上 下
52 / 70

第52話 帰還

しおりを挟む
「ふぅ……なんだか数十年も終焉回廊にいたみたいだな……」

 次元鍵によって元の世界に戻ってきた。
 扉を開いた先は開けた場所で、王都の広場みたいだな。
 騒ぎになるかと少し心配になったが、気にしている人はいないようで杞憂だった。

 俺には前とは違った形で世界が見えた。 
 同じ異世界のはずなのに、風景や空気、太陽の日差しなどが新鮮に感じる。
 道行く人々も不思議とどこか違って見えた。
 それはもしかしたら俺自身が大きく変わったためなのかもしれないけど……。

「一体どこまで強くなれたんだろう……」

 当然、前よりは確実に強くなったが、その強さが現実離れしぎて実感が沸かなかった。
 
 鎖縛の巨神兵ティタノクレスを撃破した後、回廊を意気揚々と進んで、また出てきた強敵に瞬殺されたんだよな。
 トライアンドエラーを繰り返し、その強敵もまた攻略し、また次に進み瞬殺され、また攻略してを繰り返してきた。
 新たに出現する強敵たちに初見でもある程度戦えるようになり、いつしか容易に勝てるようにと変わっていった。
 冥府の終焉回廊の終端までは至れてないが、できるだけのことはやったし、やり切った達成感はある。
 
「グレイスーー!」

 その時、エリーゼとシオンがこちらを確認して駆け寄ってきた。

「もう案内所は終わったの?」
「あ、ああ、そうだな。有益な情報が得られたよ」

 俺の中ではあれから随分と時が経っているはずなのに、つい先程のことのように接してくるエリーゼに違和感を感じる。
 実際こちらの世界ではほとんど時は経過しておらず、エリーゼの反応が正しいのだが。

「私たちも有用な情報が得られたぞ」

 今度はシオンが話す。
 
「あれが有用な情報?」
「だってそうじゃないか。王がここには居ないことが分かったんだから」
「え、ここにいないのか?」

 俺の問いにエリーゼとシオンは頷く。

「じゃあ、どこに」
「世界会議があるとかで、アルゴス帝国に今いるらしい」
「アルゴス帝国か……」
 
 アルゴス帝国は世界で唯一の帝国で、単独の国家として魔族を渡り合える唯一の国家でもある。
 世界中の国家の中で一番強い発言力は有していたが、どこか他の国を傘下に治めているわけではなかった。
 まあ、実質的に子分みたいな国はいくつかあるけどね。

 アルゴス帝国はゲーム中でもその全容は明らかにされておらず、帝国内に強い戦力と高度な魔法技術を有していることから、次のDLCの舞台の有力候補として上げられていたのだった。

 これはゲーム中には無い展開で、俺たちは今、完全にオリジナルの展開を進んでる。
 この先どうなるか全く検討がつかない。
 多少の不安も感じるが、初見でやるゲームのようにワクワクもする。

「じゃあ、オルデア王国の代表としてイザベラ妃も来るんじゃないか? そこで王国でクーデターが企てられてることなんか糾弾できれば好都合だ」
「確かに! 世界中から批判の目を集める千載一遇のチャンスだわ!」
「あの……なんかそういう国際的な集まりってよく分かんないんだけどね」

 そこで、シオンが腕組みをしながら疑問を呈する。

「他国のクーデターなんて知ったこっちゃなくない? ラグナ郷が独立独歩で今までやってきたの知ってるからそう思うのよね」

 確かに国際政治は正義を元にされているわけではない。
 それはあくまで建前で、結局は自国の利益になるか否かで判断される。
 つまりはオルデア王国のクーデターが自国の有利に働くと思えば逆にそれを推奨するし、不利に働くと思えば阻止しようと思うだろう。

「オルデア王国のクーデターが進めば、国の弱体化が進むんだよな? じゃあ、弱体化が進んで王国内の混乱が進んだ時に得する国家はどこだ? 逆にそれで損をするのは?」
「そうね…………」

 エリーゼは考え込むように、ゆっくりと頷いた。
 視線は遠くを見つめ、思考を巡らせている。

「まず、世界会議の中心にいるアルゴス帝国ね。彼らは世界で最も強い発言力を持つ。もしオルデアが弱体化すれば、その隙をついて間接的に影響力を高めることができるでしょう。表向きの介入は避けるだろうけれど、支援という形でオルデアに入り込む可能性は高いわ」

 続けてエリーゼは、別の国家についても言及する。

「一方、カルタス連邦は商業国家だから、混乱が長引くと貿易に支障が出る。彼らとしては、安定したオルデアと取引を続けたいと思うはず。ただし、弱体化すれば経済支配を強められるチャンスでもあるから、慎重に状況を見守りながら、時が来れば自国に有利になるような条約を飲ませにくるでしょうね」

 さらに、エリーゼは視線を鋭くして話を締めくくった。

「そして、ファルデン共和国。ここはオルデアと国境を接している古い敵対国。オルデアの混乱は領土を狙う絶好の機会だわ。クーデターが成功しようが失敗しようが、彼らにとっては進軍のチャンスなの」

 シオンはため息をつきながら続ける。

「結局、どの国も自国の利益しか考えないってことよね。政治はどこの国でも世知辛いわね」
「オルデア王国が衰退することを望みそうな国家は分かった。逆に衰退を望まない国家はないのか? 今の話を聞いた限りでは四面楚歌に感じちゃうけど」

 今度は俺が聞く。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...