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イヴ視点10

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ユーリが20歳になって、独り立ちを始めた。

密かにこの時を待っていたんだ、ユーリと一緒に居られるこの時を…ずっと…

城で暮らしていた理由はエマ様を守るため、これは俺の意思ではなく騎士団の決まりでそうなっている。
でもユーリが独り立ちをしたなら、俺もユーリとの新居を見つけなくてはいけない。

俺が仕事をしている時にユーリは一人になってしまうから治安がいい事は大前提で、人目がつかないところがいい。
俺のユーリは俺だけのもの、絶対に誰にも見せない。

そうなると貴族街の限られた奴しか住めない場所が良いだろう。
金の心配はない、この時のためにずっと貯めていた…元々物欲もない。

俺は聖騎士だから住めるが、ユーリはどうだろう。
ユーリを妻に迎えれば住めるが、ユーリがすんなり受け入れるものだろうか。

ユーリと関わった時の記憶は、おそらくないだろう。
俺がユーリを影から見守っていただけだし、幼少期の記憶は覚えていてほしいが…確証はない。
ほとんど初対面、これから関わり思い出を作っていくんだ…突然愛を囁いてユーリに警戒されたら今までの事が全て水の泡になる。

監禁して自分を刻み込めばいいと思った事もあったが、身近でそれをやって相手に完璧に嫌われた奴がいた。
それじゃあ意味がない、俺は体だけではなくユーリの心もほしい。

心から俺だけを見て、俺だけに愛を注いで俺の手の中に堕ちてこないと…

ユーリをどう呼ぶかも問題だが、他の問題もある。

どうやって城の今いる部屋から出るか…でもその問題はすぐに解決する。

つい最近、騎士の一人が俺の部屋に不法侵入したと城の中が少し騒がしくなっていた。
その日俺は、夜の見回りで部屋にいなかったが城の中を見回っていた騎士が俺の部屋の前で不審な人物を見たと言っていた。

今日のユーリの周辺の見回りも完璧に終わったから切り上げようと思った。
相変わらずユーリの周りには魔物が呼び寄せられたように近付いてきて、虫唾が走る。
俺のユーリにその穢れた醜い手が触れられると思うなよ。
頬に付着した黒い血を水魔法で洗い流して、他の見回りの騎士と合流した。

城から慌てて出てきた騎士に呼ばれて、自分の部屋に戻った。
俺の部屋に不審者、ユーリ以外のいる空間の空気も吸いたくないのに吐き気がする。

俺のベッドのシーツにくるまっている男には見覚えがなかった。
正直騎士の顔なんて覚えていない、同じ服を着ているかそうでないかで判断する。
さすがに副騎士団長とか、重要人物は時間を掛けて覚えた。

ユーリ以外は必要ないと記憶が拒否するから本当に大変だった。

だから誰だが分からないが、俺は不法侵入する男を取り押さえる騎士の後ろで小さく笑っていた。

これで城を出る理由が出来た、俺の部屋に入ってきた男は気持ち悪いが…もうこの部屋は使わないからどうでもいい。

こんな事があったから、セキュリティが強い貴族の一番街への引っ越しを申し込むとすんなりと受けてくれた。

これで残りはユーリをどう住まわすかだけが問題になった。
俺は非番の時は新居で、ユーリが気持ちよく過ごせるために掃除をした。
ホコリや指紋一つも残さず、完璧に綺麗にした。

でも、ずっと掃除をしているわけにもいかない…ユーリを守る事が最優先だ。

ユーリはなんでも屋という仕事を始めていた。
19歳の時に手伝いをしていたから、そういう職業に憧れているんだと分かっていた。
正直な話、ユーリには別の仕事の方がいいと思っている。

なんでも屋のほとんどは雑用だが、中には危険な仕事もある。
貧困街の住民に困っているという依頼もあると聞く。
あそこは常に犯罪が絶えなくて、騎士団でも手に余っている。
貧困街のほとんどが犯罪に手を染めて仕事を失った自業自得の集団が住む無法地帯だから、わざわざ騎士団も手を出そうとしない。

隔離されているわけじゃないから貧困街の住民が普通の街に来て悪さをしたりする。
だいたいが貧困街の住民は騎士団に言っても関わりたくないからと断っていて、街の人々も困っている。
俺は聖騎士だからか何なのか知らないが、一般人と話す事すら許されていないらしく、ユーリを影から見守っていた時に聞いた。

聖騎士だという事を隠さないとパニックになるから、黒いフードを深く被るローブ姿で街の人々が話しているのを聞いた。

ユーリが住む街だ、ユーリに危険が及ぶかもしれない事は全て取り除かないといけない。
街で目立つ危険行為をしている貧困街の住民を取り締まっていたら、騎士団の株はいつの間にか上がっていた。
ユーリのためだから騎士団の株とかはどうでもいいが、ユーリがなんでも屋になってからさらに取り締まりを強化した。

ユーリに危険な依頼が来ないように、それだけだ。

騎士団だけではなく、城の中でも俺が貧困街の住民と関わるのをいいと思っていない連中が少なくはない。
エマ様にも「危険な事はしないで!」と泣かれてしまったが、ユーリのためなら死んでも構わないと思っている俺の心には一ミリも響かなかった。

そして、俺はいい方法を思いついた…ユーリと一緒に住むために…

なんでも屋なら聖騎士が依頼を出しても断らない筈だ。
俺は聖騎士ではなく、ただの街の一人としてユーリに依頼する。
貴族だったら、使用人の一人や二人を雇っても不思議ではない。
…そもそもユーリ以外の奴は家に入れる気はない。

でもユーリは今にも崩れそうなボロい建物の中に住んでいる、そこから出ないと住み込みで働いてくれないかもしれない。

どうしようか考えていたら、ユーリが街を歩いているところに遭遇した。
とりあえず住み込みを提案して、ユーリが通いだと言ったらまた考えよう。

そう思っていたら、ユーリの足元に黒いものが一緒にくっついていた。
ユーリは気付いていないのか、平民街に入っていく。

あの時だけ、何故か街の人々は魔物を見る事が出来たが今は見えずに普通に過ごしている。
ユーリには時々分かるのか、魔物がいた場所を振り返る事があったが俺が魔物を始末した後だから魔物はいなくて首を傾げていた。
魔物なんて見ないで、その宝石よりも美しい瞳で俺だけを見てくれたらいいのにな。
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