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苦手な相手

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玄関に向かって、ドアを開けるとそこにいたのは嫌な顔だった。
わざわざ会いたくなかったのに、なんで自分から関わってくるのか。

後ろを振り返ると、母さんが心配したような顔をしていて…俺は「ちょっと出てくる」とだけ言って訪問者の肩を掴んで家から出た。

俺をニヤニヤと馬鹿にしたような悪い顔をしていた。
いつも俺を馬鹿にするから苦手だ。

「まだ倉庫に住んでるのかよ!」

「…倉庫じゃなくて、俺の家だけど」

「俺の家の物置と同じだろ!」

街で大人気のパン屋の一人息子のササくんは顔が良くて、貴族街出身で女の子にモテモテ。
ほしいものは全て手に入れてきたからか、性格が悪い方に歪んでしまった。

平民街に住む子供をこうしてよく馬鹿にしたり奴隷扱いしている。
特に俺は泣いたり喚いたり傷付いたりしないからか変に執着されている。

ササくんのストレス発散に俺を巻き込んでほしくないだけなんだけどな。
泣けばもう付きまとったりしないだろうか。

「えーん、えーん」

「お前、平民のくせに俺の事馬鹿にしてるのか?」

やっぱり余計怒らせたみたいだ、じゃあどうしろって言うんだよ。

俺はササくんが苦手だが、同時に羨ましいと思っている。
ササくんが金持ちとか女の子に人気だからではない。

漫画ではササくんは登場しない、ヒロインのエマがパン屋に行くシーンはあるが登場しているのはふくよかなササくんのお母さんだ。
つまりササくんは正真正銘のモブキャラという事だ……羨ましい。

同じ歳だからササくんも俺と同じ魔術学校に行くのは義務付けられている。
俺なんて構わず彼女の一人か二人でも作ればいいのに……いや、二人はダメか。

ササくんは目を細めていて、なにかを見ていた。

「なんだその腕」

「えっ、別に何でもないけど」

「見せてみろよ!」

ササくんが俺の腕を掴もうと腕を伸ばしてきた。
乱暴に掴まれたらすぐに包帯が解けるかもしれない。

後ろに下がり、嫌だと言おうとしたらその前にササくんの体がぐるぐると回り始めた。
風に乗ってササくんが飛んでいき、近くにあるゴミ捨て場に倒れ込んだ。
頭から生ゴミのバケツに突っ込んでいた。

俺はこんな高レベルの魔術は使えない。
周りを見渡してもそれらしい人はいなかった。
ササくんの呻き声が聞こえて、ササくんを助け起こそうと思って手を伸ばした。
しかし、ササくんに手を払われてしまいゴミを蹴散らしながら歩いていた。
ゴミまみれのササくんは直接ではないが、俺のせいのような気がして謝って追いかけようとした。

でもササくんは「付いて来たらぶっ殺すからな!」と捨て台詞のように吐いて、行ってしまった。、

散乱したゴミを片付けようと思ったら、そこにはもうゴミがなかった。
首を傾げて、周りを見渡すとやっぱり誰もいない。

たまに不思議な事があったりする。
転びそうになった時に風が吹いてバランスを整えてくれたり、寒い冬に外に出る時に温かな火の玉が俺に付いて回ったり…
魔術がある世界だ、俺の知らない自然現象がたくさんあるのかもしれない。

でも、いつも俺がピンチの時に自然現象が助けてくれる。
……それってもはや自然現象ではないのではないのか?

一度「誰かいるのか?」と聞いてみたが、誰も姿を現さなかった。
幽霊でもいたんじゃないのかと顔を引きつらせて考えないようにしていた。
でも、やっぱり気になる…木の陰や建物の裏に誰かいるんじゃないのか。

一歩踏み出そうとしたら、後ろから母さんの声が聞こえた。

「ユーリ、誰が来てたの?」

「えっ…あー、何でもないよ」

母さんは不安そうな顔をしていたから、笑って一緒に家に帰った。

もし誰かがいるというなら、なんで俺に姿を見せないのだろう。
お礼が言いたいだけなんだけどな。

夕飯の準備はもう終わっていて、ろくに手伝っていない事を謝った。
母さんは「大丈夫よ」と言ってくれたが、お詫びに家の掃除をする。
毎日掃除はしているから目立った埃や汚れはないが、行き届かない細かいところを掃除する。

窓の掃除をしようと思ったら、窓に小さな紙が張り付いていた。
窓を開けて、手に取るとなにか文字が書いてあった。

一言「ユーリが気に病む事じゃない」
と書かれていた。
やっぱり誰かがいるんだ、とても綺麗な字だけどいったい誰なんだろう。

「なんで、いないんだ…」

俺の傍には常に誰かがいる、でも姿が見えない。
俺の事が嫌いなのか?でも、嫌いだったら普通助けたりしない。

気になって仕方ない、姿を見せればいいのに…
漫画ではユーリは一人ぼっちだった、取り巻きはいない。
今の俺も友達は二人しかいないが、その二人もこんな事はしない。

父さん……なわけないか、今仕事中だし…

紙を綺麗に折り曲げて、机の引き出しに入れた。

台所から母さんの俺を呼ぶ声が聞こえて、急いで台所に向かった。

魔術学校は16歳から21歳まで通う義務がある。
優先順位が魔術学校より他にあるなら早めに卒業も出来る。

例は聖騎士のように20歳で騎士団長になり、仕事が多忙になると学校に通う事も困難になり卒業扱いになる。
卒業するには試験を当然受ける、早く卒業する生徒は普通の試験より内容が厳しい。

イヴはただでさえ難しい卒業試験を歴代最高得点で合格した。

漫画ではそうだった、今はまだ19歳だけど来年は騎士団長になる事が約束されている。
街に出ると、風の噂で聞く事もあった。

本物のイヴにはまだ会ってはいないが、きっと頑張っているのだろう。
漫画で決められた結末とはいえ、努力しないと漫画でもイヴが騎士団長になれないと思う。

俺はとりあえず魔術学校を卒業出来る努力をしよう、その後の事はその後考えればいいか。
この紙を書いた主にも会いたい、いつか…姿を見せてくれるかな。

今日の夜はとても星が綺麗な空だった。
柄にもなくお願い事をしてみたりして…

「モブであり続けられますように」






*イヴ視点*

失敗した、失敗した、失敗した。

ユーリを助けるどころか、あんな顔をさせてしまった。
悲しませるつもりはなかったんだ、ただユーリを困らせるアイツに腹が立っただけだ。

ユーリは何も悪くない、俺のせいだ…

ユーリに迷惑を掛けるから、ユーリの前に姿を見せる事が出来なくなった。
聖騎士になったら、国のシンボルとして騎士団長になれと強く言われている。
騎士団長なんかになったら今まで以上にユーリとの時間が減ってしまう。

俺にとってどんだけ大切だと思っているんだ。

騎士団長はやりたい奴がやればいい、騎士団にはいっぱいいる筈だ。

嫌だといえば父は俺の嫌がる事を把握しているのか「騎士団長にならないとお前の行動を制限する」と言っていた。
実際に行動を制限出来るとは思えないが、俺に監視が付いたらユーリのところに行ったらユーリの存在がバレてしまう。

気が重いが、これはユーリを守る事でもある。
俺がユーリを守らないと、俺のユーリ…大切な…

ユーリの家の周りにいた魔物を掴んで引きずりながら夜道を歩いていた。
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