20 / 51
第20話 悪意のはじまり
しおりを挟む
「あれ? どこだここは……」
エルドナは気がつくと見たことのない場所に立っていた。
足元の魔法陣で自身が召喚されたことを知る。
「もしかして君が僕のことを召喚したの? ……君、人間だよねえ。へぇー、よく人間が僕を召喚できたねぇ!」
退屈な毎日に嫌気が差していた所だった。
エルドナは喜色を全面に弾んだ声を出す。
「うん、これから君に頼まれごとをするにしても雑用なんかの小間使いは必要だね。地獄から一人召喚するとしよう!」
エルドナは地面に書かれた魔法陣を上書きする。
その魔法陣が光り輝き、一人のメイド服を着た女性が召喚された。
「…………ここは? エルドナ様!」
「ここは人間界だよ、シルヴィア」
「人間界でございますか。まさかエルドナ様を召喚したものが? たかだか人間如きに……」
シルヴィアは訝しげに頭を傾ける。
「エルドナ様、人間との契約はもうお済みなのですか?」
「うん? いや、まだだよ。願いもまだ聞いてない」
「では地獄に帰りましょう!」
「なんで? 面白くなってきた所なのに!」
「悪魔王ともあろうお方がこんな辺鄙なところに召喚されて、素性も知れないような人間と契約を交わすのは許されません。前代未聞でございます!」
「前例は廃してこそ進化は促されるものだよ。それに、君は僕がこうなったら止められないって知ってるだろ?」
シルヴィアはため息を大きく吐き出す。
「人間よ、くれぐれもエルドナ様に無礼のないように。もし無礼を働けば私が即座に――」
シルヴィアはその可憐な白い手を黒色の鋭い爪のついたものに変形させる。
「止めなさい、シルヴィア。それに、そんな脅しが効くような相手だとは思えないよ」
エルドナは召喚者に向かってにっこりと微笑む。
「それで君の願いを聞かせてもらってもいいかな? 知っての通り、願いの代償は君の魂だ。あっ、一応言っておくけど、僕にも契約を選ぶ権利はあるからね」
召喚者は単刀直入に願いを伝える。
「なんだその願いは――」
エルドナは牙を剥いて抗議しようとしたシルヴィアを即座に止める。
彼の顔はまるでずっと欲しかったおもちゃをプレゼントされたかのように輝いていた。
喜びとともに柏手を「パーーン」と一つ打つ。
「面白い! 契約しよう!!」
シルヴィアは抗議する。
「そんなエルドナ様、こんな契約――」
「聞いたことないだろ、こんな契約! だから面白いんじゃないかぁ! 腕が鳴るねー、久々の人間界での契約だよ。前回、僕が人間と契約を交わしたのは2000年前だっけ? 3000年前だっけ?」
「……2500年程前です」
「そっかー、そんなに前かぁ。忘れちゃったなー。それでその時はどうなったんだっけ?」
「人間たちは半分死滅しました」
シルヴィアはまるで『昨日は晴れでした』くらいの気安さで言う。
「そんなに死んだんだっけ?」
「天界が介入してこなければ人間は絶滅してましたよ」
「そっかー忘れてたなー、へぇーそんなに死んだんだーって、もう契約の解除はできないよぉ?」
エルドナは邪悪な笑みを召喚者に対して向ける。
「契約を守ってくれればそれでいい? そうなんだぁ、ちょっと脅かそうと思ったのに全然驚いてくれないね! つまんないや。まあ契約には全力で取り組むから安心して。その後に君の魂をもらいに行くからさ。他に伝えておきたいことはないかな?」
召喚者は黙って首を降る。
「じゃあ、行ってくるよ。楽しみに待ってて! さあ」
エルドナはダンスをエスコートする紳士のようにシルヴィアに手を差し出す。
シルヴィアはその手を嬉しそうに取る。
「それじゃあ、思う存分踊ろうか」
そう言うと二人は転移魔法を使いどこかへと消え去った。
古びた廃墟のような古代遺跡の一角に召喚者は一人取り残される。
残された召喚者は深い闇の中で一人、満足そうに笑みを浮かべた。
エルドナは気がつくと見たことのない場所に立っていた。
足元の魔法陣で自身が召喚されたことを知る。
「もしかして君が僕のことを召喚したの? ……君、人間だよねえ。へぇー、よく人間が僕を召喚できたねぇ!」
退屈な毎日に嫌気が差していた所だった。
エルドナは喜色を全面に弾んだ声を出す。
「うん、これから君に頼まれごとをするにしても雑用なんかの小間使いは必要だね。地獄から一人召喚するとしよう!」
エルドナは地面に書かれた魔法陣を上書きする。
その魔法陣が光り輝き、一人のメイド服を着た女性が召喚された。
「…………ここは? エルドナ様!」
「ここは人間界だよ、シルヴィア」
「人間界でございますか。まさかエルドナ様を召喚したものが? たかだか人間如きに……」
シルヴィアは訝しげに頭を傾ける。
「エルドナ様、人間との契約はもうお済みなのですか?」
「うん? いや、まだだよ。願いもまだ聞いてない」
「では地獄に帰りましょう!」
「なんで? 面白くなってきた所なのに!」
「悪魔王ともあろうお方がこんな辺鄙なところに召喚されて、素性も知れないような人間と契約を交わすのは許されません。前代未聞でございます!」
「前例は廃してこそ進化は促されるものだよ。それに、君は僕がこうなったら止められないって知ってるだろ?」
シルヴィアはため息を大きく吐き出す。
「人間よ、くれぐれもエルドナ様に無礼のないように。もし無礼を働けば私が即座に――」
シルヴィアはその可憐な白い手を黒色の鋭い爪のついたものに変形させる。
「止めなさい、シルヴィア。それに、そんな脅しが効くような相手だとは思えないよ」
エルドナは召喚者に向かってにっこりと微笑む。
「それで君の願いを聞かせてもらってもいいかな? 知っての通り、願いの代償は君の魂だ。あっ、一応言っておくけど、僕にも契約を選ぶ権利はあるからね」
召喚者は単刀直入に願いを伝える。
「なんだその願いは――」
エルドナは牙を剥いて抗議しようとしたシルヴィアを即座に止める。
彼の顔はまるでずっと欲しかったおもちゃをプレゼントされたかのように輝いていた。
喜びとともに柏手を「パーーン」と一つ打つ。
「面白い! 契約しよう!!」
シルヴィアは抗議する。
「そんなエルドナ様、こんな契約――」
「聞いたことないだろ、こんな契約! だから面白いんじゃないかぁ! 腕が鳴るねー、久々の人間界での契約だよ。前回、僕が人間と契約を交わしたのは2000年前だっけ? 3000年前だっけ?」
「……2500年程前です」
「そっかー、そんなに前かぁ。忘れちゃったなー。それでその時はどうなったんだっけ?」
「人間たちは半分死滅しました」
シルヴィアはまるで『昨日は晴れでした』くらいの気安さで言う。
「そんなに死んだんだっけ?」
「天界が介入してこなければ人間は絶滅してましたよ」
「そっかー忘れてたなー、へぇーそんなに死んだんだーって、もう契約の解除はできないよぉ?」
エルドナは邪悪な笑みを召喚者に対して向ける。
「契約を守ってくれればそれでいい? そうなんだぁ、ちょっと脅かそうと思ったのに全然驚いてくれないね! つまんないや。まあ契約には全力で取り組むから安心して。その後に君の魂をもらいに行くからさ。他に伝えておきたいことはないかな?」
召喚者は黙って首を降る。
「じゃあ、行ってくるよ。楽しみに待ってて! さあ」
エルドナはダンスをエスコートする紳士のようにシルヴィアに手を差し出す。
シルヴィアはその手を嬉しそうに取る。
「それじゃあ、思う存分踊ろうか」
そう言うと二人は転移魔法を使いどこかへと消え去った。
古びた廃墟のような古代遺跡の一角に召喚者は一人取り残される。
残された召喚者は深い闇の中で一人、満足そうに笑みを浮かべた。
84
お気に入りに追加
1,108
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる