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第50話 冥府の終焉回廊

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 扉の向こうに足を踏み入れると、空気が一変した。
 冷たい霧が立ち込め、辺りには薄い青白い光が漂っている。
 見渡す限り果てしなく続く石造りの緩やかな下りの回廊が現れ、その壁には不気味な模様が刻まれていた。
 息を呑むような静けさと重々しい雰囲気が、ここが冥府であることを否応なく感じさせる。

「冥府の終焉回廊……か」

 周りを見回しながら、俺はその名を呟いた。
 マザーの言葉によれば、ここは時間が圧縮された別次元空間であり、現実世界の時間には影響しない。
 それに死んでもやり直せるという。
 しかし、その説明を受けたからといって緊張が和らぐわけではなかった。

「なんだこれ?」
 
 入ってすぐに宝珠のオーブが掲げられた台が目に入る。
 試しにオーブに手を当ててみたが、特に変化はなかった。
 その台は、古代の意匠が施された重厚な石造りの台座で、その表面には神秘的な紋様が刻まれていた。

 一体そのオーブが何かは分からなかったが先に進む。
 すると、床に刻まれた魔法陣がほのかに光り、低く唸るような音が耳に届いた。

「うぉっ!」
 
 その音が何なのか気になるが、ここに立ち止まっているわけにもいかない。
 俺は意を決して、さらに奥へと足を進めた。

 回廊を暫く進むと回廊が巡っている建物本体への入口があった。
 中に入ってみる。
 
 建物の中は冷たく静まり返り、薄暗い闇が全てを包み込んでいた。
 霧のような冷気が魂まで冷やすように感じられ、壁には不気味な紋様が刻まれている。
 通路を少し進むと広い部屋が出現し、その部屋の奥には一体の魔物が鎮座していた。

 真鑑定によって調べる。

 名前:鎖縛さばくの巨神兵ティタノクレス
 種族:古代巨神
 レベル:212
 体力:6561
 魔力:0(物理特化)
 スキル:鎖神の拘束lv99(激レア)、天を砕く豪腕 lv99(超激レア)、魂砕きの重撃lv99(伝説レア)
 ユニークスキル:不死なる躯 lv99(超激レア)

「はははは」

 思わず小声で笑ってしまう。
 100%勝てないだろう敵を目の前にして、脳が現実逃避をしようとしているのだろう。
 
 なんでユニークじゃないスキルに超激レアとか入ってるんだ。
 それに伝説レアってなんだよ。
 たぶん超激レアより更にレアって意味なんだろうけどはじめてみたわ。
 
「それに比べて……」

 俺は久しぶりに自身のステータスを確認する。

 名前:グレイス・カイマン
 年齢:16歳
 身分:カイマン公爵家三男
 レベル:93
 体力:763
 魔力:740
 スキル:鑑定lv99、風操作lv20、微細操作lv1、精密風刃lv15、光屈折lv1、色彩操作lv1、幻影迷彩lv15、影踏みlv12、命奪《めいだつ》の刃lv99、霧操作lv1、霧嵐lv10、毒操作lv1
 ユニークスキル:コピーlv1、スキル融合lv1
 保有スキルポイント:550

 ティタノクレスの体力は6561だ。
 それに比べて俺の体力は763。
 敵は9倍近い体力って終わってるだろ。
 それに魔力0の物理特化ってめちゃくちゃ硬くて、力強い系のやりづらい敵なんじゃないの?
 物理特化もはじめて見たしな。

 だが、やるしかない。
 死んでも死に戻れるらしいし。
 まあ死にたくはないから、無理そうだったらすぐに逃げるけど。
 まず勝てないだろうけど、情報収集がてら当たって砕けよう。
 
 俺はティタノクレスにゆっくりと近づく。
 敵までの距離が残り50メートルくらいになると、それまで真っ暗闇だったティタノクレスの瞳が突如赤く灯る。
 と同時にティタノクレスは起き上がった。

「うぉっ」

 思わず声が出る。
 でかい。2階建ての建物くらいの背丈はありそうだ。
 鋼のようにも見える屈強な体と黒光りする鎖で覆われており、まるで古代から動き続けてきた巨大な機械のようだ。
 長い鎖が腕や胴体をぐるりと巻きついているが、その鎖はまるで蛇のように生きているかのごとく、時折ゆっくりと蠢いていた。
 まるでラスボスかのような圧倒的なオーラと威圧感を感じる。

「我が領域に踏み入った愚か者よ……覚悟はできているか?」

 ティタノクレスはそう言うとゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。
 一歩ごとに大地を揺るがして、足元から石の床が砕け散り、重々しい音が響き渡る。

「まずは確実にダメージを与えられる精密風刃から試してみるか……」

 俺が精密風刃を発しようとした時、ティタノクレスが先手を取る。

天を砕く豪腕ヘブンスマッシュ!』

 



 
「………………」

 気がつくと宝珠のオーブが掲げられた台の所に戻っていた。
 何が起こったのかわからず少しの間、呆然とする。
 
 …………てことは俺はまさか死んだのか?

 痛みもなく、攻撃を加えられたことすら知覚できなかった。
 あの瞬間、ティタノクレスの天を砕く豪腕ヘブンスマッシュは直撃して俺は肉塊と化したということなのだろう。

「マジかよ。強敵すぎんだろ……」
 
 弱音は回廊に飲みこまれていく。

 一体どうやって勝つんだあんな化け物。
 とりあえずあの間合いだと瞬殺されるということは分かったから距離はとるが、攻撃を目で追えなかったことからスピードも相当疾いことが分かる。

 次は一旦、姿を消す幻影迷彩を試してみるか。
 それとも眠りについてたみたいだから、遠目の間合いから命奪《めいだつ》の刃でできる限りの奇襲攻撃を加えて体力を削るか。
 また、難しいとは思うがもしかしたら影踏みが有効かもしれないし、毒も効くか試してみたい。

 トライアンドエラーで有効な施策を探っていこう。
 超高難易度といえどクリアできるようにはできているはずだ。
 幸い時間は無限にあるし、あんな無感覚に死ねるんだったら死の恐怖も薄い。

 こうして俺はこの時は分からなったが、果てしなく困難な道へと向かって進んでいった。
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