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聖女とハルフィリア

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イヴがなんで体調が悪くなったのか、気になった。
外回りから帰ってきてから様子が可笑しかった。

なにがあったんだろう、またハルフィリアが現れたのか?

イヴは自分から言う事はないから、俺が聞かないとずっと話さないだろう。

病み上がりだから体調を聞いて、まだ外回りをするのはダメだと言っても調べたい事があるからと今日から行くみたいだ。
自分の体を大事にしてほしいのに、やっぱりなにかあるんだと勘繰ってしまう。

「イヴ、昨日の夜なにがあったの?」

「…なんで?」

「様子が可笑しかったから」

「初めて病に負けてびっくりしただけだから、大丈夫」

イヴはそう言うが、正直全然大丈夫には見えない。
寝間着から騎士服に着替えて準備をして、今日も外回りに出かけた。

俺は掃除を終わらせてから寝るとイヴに言っていて、まだ起きている。
夜ふかしは体に悪いと言われて「もう寝るよ」と言って見送った。
イヴにそう言ったけど、俺はもう少し起きていたかった。
イヴも外に大事な用があるのか、急いで外に出た気がした。

付いて行きたいけど、ハルフィリアが何処で現れるか分からないのにウロウロしてられない。

ため息を吐いて、ほうきを持って床を掃除した。
魔導通信機を覗いても、何も映し出されていない。
イヴが通信を切っているからだ、普段は俺が心配で魔導通信機は常に繋げていたのに…

俺に見られたくないなにかがあるのだろう、イヴにも秘密があるに決まっている。
でも、その秘密がイヴの精神に影響してイヴを苦しめているというなら不安で寝てなんていられない。

机を見ると、仕事の書類に混じって別のものが見えた。
本だ、イヴはこの本を仕事の合間に見ていたのかな。

その本は聖騎士と聖女について書かれた歴史の本だ。
俺も見た事がある本だけど、あの時と今では見方が違った。

イラストで描かれたハルフィリアを現実に見たからだろう。
それに、俺がよく見るあの女性はハルフィリアに寄り添う女性に似ているどころかそっくり過ぎた。
俺が見た女性の顔がよく見えなくても、これは別人だって思う方が可笑しな話だ。

遠いとはいえ俺が聖女の生まれ変わり…だったらちょっとでも治癒の力の魔力レベルが高ければいいのに、そこは凡人だ。

それに俺の前に聖女が現れたのはハルフィリアが現れてからだから、きっと生まれ変わりとはいえ聖女と俺は繋がりが薄い気がした。

だからイヴの事を何も知らないくせにいろいろ言われたくなかった。

俺が本以外でハルフィリアを知らないのと同じだ。

イヴが調べていたという事は、俺の傍に聖女がいた事を知っている。
イヴは一度聖女の姿を見ているからな、俺しか見えない幽霊かと思っていたけど…

でもさすがに生まれ変わりだというのは知らないと思う。
少しでも疑惑があったら、俺に確認すると思うし…

コレとイヴが外回りに行きたい理由を考えるとすると…

考え事をしていたら、部屋のドアの鍵がカチャッと開ける音が聞こえた。
ドアの方を見ると、ゆっくりと開かれていき緊張する。
開かれた隙間から外の廊下を見ても、そこには誰もいなかった。

俺が外に出たからなにかが出来るかって言われたらそうじゃない。
ドアを閉めると、俺の首元に冷たい感触があった。
その手は聖女のもので、後ろを振り返ると今まで見えなかった顔がはっきりと見えた。

俺が聖女の正体に気付いたからなのかな、聖女はジッと見つめていた。
現実はイラストよりも美しくて、冷たい雰囲気の女性だった。

「貴女は初代聖女様だったんですね」

『……』

「ハルフィリア様を止めるために俺の前に現れたんですか?」

聖女に俺の声が届いている筈だ、だから幽霊でも会話が出来る。
聖女は少しだけ沈黙して、ゆっくりと首を横に振った。

ハルフィリアのために戻ってきたのかと思ったが違ったみたいだ。
俺の頬に冷たい手が触れて、額を合わさって瞳を閉じた。

俺もつられて閉じると、幽霊なのに不思議と温もりを感じた。
ドアがまた開き、さっきのは聖女が開けたんだと気付いた。

『何も知らず、騙されているのが不憫だったから』

「俺は不憫なんかじゃない今が幸せだから」

『それが、作られた幸せでも?』

「俺は受け入れたって言ったじゃないですか、心配される事はありません」

俺が此処から出れるようにしているんだろうけど、俺は出ない。
出てどうするのかという問題もあるが、ハルフィリアがいるかもしれない中を無防備に歩きたくない。

それに、イヴを置いて行きたくない…俺はイヴを精神的に支えたいって思っているから…

開いたドアを閉めると、背中から風が吹いてびっくりした。
後ろを振り返ると、窓が開いていて聖女はどうしても俺を外に出したいのかとため息を吐いた。
聖女の方を見ると、そこには誰もいなくて気まぐれに苦笑いした。

窓に近付こうとしたら、外になにか光るものが見えた。
閉じようとした手を止めて、目を細めているとなにかが迫ってくるのが見えた。

慌てて窓を閉めて、窓から離れるとその光るものが壁をぶち破ってきた。
瓦礫が体に当たったが、幸い軽傷で抱えていた頭を外した。

ぽっかりと開いた壁の穴から現れたのは、ハルフィリアだった。

「まさか魔物が城の中にいるなんてな」

「…っ!」

「魔物は一つも残らず根絶やしにする」

「待って!!こんなところで戦ったら多くの犠牲者が…」

「魔物を倒すためなら、多少の犠牲は仕方ない…それに城に聖女がいるなら治してもらえばいい」

ハルフィリアは本当に人を助ける事より、魔物を倒す事だけを考えているのか。
昔と今では状況が違うとしても、誰かを犠牲にしていい理由にはならない。

俺が城から出ないと、でもどうやってこの場から逃げればいいんだ?
穴が開いた壁にはハルフィリアがいて、廊下に出たらハルフィリアが攻撃してくるかもしれない。
だとしたら、やっぱり開いた穴から逃げるしかない。

ハルフィリアを移動する必要があると思っていたら、大きな音で部屋の外が騒がしくなる。

明らかに人が集まっているのに、ハルフィリアは剣を構えていた。
こんなところで魔術なんか使ったら、聖女に治してもらう前に人が死んでしまう。

俺は持っていたほうきをハルフィリアに向けて投げつけた。
まともに戦って勝てる相手じゃないから、とりあえずあるものを投げつけた。
ダメージはないがハルフィリアの攻撃を止める事は出来る。

厚みがある本を投げつけると、剣で弾いて床に落ちた。
その衝撃で開いて、ハルフィリアは視線を本に向けていた。

あの本って、確か聖騎士伝説が描かれている本じゃなかったっけ。

「イヴッ!!」

ドアが開かれて、エマと数人の騎士が中に入ってきた。
イヴが中にいると思っていたのか、エマは周りを見渡していた。
俺の存在に気付いて、俺は皆に避難するように言った。

聖騎士と戦えるのは聖騎士だけだ、他の人がどうにか出来る相手ではない。

エマはハッと我に返り、護身用に持っていた槍を構えた。
ただ、向けられているのはハルフィリアではなく俺だけど…
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