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第58話 世界会議

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「それでは第246回の世界会議を開催いたします。皆様よろしくお願いいたします」

 会議場に拍手が沸き起こる。
 会議用の長机には各国の王が座り、その王の傍らにはそれぞれ一人の人間が付いていた。
 王は補佐として一人を会議に連れてこれる決まりで、今回は俺がカルディア王の付き添いになることとなった。
 俺はその補佐たちの中で一人、気になる人物を見つけた。

 それはアルゴス帝国の皇帝の隣で佇んでいる、転生者のセーイチだった。
 なぜ彼がここに?
 しかも皇帝の補佐だと?
 まあ、俺もカルディア王の補佐なんて本来はありえないので人のことは言えないが……。

 セーイチは俺に気づくと軽く会釈をしてきたので、俺もそれに返す。

「それでは議題として提起されているものを片付けていこう。進行頼む」
「はい、まずはレギオン王国から近年の各国での関税の高騰について……」

 皇帝に促された司会は議題を発表し、それに対して各国の王が意見を述べていく。
 途中少しヒートアップしそうになるところもありながら、議論は円滑に進んでいった。

 俺はちらりとオルデア王の席に視線を向けた。
 そこにはオルデア王ではなく、イザベラ妃が座っている。
 事前にされた説明によると王が体調不良の為、イザベラが代役を務めることになっていた。 

「次は、カルディア王国からの議題です。レギオン王国のオルデア王国カイマン領への侵攻と、オルデア王国でのクーデターについてですが、カルディア王。こちらは議題そのままでよろしいのでしょうか?」
「問題ない」
「何が問題ないのよ! オルデア王国でのクーデターなんてでっち上げをこんな場でよくもしてくれるわね!」

 イザベラ妃は金切り声を上げてヒステリックに発狂する。
 カルディア王はそんなイザベラ妃を鋭い眼光で一瞥する。
 イザベラ妃はその眼光に少し怯む。

「事実に基づいて議題を上げている。レギオン王国のオルデア王国カイマン領への侵攻はもはや各国周知の事実である。そしてオルデア王国でのクーデターについては、わしの孫娘のオルデア王女のエリーゼと、そして隣に座っているカイマン公爵家三男のグレイス氏より信頼にたる情報を得ている」
「王妃である私の言葉よりも、そんな者のいうことを信じるというの!」
「信じるから議題にあげているのじゃ。そして我がカルディア王国はエリーゼとグレイスを全面支援し、オルデア王国のクーデターとカイマン領へのレギオン王国の侵略を阻止するために全力を尽くすことをここに宣言する!」
「内政干渉よ! そんなことを言ってエリーゼを口実に我が国をめちゃくちゃにするつもりなのよ!」

 想定外だったのだろう。イザベラ妃はオロオロと狼狽しながら反論する。
 
「カルディア王、ご自分が何を言っているか分かっているのですか!」

 それに加えて、レギオン王も寝耳に水だったのだろう。ひどく驚いた表情をしていた。

「言った通りである。ついてはそれについて各国のご意見を頂戴したい。オルデアのクーデターについては一部の国以外は情報を得ていないだろうが、カイマン領への侵攻については周知の事実であろう。聞きたいのはシンプルな質問じゃ。侵攻を支持するのか、しないのか? 司会、よろしく頼む」
「かしこまりました。それでは今、カルディア王がおっしゃられましたカイマン領への侵攻について賛成だという方は挙手をお願いします」

 各国の王はお互い顔を見合わせるが、レギオン王以外は誰も手を上げようとしない。
 それはそうだろう。他国への大義なき侵攻など支持できるはずがない。
 と思っていたらファルデン共和国の王が挙手をする。
 そういえばファルデンもオルデアと敵対していたな。

「それでは反対だという方は?」

 その質問には次々と手が挙がる。
 イザベラ妃は建前上は反対の立場を取らないといけない為、苦々しい表情をしながらも挙手をしている。

「おや、イザベラ妃は賛成でよかったのですかな。あなた自身が邪魔なカイマン領への侵攻をレギオン王国へ促したと聞いておるのですが」
「んな……なんということを! 皇帝! こんなでたらめを言うものなどこの会議の場に相応しくありません! 追い出して下さい!」
「却下です。各国はこの場に強制参加している訳ではなく、任意で参加してるだけなんでね。そして帝国は各国の集まりの場を提供してるにすぎないんですよ、イザベラ妃。そこの認識を再度お願いします」

 まだ随分と若い皇帝は淀みなく、イザベラに指摘する。
 おそらく年は俺と変わらないくらいだろう。
 その落ち着きようからもしかして人生2回目なのかとも思ってしまう。
 もう転生者とかいいからな。

 イザベラは皇帝の指摘にハンカチを噛んで、苦々しそうにしながら地団駄を踏む。

「賛成多数ということなので、制裁決議と共同声明による侵攻の退去勧告を行いたい!」
「異議あり! カルディア王は自身の権限を超えた決議をしている!」
「異議は認められません。賛成多数の場合はそれに付随する決議を提案して実施することは認められています」
「いいのか! 戦争になるぞ!」

 レギオン王は顔を真っ赤にしながら激昂して、つばを飛ばして忠告する。
 会議場はシーンとする。

「はっはっはっは」

 そこでカルディア王が豪快に笑い声を上げる。

「レギオン王、何をおっしゃられているのですか。私は先程御国に宣戦布告をしたつもりですよ?」

 カルディア王は獰猛な笑みを浮かべながらそう言ってのけた。
 レギオン王は顔を青くする。

「では、決議を進めていただけますかな?」
「承知いたしました。それでは……」

 司会はカルディア王から決議を引き取り進めていった。
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