっと執事のハーバードだろう。
もう、せっかく隠れてるのに邪魔しないで!
とも思うが、あんな大きな声で呼ばれるのも珍しい。
何かあったのだろうか?
クリスティンは少し不安になる。
「お嬢様ー!」
ハーバードは、遂に執務室の中にも入ってきた。
「お嬢様、旦那様と奥様が…………いないか」
お父様とお母様が?
何かあったの?
「ハーバード、お父様とお母様がどうしたの?」
クリスティンは机からひょこっと顔を出す。
ハーバードは一瞬、驚いた表情をしたが、すぐにクリスティンに駆け寄り。
「お父様とお母様が襲われました」
襲われました? 誰に? どこで? どうして?
クリスティンには次々に疑問が浮かぶが。
一番重要な疑問が最後に浮かび、そしてそれをハーバードに尋ねる。
「お父様とお母様は無事なの」
「………………」
ハーバードは沈痛な表情をして、その質問に答えない。
えっ? 嘘でしょ? 今日、朝みんなでお食事して。
ちょっと用事があるからって、二人で外出して。
お父様は帰ってからも仕事しなきゃいけないって。
「お二人ともお亡くなりになりました」
それを聞いた直後の記憶は、クリスティンにはない。
泣き叫んだか。あるいは、頭が真っ白になり、何も考えられなくなったか。
今もってそれを思い出せないのは、おそらくそれが、余りに辛いトラウマだからであろう。
それから葬儀自体の記憶も、クリスティンには朧げにしかなかった。
よってランスたちにそれを伝えることはできない。
クリスティンが、鮮明に覚えているのは両親の葬儀の後の事だった。
エデンバラ王都への通行門。
大人が何人も縦に入りそうな巨大さだ。
通行門左右のその高い城壁は、目視で確認できないほど遥か遠くまで続いている。
「これ、通行証」
俺はクリスティンに言われていた通行証を警備兵に手渡し、自分の何倍もありそうなその巨大な通行門をくぐる。
しばらく歩いた先に見知った顔が待ち構えていた。
「遅かったわね。問題なく通れたでしょ」
「ああ、問題なかったよ」
クリスティンは、その豪奢な馬車の中から話しかけてくる。
その傍には執事のハーバードもいた。
「じゃあ、ついて来て。王都の邸宅に向かうわ」
クリスティンは、どうやら王都に邸宅を持っているらしい。
というか、元々王都出身だったらしい。
都落ちをして、カラカス地方に流れてきたのか。
その辺りの事情は、後で教えてくれるらしかった。
クリスティンを乗せた馬車が進んでいき、俺たちはそれについて行く。
「ここよ! 懐かしき我が故郷」
馬車を止めて降りてきた、クリスティンが話す。
彼女の目の前には、周辺の屋敷に比べても一際大きな屋敷が建っている。
部屋は20くらいあるだろうか。
そして広い庭。庭だけでそこらへんの屋敷なら2、3軒は建ちそうだ。
手入れは、行き届いているとは言い難く、今は雑草が生い茂っている。
屋敷も、誰も住んでいなかったのだろう、少し傷んでしまっているように見えた。
「使用人には前もって入ってもらってるから、中は外に比べたらマシなはずよ。さあ、みんな入って」
屋敷中央の大扉から玄関を入る。
そこは2階まで吹き抜けになる、広い空間が広がっていた。
入って正面には、高価そうな装飾が施された鎧。
壁には絵画が飾られ、玄関から向かって奥には、2階へ登る階段に赤い絨毯を敷き詰められてあった。
クリスティンの言葉通り、屋敷内は外の様子と比べるとずいぶんきれいだ。
きっと使用人さんたちが、頑張って掃除してくれたんだろう。
「じゃあ、執務室は2階になるから、ついてきて」
俺たちは、クリスティンについて、赤絨毯のその階段を上がり。
2階のある一室へと入っていった。
執務を行うであろう、大きな机とその後方に本棚。
そしてその前方には、客用であろうソファーがあり、俺たちはそこに通される。
クリスティンは、その執務机とそして、大きな椅子、本棚などを懐かしむように手でなぞっている。
俺はクリスティンのその仕草から、ここは何かしら彼女にとって、何か特別な場所であるような気がした。
「幼い頃、よくここに忍び込んでお父様に怒られたわ。幼い私にとってここは秘密基地のような場所であり、お父様の執務への好奇の場所でもあった……」
クリスティンは本棚に立てかけられていた、小さな肖像画を眺めている。
彼女の両親だろうか。
「みんな私に初めて会った時、こんな小娘が公爵家の当主ってびっくりしたでしょ。もちろんそれには理由があるの。それについてこれから話すわ」
クリスティンはそう言うとその大きな椅子にもたれかかり、彼女の身の上と、マクルーハン家の悲劇について話を始めた。
「そうあれは私がまだ6歳の頃だった」
◇
ドキドキ。ドキドキ。
執務室の机の下に潜んでいる。
もう少ししたら、お父様が帰って執務室にやってくるはず。
そうしたら、ばっと出て、驚かせてやるんだ。
「お嬢様ー! お嬢様ー!」
クリスティンを呼ぶ大きな声。
あの声はきっと執事のハーバードだろう。
もう、せっかく隠れてるのに邪魔しないで!
とも思うが、あんな大きな声で呼ばれるのも珍しい。
何かあったのだろうか?
クリスティンは少し不安になる。
「お嬢様ー!」
ハーバードは、遂に執務室の中にも入ってきた。
「お嬢様、旦那様と奥様が…………いないか」
お父様とお母様が?
何かあったの?
「ハーバード、お父様とお母様がどうしたの?」
クリスティンは机からひょこっと顔を出す。
ハーバードは一瞬、驚いた表情をしたが、すぐにクリスティンに駆け寄り。
「お父様とお母様が襲われました」
襲われました? 誰に? どこで? どうして?
クリスティンには次々に疑問が浮かぶが。
一番重要な疑問が最後に浮かび、そしてそれをハーバードに尋ねる。
「お父様とお母様は無事なの」
「………………」
ハーバードは沈痛な表情をして、その質問に答えない。
えっ? 嘘でしょ? 今日、朝みんなでお食事して。
ちょっと用事があるからって、二人で外出して。
お父様は帰ってからも仕事しなきゃいけないって。
「お二人ともお亡くなりになりました」
それを聞いた直後の記憶は、クリスティンにはない。
泣き叫んだか。あるいは、頭が真っ白になり、何も考えられなくなったか。
今もってそれを思い出せないのは、おそらくそれが、余りに辛いトラウマだからであろう。
それから葬儀自体の記憶も、クリスティンには朧げにしかなかった。
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