上 下
18 / 101
第1章 ゴブリン討伐編

第18話 驚愕のその才

しおりを挟む
「さて、それじゃあ、まずは魔力の巡りから見ていくかの」

 魔力の巡り?
 なんだそれは?

 ベイリーに連れてこられた所は、正に荒野だった。
 草木一本も生えていないような岩と砂場で、荒涼とした大地が広がっている。

「まあ、魔力の巡りと言葉でいっても分からんか。手の平をこちらに向けてみろ」

 俺は言われたとおりにする。

「よし、それではわしの方から魔力を流すぞ」

 ベイリーは俺と手を合わせると、俺に魔力を注ぎ込み始めた。
 なんて言ったらいいだろうか。
 ベイリーの手を通して、確かに俺に魔力を注ぎ込まれているのを感じる。
 普段は感じ取れない血流の流れを感じるというか。
 今まで感じた事のない、不思議な感覚だった。

「よし、魔力を注ぎ込んだのを感じたな。それを自分の中に巡らせてみろ」

 俺はその注ぎ込まれた魔力が、全身を巡っていくイメージをする。
 手の先から胸、腹、頭、足、そして足の先まで。
 するとその巡りは血液の巡りが感じられるように確かなものとして感じられ、また増幅しているかのようにも感じられた。
 ミミとソーニャは俺の方を驚いた表情で見ている。

(たったこれだけで魔力の巡りをマスターするとは。こやつ驚いたわい)

 ベイリーはそう思うが、それは口には出さずに言う。

「その調子じゃ。今、お前は魔力の巡りができている。お前が本来持つ魔力が発露されて、わしが注ぎ込んだ魔力よりも増幅しておるわ。あっちの二人には今、お前は魔力のオーラを、強烈に発しているように見えておる」

 そうなのか。俺が本来持つ魔力が発露。
 でもやろうと思えば、もっともっと巡りを強くする事もできる。
 ちょっと巡りを強くしてみよう。

 すると、ミミとソーニャから見えていたランスのオーラは、今では、巨大な一つの火柱のようにランスから立ち上っていた。

(予想をしていたとはいえ、ここまでとは……。わしはとんでもない化物を起こしてしまったのかの……)

「魔力の巡りはもう、そのへんで良い。あくまで魔法発動の前段階じゃからの」

 俺はそう言われて、魔力の巡りを止める。

「つぎに、そうじゃの。火属性の基本。ファイアーボールから教えるか」

 ベイリーは手提げから、何か書物を取り出した。

「これは魔術書じゃ。下級から上級まで一通りの魔法が、図解つきでのっとる。口頭での説明より、こちらの方が分かりやすい。分からんところがあったら補足してやるから、これ見てやってみい」

 魔術書を俺は受け取る。
 タイトルは【魔術大全 ~下級から上級まで全系統の魔術を網羅~】となっていた。
 火属性の……ファイアーボール……と該当のページを見つける。

 ふむふむ。大体分かった。
 この術式を頭にイメージしながら魔力を、手から放出すればいいんだな。

「よし! やってみる」
「は!? もうか?」

 もうか? ってベイリーは自分で俺にやれと言った癖にそれはないだろう、とも思いながら。
 誰もいない空間に向かって、俺は手をかざし、術式をイメージしながら、魔力を放出した。
 するとボンッ、と火球が俺のかざした手の先から出現して飛んでいった。
 おお! でた! 面白い!

「え!? ありえない!」

 ソーニャが、俺が魔法を発動した様子を見てそういった。

「魔法を始めて習う人が、ほんのちょっと魔術書を読んだだけで。それに魔力の巡りを、マスターするのも早すぎるし! しかも無詠唱って!!」

 なんだ、俺は覚えが早い方なのか?
 まあそれなら、さいまであまり時間もないし好都合だけど。

「魔力の巡りを、マスターするのに大体1ヶ月。それから魔法の発動に、少なくとも3ヶ月くらいかかる。筋がよいやつでも併せて1ヶ月じゃ。それを無詠唱ですぐとはのう」

(天才というのは、おるもんじゃな)

「うーん……、魔法剣は、この魔術大全には載ってないみたいだけど、それも教えてよベイリー」
「お、おう……そうじゃの」

 ベイリーは、ランスのそのあまりの才に感嘆し、冷や汗をかきながらこたえた。

「まず魔術大全に身体強化という項目があるな。まずはそれをマスターするのが先じゃ」

 身体強化、身体強化……見つけた!
 ふむふむ。
 これは術式、単純だな。
 ほぼ魔力の巡りで実現できそうだ。

 全身に魔力を巡らせて……
 それにこの術式のイメージでっと。

「ふむ、できてるようじゃな。それでちょっと、そこの岩に素手で突き技をしてみろ」
「えっ? 岩に素手で突きって、突き指しちゃうんじゃ」
「いいから、やってみろ」

 ………えーい、どうにでもなれ!
 突き技を岩にすると、すっと岩に手は入り込んだ。
 痛みを予想していた俺はびっくりした。
 それはまるで柔らかい砂地に、手を差し入れたかのようだった。

「これが身体強化の威力じゃ。高ランクの魔物は無意識でこれをしとるし、人間でも無意識にやっておる者もいる。そこにいるミミのようにな」

 ミミは、えっ私? というように自分を指さしている。
 確かにこれなら、ミミのあの強さにも説明がつく。

「次は剣を抜いて、剣にまで魔力を巡らせるようにしてみろ」

 俺は言われた通り、剣を抜き、剣先まで魔力を巡らせるようにしてみる。

「その状態で、身体強化を剣にまで派生させろ」

 身体強化を剣にまで…………おお、なんだこれは!
 剣が自分の手足の一部のようにも感じる。

「それでそこの岩を切ってみろ」

 俺はそこの岩を剣を振りかぶり、一閃。
 その岩はまるで斬れやすい紙のように、綺麗に斬れた。

「これが魔法剣の威力じゃ。お前がこれを知っていれば、ゴブリンキングなど一閃で終わっていただろう。他の魔法剣。火剣、氷剣、雷剣も同じ要領よ」

 それじゃあさっきのファイアを発動して、身体強化もしながら――
 うわぁ!

 剣から炎がほとばしる。
 その剣を振ると、同じように岩が切れるが、その切り口には焼けた跡があった。
 楽しいこれ!
 俺はその火剣を、縦横無尽に振り回す。

 ランスが剣を振る度に剣の軌道に炎の円弧ができ、それはまるで一つの演舞のようにも見えうけられた。

「信じられない……」

 そのランスの様子をみて、ソーニャがボソリとつぶやく。
 魔法剣は一般的に剣の修練を3年、魔法の修練を3年以上つんだ、ベテランの魔法戦士がやっと扱えるものだとされている。
 それをランスはたった1日で、しかもこんな僅かな時間で……。

(これが血か……それにプラスして、ランス天賦の才もありそうじゃが)

 魔術に造詣が深い、ソーニャとベイリーの二人は、ランスの魔法剣舞を驚愕をもって眺めた。


 荒野で鍛錬を始めて2週間後。

 その後、ランスは魔術大全を見て、一つずつ魔法をマスターしていき。
 ミミは天然の身体強化にプラスして闘気術を。
 ソーニャは聖魔法と治癒魔法の上位魔法を、それぞれベイリーから教授された。
 俺達はみんな、それぞれの成長を実感している。
 有意義な鍛錬期間だった。

「ありがとうベイリー。俺たちもなんかお返ししたいんだけど」
「お返しは、然るべき時が来たらお願いするかもな。今はそうじゃの……」

 そう言うとベイリーはいきなり消えた。

「きゃあッ! お尻触られた!」
「ひゃうッ! 胸揉まれた!」

 ミミとソーニャがそれぞれ抗議の叫び声を上げる。

「とりあえずの報酬は今はこんな所でよいぞ」
「「このくそじじい」」(ミミ・ソーニャ)

 今、ベイリーが発動した魔法は、身体強化に、動きが早くなるヘイスト、それに俺たちに対しては認識阻害。
 なんて無駄な高度な魔法組み合わせの同時発動だ。

 ミミとソーニャが、ベイリーに向かっていっているが、ベイリーは今度は浮遊術でそれを回避していた。

「じゃあ、帰るかな」

 ベイリーはそのまま浮遊術で、カラカスの街へ向っていく。
 俺達もそのままカラカスの街へ戻ることとなった。
 そして戻れば、いよいよさいに向けて出発だ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...