上 下
28 / 70

第28話 祝い

しおりを挟む
【グレイスside】

「グレイス様、お帰りなさいませ!」

 屋敷に戻るとメイドたちが総勢あつまり、俺を待ち構えていた。

「あ、ああ。ただいま」

 今までにない経験で少し戸惑いながら応える。

「グレイス様、素敵でした!」
「流石はグレイス様です。勇者は強敵でしたが私はグレイス様を信じておりました!」
「グレイス様はカイマン領の希望です!」
「これでカイマン家の将来は安泰。セドリック様も安心だと思います!」

 メイドたちは次々と俺に群がり称賛の言葉を投げかけてくる。
 全く、少し前とは大きな違いだ。
 ここまでくれば屋敷のものたちの俺へのヘイトを気にする必要はないだろう。
 後は普段通り接するだけだ。

 屋敷の窓からは兄のヴォルフとアイゼンがこちらを眺めている。
 おそらく今回の決闘で俺が敗北することを望んでいたんだろう。
 二人とも苦々しい表情をしていた。

 そこで父セドリックが玄関を扉を開いて登場した。

「グレイスよ、よくやった。まさか勇者を打ち倒すものが我がカイマン家から出るとは。お前は私の誇りだ!」
「あ、ありがとうございます」
 
 父は感激した様子で俺の両肩を持ちながら称賛の言葉を送った。

「それでは食事にするか? 今日は祝いだ!」
「はい、腹ペコです」

 俺は父に促されて屋敷の中へと入る。

 ストーリーを順調に進められているようで嬉しいが、勝って兜の緒を締めよということわざもある通り、これから先の展開は未知数だ。
 そもそも悪役令息のグレイスが勇者アルフレッドに勝利するルートは存在しないからな。

 俺は祝いの席につく。
 長テーブルの上には所狭しとご馳走が並べられていた。

「今日は特別に贅を尽くした料理を揃えさせた。特別な日には特別なご馳走を食そう。お前の好物も揃ってる。さあ、食事にしよう!」
「はい、いただきます!」

 父の号令を合図に食事がはじまる。
 正妻のイザベルと二人の兄も食事の席についているが、三人とも無言で借りてきた猫のようにおとなしい。
 日常的に行われていた俺への暴言も今ではすっかりなくなっていた。

 俺はご馳走に舌鼓したつづみを打ちながら今後の展開を考える。
 予測されるルートはいくつかあるが、その中でバットエンドに繋がりそうなルートは潰す必要がある。
 まずは父セドリックの暗殺回避だ。

 実はカイマン領は一次産業が盛んで豊富な小麦が収穫できて、加えて牧畜も盛んだ。
 カイマン領から提供される食料はオルデア王国の3分の1以上が賄えるほどのもので、加えてレギオン王国とも隣接していることから、非常に地政学的に重要な領地であった。
 
 王国のクーデタールートに入ると、カイマン領という地政学的に重要な領地を治め、王国内でも強い力を有しているセドリックが真っ先に暗殺されてしまう。
 その後、カイマン領はレギオン王国からの侵攻を許して、占領されてしまうのだ。

 ここで友好な関係を築けている実力者の父を失うのは痛い。
 冷たい印象だった父だが、最近では情も移ってきてるしな。
 なので、なんとしても父の暗殺は回避したかった。

「グレイス様、水のおかわりは如何ですか?」
「ありがとう、いただくよ」

 新人メイドが俺のグラスに水を注ぐ。
 まだ大丈夫だろうが、こうした飲食物の中に毒が仕込まれるのだ。
 そして毒を仕込むのはゲームではメイドだった。
 そのメイドの素性自体は明らかにされていない。
 
 カイマン家のメイドは古株が多く、少なくても3年以上は働いているものが多い。
 彼女たちは忠誠心は比較的強くて、お金を握らされたとしてもそれだけで父を毒殺するとは通常考えられない。
 公爵殺しなんて嫌疑をかけられるだけで、人生が終わってしまうからな。
 
 可能性が高いのは最近入った新人メイドだ。
 彼女には監視の目をつけようと思っている。
 併せて父にも危険な動きがあることを伝えるつもりだった。

 これでクーデタールートに入ったとして、父の暗殺を防いだとしてもレギオン王国からの侵攻をどこまで抑止できるのかはわからない。
 だが人事を尽くして天命を待つつもりだ。
 そうすれば少なくとも後で後悔することはないからな。

「後で使用人たちにも祝いの食事を用意させているから、そのつもりでな」
「ありがとうございます!」

 父の言葉を聞き、メイドたちはすごく嬉しそうに笑顔で返事をした。

 ご馳走は小分けにされて次々と運ばれてくる。
 祝宴が続く中、俺は一旦考えることを放置し、目の前の食事を最大限楽しむことにした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。 だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。 一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...