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第49話 路地裏のマザー

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 俺に美的センスはない。
 ファッションセンスを貶されることはあっても褒められることはなかったし、美術も得意ではなかった。
 そんな俺でもダサいとわかる。
 それが路地裏のマザーの占いの店構えだった。

 入り口には厚手の紫の布が垂れ下がり、装飾された金具が無理やり豪華さを演出しているが、その古びたデザインが逆に時代遅れな感じを強調していた。
 全体的に奇妙な装飾が多く、狭い路地の中でも無駄に目立ち、不自然に豪華さを演出しようとして失敗しているようだった。

 ゲームをプレイした時はそこまで気にならなかったけど、こうして現実世界で訪れるとここまで違和感を覚えるものなんだな。
 俺は周りをキョロキョロと見渡しながら恐る恐る店の中へ入る。
 はっきり言ってこんな店に用がある人間だと思われたくなかった。

「あら、いらっしゃい」

 狭い入り口を抜けるとまるで怪物かと見間違うほどの巨体を誇るマザーに圧倒される。
 その巨体にも関わらず、不思議と彼女からは威圧感はなくどこか愛嬌さえ感じさせた。

「ささ、そこに座って。運命に導かれて来たなら、占い結果を見ていくといいさ。さあ、何を占う?」

 これは路地裏のマザーを訪れた時に彼女がいつも述べる台詞だ。
 変な所で忠実なんだな。

「魔族の始祖について。その存在についてと始祖に勝つにはどうしたらいいかを聞きたい」
「始祖について? じゃあ、占ってみようかしらね」

 始祖について理解しているのかしてないのか。
 マザーは無造作に占い用の細長い棒をいくつか取り出すと、それらを手のひらの上で軽く転がしながら一つずつ丁寧に並べはじめた。

「ふんふん、始祖はね…………あら、これはちょっと珍しいわね」

 占い棒が並べられると、不思議な模様が浮かび上がり、そのうちの一本が淡く輝き始めた。
 マザーは目を細め、さらに棒を観察しながら言葉を続ける。

「始祖はただの魔族じゃないわ、その存在自体が新たなモデルとなる力そのもの。そして、その力を超えるには…………何か特別な ‘鍛錬’ が必要みたいね。一般的ではない特別な何か」
「その何かとは?」

 彼女の手の動きが止まると、占い棒が不思議な形で整列し、かすかな光を帯び始めた。
 こちらに何か問いかけているかのように並んだ棒をじっと見つめながら、マザーは小さな声で何か呪文のような言葉を唱えはじめる。
 するとマザーの目の色が変わる。
 黒目から青眼へと変わり、誰かが乗り移ったかのように表情も変わった。

冥府めいふ終焉回廊しゅうえんかいろうへ行きなさい。そこにはこの世界の常識を遥かに超えた魔物たちが生息しているわ」

 マザーはその声も別人のように変わっていた。
 年配の女性から若く、システムアナウンスのような声に変わっている。
 
冥府めいふ終焉回廊しゅうえんかいろう?」

 はじめて聞くダンジョン名だった。

「ええ、例えあなたであっても死なずには攻略できないでしょう」
「いやいや、死んだら困るんだけど」
「大丈夫よ、そのダンジョンでは」
「大丈夫?」

 いやいや、大丈夫じゃないだろ。
 死んだら終わりがこの世の真理。
 ユーアーアンダースタンド?
 
 …………いや、まてよ。
 俺は一つの可能性に思い当たる。
 でもそんなことってあるのか?

「もしかして……」
「ええ、そのダンジョンでは死に戻り可能なの。死んだら死んだ時点ではじめからやり直せるわ」

 なるほど。だがただの死に戻りではないはずだ。
 それだとヌルゲーになってしまうからな。
 となれば答えは一つしかない。

「それほどの特典があるということは、難易度が無茶苦茶高いとか?」
「察しがいいのね。ご明答よ」
「俺以外の人間にこの情報は?」
「まだ誰も知らないわ。私とあなた以外は」
「なるほど……そのダンジョンでレベル上げをすれば始祖も凌駕できると」
「ええ、その通りよ。逆に今この現状下、冥府の終焉回廊以外の場所のレベル上げで始祖を凌駕するのは難しいでしょうね」

 マザーは星屑ほしくずのキングメタル狩りについては把握しているのだろうか?
 あれは一種のバグ技みたいなものだから、マザーであっても把握していない可能性は高い。
 だがなんとなくの直感では星屑ほしくずのキングメタル狩りでは、始祖に敵うまでにレベル上げするのは難しい気がしている。
 ここは別に損はないし、乗っておくか。
 
「わかった。じゃあ、その冥府の終焉回廊へはどうやったらいける?」

 するとマザー前に突如、円球の小さな黒い空間ができてギョッとする。
 彼女は無造作にそこへ手を突っ込むと、半透明で幾何学模様が刻まれ、薄っすらと光を放っている鍵を取り出した。

「これは冥府の次元鍵よ。この鍵を使用することで時空隙を生じさせて、どこからでも冥府の終焉回廊へ行くことができるわ。ほら、こんな風に」

 マザーは冥府の次元鍵を無造作にその辺りの何もない空間に差し込み回す。
 するとカチッと音がした瞬間に光りに包まれ半透明が扉が現れて、それが開く。
 その扉の奥は薄暗い空間になっていた。

「はい、じゃあこれ渡すわね」

 マザーが次元鍵を俺に渡すと今出現した扉は一瞬のうちに消え去った。

「じゃあ、いってらっしゃい」
「いや、そんな超高難易度ダンジョンの攻略なんて当然時間かかるでしょ? 正直今はそこまでの余裕ないんだよね……」

 俺は頭をかきながら答える。

「あら、冥府の終焉回廊は時空隙にある時間圧縮された別次元の空間だからこちらの時間軸は気にしなくていいわよ」
「え? …………そうなのか」

 であれば断る理由も特になかった。

「じゃ、じゃあ……」

 俺は恐る恐る次元鍵を何もない空間に差して回す。
 すると目の前に透明な扉が現れてカチリと音がした。
 その後に光に包まれながらも扉が開き、その扉の先に薄暗い別の空間が出現した。

「じゃあ、行ってくる」

 その先に何があるかわからない薄暗い空間の中に入っていく。
 結構怖い。ちょっとしたお化け屋敷の中に入るみたいな気分だ。
 するとマザーの青くなっていた瞳は黒へと戻り、別人のように変わっていた雰囲気も元に戻っていく。

「あら、私今まで……」

 俺がマザーに返答するよりも前に出現していた扉は消え去り、薄暗かった空間の全貌が明らかになって冥府の終焉回廊がその姿を現した。
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