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第34話 因果の糸
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<シエナの独白の後>
「……それでシエナの願いは叶ったのかな?」
「かなった! シエナ、お兄ちゃんとお姉ちゃんにいっぱい愛してもらえた!」
「シエナ……」
シエナの過去とその純真でけなげな願いに胸が押しつぶされそうになる。
愛されたいだなんて、そんなことを思ってこの子は俺たちと接してたのか。
「ユウお兄ちゃんにいっぱい抱っこしてもらえたし、ぎゅっとしてもらえた! アデルお姉ちゃんには美味しいものも一杯食べさせてもらえたし、フェリシアお姉ちゃんには夜一人で寂しいとき、一緒に寝てもらえたし、それにそれにね……」
シエラは嬉しそうにエルドナに報告する。
「おねだりしたらお菓子も買ってもらえたんだよ! それに肩車もしてもらえたし、それに……いっぱいいっぱい愛してもらえたの!」
「よかったねぇ! じゃあ、シエラは僕とした約束守れるね」
「ダメだ、シエラ!」
「シエラ、ダメぇ!!」
シエラは悲しそうな表情で俺たちに向き直る。
「シエラ、良い子だから約束守れるよ。いっぱい愛してもらえてシエラ幸せだったの。生まれてからお兄ちゃんとお姉ちゃんと出会ってからが一番幸せだったの」
「それではシエラこちらへ」
エルドナがシエラに手を差し伸べる。
シエラがエルドナに引き寄せられていく。
「シエラぁ!!」
防ごうとするが目に見えない膜に阻まれて防げない。
「無理だよ。悪魔の契約には何人たりとも立ち入ることはできない。例えそれが神であってもね」
エルドナはシエラを引き寄せ、背後からその両肩を掴む。
「それじゃ君はもう僕のものだ。さてどうしようかねぇ」
エルドナは俺たちに向かって挑戦的な笑みを向ける。
「シエラを少しでも傷つけてみろ! お前を地獄に叩き落としてやるぞ!」
「ははは、わざわざ地獄に戻してくれるってのかい? 僕にその手の脅しは効かないよ。それでは…………」
エルドナは懐に手をいれる。
「じゃんじゃじゃーん。はてさて、ここに取り出しましたるこちらの種子、一体なんでございましょう?」
なにかの種を懐から取り出す。
「これはね、かつて地獄を壊滅の一歩手前まで追い込んだ、吸命樹の種子だよ。その名の通り、ありとあらゆる生命エネルギーを吸い取って巨大化していく樹木系の魔物だ。この種子の面白いところは、どんな生命にも植え付けることができることなんだよね。例えば、このような年端のいかない少女であっても――」
エルドナは種をシエナの額に植え付けようとする。
「止めろーーーーッ!!!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
シエナは目に涙を浮かべながら、にっこりと笑う。
「……ありがとう」
シエラに植え付けられた種は瞬く間に彼女を侵食し、一気に樹木へとその姿を変形させる。
「ははははっ! 数千年の時を経て、吸命樹が蘇った!! さあ、楽しいショーの始まりだぁ!!」
絶望が胸に広がる。
だが、まだ終わりじゃない!
吸命樹は何本もの太い枝を一気に伸ばす。
俺たちは素早くその枝を躱すが、候爵の私兵たちはそれに捕まり、生命エネルギーを吸収される。
私兵たちは干からびたミイラのようになり、吸命樹はどんどん巨大化していく。
「どうしてこんなことが! ユウ、私たちどうしたらいいの!? シエナをどうやったら助けられるのぉ!?」
「このままじゃ、俺たちもやられる…………とりあえず巨大化した枝を刈っていこう!」
「了解!」
俺とフェリシアは剣を抜く。
「私は後方で支援するわ!」
アデルは後方でスタンバイしている。
次々と迫りくる枝を切り落とす。後方からはアデルの火魔法が枝を焼き払う。
すると――
「いやぁあああああああああ!!!」とシエラの声で悲鳴が聞こえてくる。
まるで耳をつんざくような悲鳴だ。
「くそぉお! シエラは感覚を共有してるのか? 吸命樹は最早シエラなのか?」
枝を斬る度に発せられる悲鳴は、まるで自分自身を切り刻むかのような心の痛みを感じさせる。
これはある意味、自分自身を傷つけるよりも痛い。
「駄目ぇ、できない! 攻撃できない!!」
フェリシアは涙を流しながら攻撃を止めて、迫りくる枝の攻撃を躱す。
「きゃははははははははは!!! そうだよぉ、愛する人を攻撃できないジレンマに苦しむんだぁ!! 踊れぇ踊れぇええ、ありったけの愛を込めてねぇえええ!!!」
「くそ野郎! シエナを元に戻せぇええええ!!」
「無理だよ、こうなったら彼女を元に戻す手段はない! 吸命樹は人間界を壊滅させるまで、暴れ狂うんだよぉ!!」
このままじゃ全員やられる。
何か弱点とかないのか!?
俺は真理洞察を使って、吸命樹を確かめる。
だめだ、弱点という弱点は特にない。
滅するだけなら可能だが、シエナと融合しているのでそれもできない。
何か手は……?
「きゃああああああ!!!」
そこで、フェリシアが枝に捕まった。
俺は致し方なくその枝を斬る。
するとまたシエナの悲鳴が辺りに響き渡る。
「いやぁああああああ!!!」
フェリシアは泣き声をあげて、その場にへたり込む。
「まだだ、フェリシア! シエナを救う為にも頑張れ!」
彼女は瞳に一杯の涙を浮かべながらも頷く。
そうこうしているうちにも吸命樹から迫りくる、二の矢、三の矢の攻撃を躱していく。
何か手はないのか……何か……。
シエナの無邪気な笑顔が浮かぶ。
純真でけなげな心と不幸な過去。
抱きしめると必死にしがみつき、その顔を強く俺の胸に沈めていた。
絶対に助けてやりたい!
融合……万象融合……そう言えば他にもアンリミテッド魔法はあった。
どれか…………これは? 因果の切断は使えないのか?
因果の切断は対象にまつわる因果の糸をも切断し、対象を宿命から解放する禁忌の魔法だ。
吸命樹とシエナは因果という深いレベルでつながっているのではないか?
これでシエナを吸命樹から解放できないか?
またシエナとエルドナの契約関係を断ち切れないだろうか?
試してみる価値はある。
『因果の切断!』
禁忌の魔法を発動した瞬間、凄まじい魔力が一気に吸い取られていく。
「うぅおおおおおおお!!!! シエナ、戻れぇええええええええ!!!」
俺は空中に出現した魔法陣に、全身全霊で魔力を供給し続ける。後先など一切考えない。
途中から魔法陣は回転をはじめ、その近辺に渦を発生させる。
電気が生じはじめ、周りの時空が歪んでいく。
それでもまだ魔力を供給しつづけていると――
魔力供給がある一定量を超えた時、その場の時間が止まった。
俺たちの意識外の時間静止空間に現れたのは、真っ白でのっぺらぼうな顔をした彫刻から動き出したような人型の何かだった。
彼はこれまた真っ白な剣を吸命樹《ヤグドラシル》に向けて振りかざす。一閃――
だが今は時間が止まっているので何も起きない。
彼はその場から離脱する。
その瞬間、止まっていた時が再度動き出した。
地面に何かが落ちたと思ったらそれはシエナだった。
俺は直ぐさま駆け寄り、彼女を抱き上げる。
気絶はしているようだが息はあるようだ。
よかった……。
「ユウ! シエナは!?」
「ああ、無事だ! シエナを頼む。ちょっと後ろに下がっていてくれ」
フェリシアは頷くとシエラを抱いて、後方に待機しているアデルの方へと向かっていく。
そこで、信じられないという表情でエルドナは俺に問いかける。
「君、なんなのその魔法は?」
「因果の糸を断ち切る魔法だ」
「なんだよそれ……まるで世界の理りを無視するような魔法じゃないか……それこそ神代の時代の……」
吸命樹はまた俺に枝での攻撃を加えてくるが、俺はそれを星絶断刃を振るって、切り落とす。
今度は野太い獣のような咆哮が聞こえてくる。
これならいくらでも斬り刻める。
もう遠慮する必要はない。
俺が敵を殲滅しようと一歩踏み出した時のことだった――
「仕方ない」
エルドナは何かの本を取り出す。古く分厚い本だ。
「悪魔の門を開ける」
彼は本を掲げて詠唱をはじめた。
「……それでシエナの願いは叶ったのかな?」
「かなった! シエナ、お兄ちゃんとお姉ちゃんにいっぱい愛してもらえた!」
「シエナ……」
シエナの過去とその純真でけなげな願いに胸が押しつぶされそうになる。
愛されたいだなんて、そんなことを思ってこの子は俺たちと接してたのか。
「ユウお兄ちゃんにいっぱい抱っこしてもらえたし、ぎゅっとしてもらえた! アデルお姉ちゃんには美味しいものも一杯食べさせてもらえたし、フェリシアお姉ちゃんには夜一人で寂しいとき、一緒に寝てもらえたし、それにそれにね……」
シエラは嬉しそうにエルドナに報告する。
「おねだりしたらお菓子も買ってもらえたんだよ! それに肩車もしてもらえたし、それに……いっぱいいっぱい愛してもらえたの!」
「よかったねぇ! じゃあ、シエラは僕とした約束守れるね」
「ダメだ、シエラ!」
「シエラ、ダメぇ!!」
シエラは悲しそうな表情で俺たちに向き直る。
「シエラ、良い子だから約束守れるよ。いっぱい愛してもらえてシエラ幸せだったの。生まれてからお兄ちゃんとお姉ちゃんと出会ってからが一番幸せだったの」
「それではシエラこちらへ」
エルドナがシエラに手を差し伸べる。
シエラがエルドナに引き寄せられていく。
「シエラぁ!!」
防ごうとするが目に見えない膜に阻まれて防げない。
「無理だよ。悪魔の契約には何人たりとも立ち入ることはできない。例えそれが神であってもね」
エルドナはシエラを引き寄せ、背後からその両肩を掴む。
「それじゃ君はもう僕のものだ。さてどうしようかねぇ」
エルドナは俺たちに向かって挑戦的な笑みを向ける。
「シエラを少しでも傷つけてみろ! お前を地獄に叩き落としてやるぞ!」
「ははは、わざわざ地獄に戻してくれるってのかい? 僕にその手の脅しは効かないよ。それでは…………」
エルドナは懐に手をいれる。
「じゃんじゃじゃーん。はてさて、ここに取り出しましたるこちらの種子、一体なんでございましょう?」
なにかの種を懐から取り出す。
「これはね、かつて地獄を壊滅の一歩手前まで追い込んだ、吸命樹の種子だよ。その名の通り、ありとあらゆる生命エネルギーを吸い取って巨大化していく樹木系の魔物だ。この種子の面白いところは、どんな生命にも植え付けることができることなんだよね。例えば、このような年端のいかない少女であっても――」
エルドナは種をシエナの額に植え付けようとする。
「止めろーーーーッ!!!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
シエナは目に涙を浮かべながら、にっこりと笑う。
「……ありがとう」
シエラに植え付けられた種は瞬く間に彼女を侵食し、一気に樹木へとその姿を変形させる。
「ははははっ! 数千年の時を経て、吸命樹が蘇った!! さあ、楽しいショーの始まりだぁ!!」
絶望が胸に広がる。
だが、まだ終わりじゃない!
吸命樹は何本もの太い枝を一気に伸ばす。
俺たちは素早くその枝を躱すが、候爵の私兵たちはそれに捕まり、生命エネルギーを吸収される。
私兵たちは干からびたミイラのようになり、吸命樹はどんどん巨大化していく。
「どうしてこんなことが! ユウ、私たちどうしたらいいの!? シエナをどうやったら助けられるのぉ!?」
「このままじゃ、俺たちもやられる…………とりあえず巨大化した枝を刈っていこう!」
「了解!」
俺とフェリシアは剣を抜く。
「私は後方で支援するわ!」
アデルは後方でスタンバイしている。
次々と迫りくる枝を切り落とす。後方からはアデルの火魔法が枝を焼き払う。
すると――
「いやぁあああああああああ!!!」とシエラの声で悲鳴が聞こえてくる。
まるで耳をつんざくような悲鳴だ。
「くそぉお! シエラは感覚を共有してるのか? 吸命樹は最早シエラなのか?」
枝を斬る度に発せられる悲鳴は、まるで自分自身を切り刻むかのような心の痛みを感じさせる。
これはある意味、自分自身を傷つけるよりも痛い。
「駄目ぇ、できない! 攻撃できない!!」
フェリシアは涙を流しながら攻撃を止めて、迫りくる枝の攻撃を躱す。
「きゃははははははははは!!! そうだよぉ、愛する人を攻撃できないジレンマに苦しむんだぁ!! 踊れぇ踊れぇええ、ありったけの愛を込めてねぇえええ!!!」
「くそ野郎! シエナを元に戻せぇええええ!!」
「無理だよ、こうなったら彼女を元に戻す手段はない! 吸命樹は人間界を壊滅させるまで、暴れ狂うんだよぉ!!」
このままじゃ全員やられる。
何か弱点とかないのか!?
俺は真理洞察を使って、吸命樹を確かめる。
だめだ、弱点という弱点は特にない。
滅するだけなら可能だが、シエナと融合しているのでそれもできない。
何か手は……?
「きゃああああああ!!!」
そこで、フェリシアが枝に捕まった。
俺は致し方なくその枝を斬る。
するとまたシエナの悲鳴が辺りに響き渡る。
「いやぁああああああ!!!」
フェリシアは泣き声をあげて、その場にへたり込む。
「まだだ、フェリシア! シエナを救う為にも頑張れ!」
彼女は瞳に一杯の涙を浮かべながらも頷く。
そうこうしているうちにも吸命樹から迫りくる、二の矢、三の矢の攻撃を躱していく。
何か手はないのか……何か……。
シエナの無邪気な笑顔が浮かぶ。
純真でけなげな心と不幸な過去。
抱きしめると必死にしがみつき、その顔を強く俺の胸に沈めていた。
絶対に助けてやりたい!
融合……万象融合……そう言えば他にもアンリミテッド魔法はあった。
どれか…………これは? 因果の切断は使えないのか?
因果の切断は対象にまつわる因果の糸をも切断し、対象を宿命から解放する禁忌の魔法だ。
吸命樹とシエナは因果という深いレベルでつながっているのではないか?
これでシエナを吸命樹から解放できないか?
またシエナとエルドナの契約関係を断ち切れないだろうか?
試してみる価値はある。
『因果の切断!』
禁忌の魔法を発動した瞬間、凄まじい魔力が一気に吸い取られていく。
「うぅおおおおおおお!!!! シエナ、戻れぇええええええええ!!!」
俺は空中に出現した魔法陣に、全身全霊で魔力を供給し続ける。後先など一切考えない。
途中から魔法陣は回転をはじめ、その近辺に渦を発生させる。
電気が生じはじめ、周りの時空が歪んでいく。
それでもまだ魔力を供給しつづけていると――
魔力供給がある一定量を超えた時、その場の時間が止まった。
俺たちの意識外の時間静止空間に現れたのは、真っ白でのっぺらぼうな顔をした彫刻から動き出したような人型の何かだった。
彼はこれまた真っ白な剣を吸命樹《ヤグドラシル》に向けて振りかざす。一閃――
だが今は時間が止まっているので何も起きない。
彼はその場から離脱する。
その瞬間、止まっていた時が再度動き出した。
地面に何かが落ちたと思ったらそれはシエナだった。
俺は直ぐさま駆け寄り、彼女を抱き上げる。
気絶はしているようだが息はあるようだ。
よかった……。
「ユウ! シエナは!?」
「ああ、無事だ! シエナを頼む。ちょっと後ろに下がっていてくれ」
フェリシアは頷くとシエラを抱いて、後方に待機しているアデルの方へと向かっていく。
そこで、信じられないという表情でエルドナは俺に問いかける。
「君、なんなのその魔法は?」
「因果の糸を断ち切る魔法だ」
「なんだよそれ……まるで世界の理りを無視するような魔法じゃないか……それこそ神代の時代の……」
吸命樹はまた俺に枝での攻撃を加えてくるが、俺はそれを星絶断刃を振るって、切り落とす。
今度は野太い獣のような咆哮が聞こえてくる。
これならいくらでも斬り刻める。
もう遠慮する必要はない。
俺が敵を殲滅しようと一歩踏み出した時のことだった――
「仕方ない」
エルドナは何かの本を取り出す。古く分厚い本だ。
「悪魔の門を開ける」
彼は本を掲げて詠唱をはじめた。
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