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イヴ視点14

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ユーリとの時間は一分一秒たりとも無駄にしたくはない。
だから俺達の邪魔をする奴は誰であろうと許さない。

ユーリの額にキスをして、家を出て腰に下げていた剣を引き抜いた。
首に近付けると、邪魔者はヘラヘラと笑っていた。

俺が剣を引き抜くのが分かっていたのか、自分の武器である鉄の棘で出来た鞭を伸ばして受け止めていた。

ユーリを見たくて家にまで来たコイツにユーリを会わせるわけにはいかない。
ユーリに悪い事を吹き込みかねない、だからユーリとの時間を終わらせてまで来たんだ。
ユーリを守るために、コイツをどうにかしなきゃいけない。

ギリギリと剣を近付けて、マティアスの首の皮に触れる。

「落ち着いて!こんなところで殺人なんてしたらイヴ様のハニーちゃんに見られてしまいますよ」

「……」

「俺も死ぬなら自分のハニーちゃんの腕の中って決めてるからさ」

マティアスは声は慌てているが、顔が笑っている。
眉を寄せるが、剣をさげるとマティアスは自分の首に触れた。

コイツが死のうがどうでもいいが、ここは家の前だと思い出した。

ユーリに見られるというより、ここでコイツを殺したら血で汚れる。
ユーリが血を踏むかもしれない、ユーリの靴が汚れてしまう。
汚い血が付くのは直接でなくても許されない。

殺すなら別のところにしよう、ユーリが絶対に来ない場所で…

マティアスの横を通り歩き出して、マティアスがまだ俺の家の前にいたから胸ぐらを掴んで引きずる。

「マティアス、今日こそ殺してやる」

「お?やりますか?俺も他の騎士達じゃウォーミングアップにもならなくて」

マティアスを睨むと、ニヤッと不敵に笑っていた。

俺とマティアスは団長と副団長の仲だが、決して仲がいいわけではない。
マティアスは俺に絡んできて、俺は鬱陶しいと思っている。
ユーリに関してもああやって見ようとしたり、聞いてきたりするから……本当に殺したくなるほどに嫌いだ。

恋愛感情ではないが、ユーリは俺のものだ…ユーリの魅力を語るわけがないだろ。

副団長なんて他にいくらでもいる、マティアスが他より少しだけ優れているから帝王が副団長にした…ただそれだけの男だ。
コイツが死んだら喜ぶ人はいるが、悲しむ人は一人もいないだろうな。

裏で貧困街の奴らを弄んで殺しているのを騎士団の奴らは皆知っている。
でもマティアスに歯向かうと自分まで殺される、それに貧困街の奴らなんて死んで当然だと思っているから誰も口出しはしない。
騎士団だけではなく皆、そう思っているからマティアスは野放しだ。

俺は貧困街とかどうでもいい、ユーリの話をしつこく話すから死んでほしいと思っているだけだ。

副団長だからかなかなかマティアスを殺せないから苛立ちが溜まる。
聖騎士の力を使えばただの魔導士のマティアスは死ぬだろう。
でも聖騎士も魔騎士も条件があるから常に使えるわけではない。
魔騎士は自分の意思でなる事が出来ないし、聖騎士はユーリを守る力に反応するから使えない。

魔力レベルもマティアスは二つレベル5がある。
水と炎だから、俺の力と相性が悪いどっちかの魔術をぶつけられるからマティアスを簡単には殺せない。

本当に、鬱陶しい奴だ…ユーリに絶対に近付かせない。

家から離れた場所で、マティアスが俺の腕を振り払って炎に燃えた鞭を振り回していた。
剣を横に振ると、大量の水が出て来てマティアスごと飲み込んだ。

一番街はほとんど人が住んでいないから、こんな事をしていても誰も来ない。
俺達に巻き込まれるからという理由もあるだろうが、邪魔が入らないならそれでいい。

ここは一番街の端にあり、用がなければユーリが来る事もない。
大量の血が流れても、ユーリが汚れる心配はない。
水により前が遮られて、マティアスは鞭で水を切るとその前に剣を振り下ろした。

すぐに鞭で塞がれて、マティアスは楽しんでいるのか笑っていた。

「やっぱりイヴ様は最高ですね、強くて美しくて…そうじゃなくっちゃ殺しがいがありませんよ!」

「…俺と魔術の勝負をするのか?」

「ふふっ…」

マティアスの鞭から一滴の水が落ちたと思ったら大量の水が噴き出して、そのまま飛ぶように後ろに下がり鞭を振り上げた。
水なら風の魔術で吹き飛ばせるか、力の差を分からせるために俺の手のひらに水の魔術を溜めた。

剣に水が纏い、そのまま地面に差し込んで地面が割れて中から氷の棘が突き出てきた。
マティアスは軽く口笛を吹いて、風の魔術で自分の体を浮かせた。

俺の氷が届かない位置まで上がっていて、ため息を吐いた。
これ以上やると、騒ぎになりかねない…マティアスはそれを分かっている。
夜なら静かに殺せるが絶対にマティアスは夜の前には家に帰るから首を狙えない。
探して殺すなんて時間の無駄だ、夜はユーリに使いたい。

昨日はユーリに痕を付けたからアイツだけは許せなくて殺したけど…

魔術を消すとマティアスがフラフラと地面に降りた。

「まさか水を氷に変えるなんて、さすが聖騎士様だ」

「……」

「また遊びましょうね」

マティアスが笑っていても、俺の表情に笑みなんてなかった。
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