67 / 127
好みの話
しおりを挟む
「ユーリ」と名前を言われるだけでドキッとする。
「エマ様がなんだって俺達に関係ない」
「ご、ごめん…イヴがエマ様を好きになるとかそういう意味で言ったわけじゃないんだ」
「当然だ、そう思っていたらユーリを分からせるだけだけど」
「んっ…」
ユーリが俺の服の中に手を入れて、腰に触れていた。
イヴは俺の耳元で「俺はユーリの理想の騎士になれた?」と囁いてきた。
理想、どういう事か考えたいのにイヴの息遣いが脳を思考停止させる。
「俺は神話の騎士のようになるつもりはないが、ユーリが望むなら俺は俺を作るよ」
「イヴはイヴだよ、そのままのイヴで居てほしい」
「ユーリがそう望むなら」
イヴは俺から手を離して、枕の横に置いてあった本を掴んだ。
読むわけではなく、パラパラとページを捲ると本を閉じるとベッドから降りた。
本棚に本を戻して、俺の横に座って布団を掛けてくれた。
イヴは今の自然体のままがいい、作られたものではないと思いたい。
誰かの理想になるために偽るなんて、間違っている。
イヴの方を見ると前髪を触られて、くすぐったかった。
「イヴ、俺は自分らしいイヴが見たい…誰かに言われて真似するなんて変だよ」
「自分らしいって?俺にはなにが正しいのか分からないよ、ユーリに導いてほしいな」
「えーっと、好きな料理とか!自分の好みは人それぞれだから一番身近に感じられるよ!」
「好きな料理……ユーリの作るもの」
「それはちょっと違くないかな、俺がイヴの嫌いな料理を作ったら好きな料理とか言えないんじゃ…」
「俺に嫌いな料理なんてないよ」
「イヴが食べてないだけであるかもしれないよ」
「そうかな?じゃあユーリが教えてくれる?」
「でも俺はイヴの嫌いな食べ物は作りたくないから」
「じゃあそれでいいんじゃない?俺の好きな料理はユーリの手料理だよ」
イヴの本音と好みを知りたかったのに、イヴの方が一枚上手だったみたいだ。
俺の手料理って、失敗した料理でもイヴの好きな料理になるのか?
……いや、イヴにそんなものを食べさせるわけにはいかないからイヴの好みは謎のままだ。
いつか、イヴが苦手な料理を作ってしまうかもしれない。
イヴの好みが分からないと避けようがない。
でも、イヴの苦手な料理を知ると…イヴには悪いがホッとしてしまう。
イヴは魔導士だけど、人間味がないように感じた。
さっきも俺のために自分を偽ろうとしていたし、イヴの本音が聞きたい。
俺じゃあ頼りないかもしれない、でも俺だってイヴのためになにかしたい気持ちは一緒だ。
「イヴ、なにかあったら俺に言って…力になるから」
「ありがとうユーリ」
イヴは心からそう思っているのか分からないが、今…確かなのは手のひらの暖かな温もりだけだ。
目蓋を閉じて、眠りにつく。
俺は夢を見た、真っ暗な夢。
その夢の中心に座り込んでいる人の姿があった。
黒髪が腰まで長く一つに束ねている姿は、あの本の挿絵にあった神話の聖騎士にそっくりだった。
泣いている声が聞こえる、何故泣いているのか俺には分からなかった。
夢の中の俺には両手も両足も口さえもないから何も出来ない。
ただ、なにかに運ばれるように体が浮いて近付いていく。
すると、泣いていた声はピタリと止み…その人物はゆっくりと振り返った。
その顔はだんだん真っ黒に皮膚が染まり、真っ黒な目から赤い雫がこぼれ落ちた。
「うわぁぁ!!!!」
本を見ていた影響で夢に出るのは分かるが、なんでホラーなんだよ!
そういうの魔物とかで見せられてトラウマなのに…
心臓がバクバク言いながら起き上がると、外はまだ暗かった。
汗が出ていて、かなりの悪夢だったのだと分かる。
首筋に触れる冷たい手の感触がして、イヴなんだと思って手に触れる。
でもなにか変だとすぐに気付いて、イヴの方を見た。
なにが起きたのか一瞬分からなかった。
でも『その人』はイヴなんだと、それだけは分かった。
「エマ様がなんだって俺達に関係ない」
「ご、ごめん…イヴがエマ様を好きになるとかそういう意味で言ったわけじゃないんだ」
「当然だ、そう思っていたらユーリを分からせるだけだけど」
「んっ…」
ユーリが俺の服の中に手を入れて、腰に触れていた。
イヴは俺の耳元で「俺はユーリの理想の騎士になれた?」と囁いてきた。
理想、どういう事か考えたいのにイヴの息遣いが脳を思考停止させる。
「俺は神話の騎士のようになるつもりはないが、ユーリが望むなら俺は俺を作るよ」
「イヴはイヴだよ、そのままのイヴで居てほしい」
「ユーリがそう望むなら」
イヴは俺から手を離して、枕の横に置いてあった本を掴んだ。
読むわけではなく、パラパラとページを捲ると本を閉じるとベッドから降りた。
本棚に本を戻して、俺の横に座って布団を掛けてくれた。
イヴは今の自然体のままがいい、作られたものではないと思いたい。
誰かの理想になるために偽るなんて、間違っている。
イヴの方を見ると前髪を触られて、くすぐったかった。
「イヴ、俺は自分らしいイヴが見たい…誰かに言われて真似するなんて変だよ」
「自分らしいって?俺にはなにが正しいのか分からないよ、ユーリに導いてほしいな」
「えーっと、好きな料理とか!自分の好みは人それぞれだから一番身近に感じられるよ!」
「好きな料理……ユーリの作るもの」
「それはちょっと違くないかな、俺がイヴの嫌いな料理を作ったら好きな料理とか言えないんじゃ…」
「俺に嫌いな料理なんてないよ」
「イヴが食べてないだけであるかもしれないよ」
「そうかな?じゃあユーリが教えてくれる?」
「でも俺はイヴの嫌いな食べ物は作りたくないから」
「じゃあそれでいいんじゃない?俺の好きな料理はユーリの手料理だよ」
イヴの本音と好みを知りたかったのに、イヴの方が一枚上手だったみたいだ。
俺の手料理って、失敗した料理でもイヴの好きな料理になるのか?
……いや、イヴにそんなものを食べさせるわけにはいかないからイヴの好みは謎のままだ。
いつか、イヴが苦手な料理を作ってしまうかもしれない。
イヴの好みが分からないと避けようがない。
でも、イヴの苦手な料理を知ると…イヴには悪いがホッとしてしまう。
イヴは魔導士だけど、人間味がないように感じた。
さっきも俺のために自分を偽ろうとしていたし、イヴの本音が聞きたい。
俺じゃあ頼りないかもしれない、でも俺だってイヴのためになにかしたい気持ちは一緒だ。
「イヴ、なにかあったら俺に言って…力になるから」
「ありがとうユーリ」
イヴは心からそう思っているのか分からないが、今…確かなのは手のひらの暖かな温もりだけだ。
目蓋を閉じて、眠りにつく。
俺は夢を見た、真っ暗な夢。
その夢の中心に座り込んでいる人の姿があった。
黒髪が腰まで長く一つに束ねている姿は、あの本の挿絵にあった神話の聖騎士にそっくりだった。
泣いている声が聞こえる、何故泣いているのか俺には分からなかった。
夢の中の俺には両手も両足も口さえもないから何も出来ない。
ただ、なにかに運ばれるように体が浮いて近付いていく。
すると、泣いていた声はピタリと止み…その人物はゆっくりと振り返った。
その顔はだんだん真っ黒に皮膚が染まり、真っ黒な目から赤い雫がこぼれ落ちた。
「うわぁぁ!!!!」
本を見ていた影響で夢に出るのは分かるが、なんでホラーなんだよ!
そういうの魔物とかで見せられてトラウマなのに…
心臓がバクバク言いながら起き上がると、外はまだ暗かった。
汗が出ていて、かなりの悪夢だったのだと分かる。
首筋に触れる冷たい手の感触がして、イヴなんだと思って手に触れる。
でもなにか変だとすぐに気付いて、イヴの方を見た。
なにが起きたのか一瞬分からなかった。
でも『その人』はイヴなんだと、それだけは分かった。
14
お気に入りに追加
3,725
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】前世の記憶が転生先で全く役に立たないのだが?! ~逆チートの俺が異世界で生き延びる方法~
.mizutama.
BL
☆本編完結しました!!番外編を続々更新予定!!☆
由緒正しい家柄である騎士団長の夫妻に拾われた赤ん坊の俺、アントンには日本人だった前世の記憶があった。
夫妻に溺愛されてすくすくと成長した俺だが、キラキラしたこの異世界での場違い感が半端ない!
そして、夫妻の実子である一歳年下の弟・アルベルトの冷たい視線が突き刺さる!
見た目がザ・平民の俺は、貴族の子弟が通う学園でクラスメートからほぼいない者として扱われ、16歳になるのに婚約者さえ決まらない!
体力もなければ、魔力もない。選ばれし勇者でもなければ、神子でもない。
この物語は、そんな俺がこの異世界を生き抜き、なんとか安らげる居場所を求めてあがいた生々しい記録である!!
【R18】
完全無欠美貌騎士の弟×平凡無自覚兄
(※その他攻めキャラいろいろ・・・・)
※注意事項※
愛されという名の総受け。
ギャグですが、R18要素は多め!(R18シーンは予告なく、突然に始まります!)
攻めはイケメンですが、全員変態です。
それでもいいという方のみご覧ください!!!
【お願い】
ネタバレ感想はネタバレフィルターかけさせていただきます。あしからずご了承ください!アンチ感想・感想という名の展開予測はご遠慮ください。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる