上 下
154 / 160
権力系ホモ★グリス王国編

懐かしき筋肉と汗臭い獣臭

しおりを挟む
 
 
「ハ? ……空間転移魔法だと!?」
「あの子はまったく……!!」

書類整理をしていた国王と私…ブルーノの前に、諜報のジル・ブレイクが現れたのは3分前だった。

彼は国王直属の諜報員で、誰よりも早くアヤマ様の偵察に赴いていたが、そこでアヤマ様の『お兄ちゃん』呼びに堕ちたと聞いている。それからは分かりやすくアヤマ様贔屓をしており、アヤマ様にピッタリとくっついて離れない。
今では、アヤマ様の寝室の天井裏で寝ている程らしい。古龍殿らは気付いた上で見逃しているようだが、アヤマ様は気付いていないようだ。
ジル・ブレイクの隠密は高レベルだ。四六時中、一瞬もアヤマ様から目を離さずに見張って……いや、見守っていた。もうストーカーの域すら越えて、ただのヤバい奴だ。

そんなジルが、アヤマ様の元を離れて報告に来た。それも、酷く焦った様子で。
それもそのはず。『空間転移魔法』などと言う爆弾を、アヤマ様は軽々と持ち上げたのだから。


「な、に、を、教えてるんだあの魔導師団長は!! 戦争の引き金を思いっきり引くつもりか!?」
「ですが国王…。アヤマ様が空間転移魔法を使う事が出来れば、移動時間の削減に繋がります。彼の気分1つで、いつでも城に来る事が……」
「分かっている。分かっているが、万が一他国に知られればっ……」
「………大戦でしょうね」
「はぁ……回避策を早急に立案しなければならんな」
「無論、【アルカ十字団】が権威を轟かせる事でしょう。アヤマ様に手を出せばどうなるか、分からせるまでです。秘密結社との事でしたが、我らの方で噂だけでも吹聴してはいかがでしょうか」
「『傷付いた人間を格安で治療する救済団体がある』、と?」
「えぇ。噂が広まった頃に何人かを実際に治療し、そこに『聖騎士団』が加担しているとでも。あくまで噂としてですが」
「聖騎士団の加担する、謎の秘密結社……。手を出そうとは思わぬが」
「そこで帝国との戦争です。帝国の目的は古龍を黙らせ、無力化する事にあると、潜入中の諜報からの報告にもありました。まさに渡りに船」
「何が言いたい?」
「戦争の原因は【アルカ十字団】であるという情報操作を。帝国がこっぴどく負ければ、他国への良い見せしめになります」

【アルカ十字団】に…、つまり阿山康治郎に手を出せば、帝国の二の舞になるだけだと周知させる。
それで万が一『空間転移魔法』の使用が知られても、大戦は抑えられるはず。
咄嗟に出てきた考えだが、中々に大掛かりだ。しかも長期戦になるだろう。それまでは、なんとかアヤマ様の『空間転移魔法』を秘匿としなければならない。

「報告ご苦労。それでだが、ジル」
「はい」

ずっと直立不動で立っていた真っ黒の男、ジル・ブレイクが、国王の言葉に顔を上げた。
内心、アヤマ様の元に戻りたくて仕方がないのだろう。

「貴様には引き続き、コージ・アヤマの監視を行って貰いたい。と言っても、どうせ見張るつもりだったのだろう? 要望があれば応える」
「では、1つ」
「なんだ」
「……魔庫にある『離れずのさかずき』をお借りしたく」
「………コージ・アヤマの同意を得てから使いなさい」
「はい」

『離れずのさかずき』とは、2つの対になった盃の事で、A級指定の魔導具である。
この盃で同じ酒を飲んだ者達は、一定以上の距離を離れる事が出来なくなる。また、盃を交わした者達は義兄弟とされ、互いに攻撃魔法が効かなくなってしまう。
この魔導具がA級に指定されているのは、これらの効果が半永久的に持続するからだ。
使用者が使う魔法にも影響するので、アヤマ様が『空間転移魔法』を使えば、ジルも一緒に転移する。そう考えたのだろう。

文字通り、一生一緒というヤツだ。

まさかこの男……、『空間転移魔法』の存在を危険視して報告に来たのではなく、『空間転移魔法』によってアヤマ様と引き剥がされる事を危惧して報告に来たのか……?
最初から、『離れずのさかずき』を要求する為だけに、私達の元へ…?


真実は本人のみ知る。




********************




「ギルドに戻りたいだって?」

何度か転移魔法を使ってみて、結構慣れたころ。昨日から考えていた事をヴァロに伝えると、怪訝な顔をされた。

「うん。リイサスさん達に会いたいなぁって」
「うーん……」

メガネを中指でクイッてして考え込むヴァロ。
やっぱり、今俺がいきなり城から居なくなるのって、マズいのかなぁ。でもちょっと顔出しておきたいし……。

「……よし。僕も一緒に転移させてくれるなら良いよ。便宜上、見張りは必要だからね。まぁバレても、僕が一緒だったのなら大丈夫だろう」
「やった! じゃあルークさんはどうしますか?」
「うむ。私も行こう」
「えー2人も良いな~! ねぇコージ、俺も連れてってよー」
「俺だって行きたいぞ!」
「じゃあ俺も」
「はいはいはい俺の手は2つしかないのでダメです! ヴァロとルークさんだけ!」

頬を膨らませてブーブー言うセキやロイ達を置いて、俺は右手でヴァロと。左手でルークさんと手を繋いだ。
手を繋いだり、体の一部に触れていると一緒に転移出来るこの仕様、ホント便利。

「人目の少ない所に転移するんだよ。【アルカ十字団】以外の人間に見られちゃマズいからね」
「おう!」
「あ、コージ」
「おう?」

くるっと振り返ると、カイルが俺の背後に立っていた。ちょっと近くてビックリ。

「スティーブがいたら手紙が届いていないか聞いておいてくれ。届いていたら預かってこい」
「手紙? なんの手紙って聞けば良い?」
「手紙、というだけで分かる筈だ」
「分かった!」

地球ほど職務規定なんかがシッカリしていないこの世界では、郵便の内容にも細心の注意を払わなければならない。覗き見される心配もあるし、運ぶ人にとって都合の悪い手紙は捨てられたりする。
だから、1度開封すれば痕跡が残る魔法もある。だけど絶対に中身を見られたくないものは、こうやって友達に頼むのが1番だ。
つまり1秒で数百キロを転移する俺に任せれば、早い安い安全! というかタダ!
だから多分、重要な手紙なんだろう。忘れないようにしなきゃな!

「んじゃ、1時間くらいで戻ってくるな!」
「あぁ。いってらっしゃい」
「行ってきまーす!」







シパンッ


「わ、すごい」
「ここは…、ギルド裏かね?」

人目がない場所…って考えて思い浮かんだのは、ギルドの裏だった。白い石が積み上げられた壁の向こうはコロシアム型の試験場で、裏に人が来る事はほとんどない。
だからオーディアンギルド本部では、『コロシアム裏に来い』は『体育館裏に来い』と同じ意味だったりする。

「ワーナーさんは絶対いると思うけど…、リイサスさんとガレ、いますかね」
「リイサスは私が不在の間、代理でこのギルドを仕切っている。いると思うが」
「ガレってやっぱり、ガレ・プリストファーの事なんだね。盗賊と聖騎士団が仲良くしてるって本当だったんだ」
「あ…。ソレあんまり言わないでね。聖騎士団の立場的にマズいから……」
「今さらかい? でもまぁ良いよ」

ヴァロの了承を得て、俺達はギルドの正面にテクテクと回る。歩いてきた俺達に、門番Aさんと門番Bさんがビックリした顔をした。
当然だ。俺達は今、130キロ近く離れた王都にいる事になっている。ビックリするのも無理はない。

「えぁっ!? コージさん!? ギルマス!?」
「……と、誰…?」
「モンヴァンさんウェーイ!」
「コージさんウェーイ! ……じゃなくて!」

あ、モンヴァンさんって言うのは、門番Aさんの名前な! みんなが仕事で忙しい時とか、たまにお喋りしてたんだ。門番Bさんはベテランだけど、Aのモンヴァンさんは若くてノリも結構あうんだよな~。
いつでもどこでも一緒にウェーイ!

「え…、会いたすぎて幻覚見てんのかな俺…」
「しっかりしろモンヴァン。ギルマスもコージさんもどうしてここに?」
「うむ、リイサス達の顔が見たくてね。どうやってここに来たかは、いずれ説明する。今は問わないでくれたまえ」
「はぁ」
「リイサスとガレはいるかね?」
「あ、はい。いますよ。コージさんがいないこの4日間、夕方からは毎日ギルドで酒浸りです」
「コージは本当にベタ惚れされているんだね」
「……そちらの方は?」
「あぁ。王国魔導師団長のヴァロ・リターニア殿だ」
「まどっ」

俺の後ろに立ってギルドの外観を眺めるヴァロに、門番の2人は言葉と顔色を失った。ヴァロはそんな2人を無視して門をくぐり、木製の両面扉までツカツカ歩み寄る。そして上を見上げ、感心したようにニッコリ笑った。

「さすが、世界規模の冒険者ギルド本部ですね。こんな森の中にあるのに、大きさが他ギルドとは桁違いだ」

そう。オーディアンギルドは結構デカい。フィレンツェにある、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂みたいな外観をしている。
あのドーム型の屋根の場所にコロシアム型の試験場がある感じで、大きさは多分ほぼ一緒だ。
勇輝と瀬戸と一緒に、『いつか旅行に行きたいね』って話してたから覚えてるんだ。

「……くれぐれも、冒険者達を侮蔑するような発言は控えるようお願いします。盗賊達に対しても挑発は厳禁です」
「オーディアンギルドが獣人を中心としたギルドという事は存じていますよ。僕も魔女の血が半分流れていますから、差別の辛さは良く分かります」

あ…、そっか。そうだった。
ヴァロは魔女と人間のハーフだから、差別とかも結構あったんだよな……。うん、鑑定で視たから知ってるんだ、俺。
インテリだけど獣人の人達を見下してる雰囲気は無いし、まぁそこそこ仲良く出来るかな。
問題はヤンデレ共だ。具体的に言うと、リイサスさん・ワーナーさん・ジャックさん・ガレ。特にガレはヤバい。
なんとか間に入って、俺が仲を取り持たないと、仁義無き殺し合いが幕を開けてしまう。


ギィィィ……


ルークさんが最初に入って、次に俺。最後にヴァロが足を踏み入れる。
扉の開く音に反応して、こっちをチラ見した冒険者さんが2度見する。壁際の酒のボトルが陳列されたカウンターで、木製ジョッキにエールを注いでいたスタッフさんは4度見くらいして、隣接するキッチンに駆け込んだ。多分ワーナーさんを呼びに行ったんだろう。

「ギルマスとコージさん…?」
「まさか。王都にいる筈だろ? もう酔ったのかお前」
「あれ……幻覚?」
「いや俺にも見える……コージくんだ!」
「マ ジ で!?」
「は? コージくんどこ」
「俺の位置じゃ、ちょうどギルマスの背中に隠れて見えねぇわw」
「はっはっはっ遂に集団幻覚かよ笑えねェ」
「いるいるいるいる! いるんだってマジで!!」
「コージくんっ! ア痛ッ!」
「オイ誰だ足踏んだ奴」
「幻覚だってば……。城にいるンだろ……。最低でもあと1週間は会えないってリイサスさん言ってたし………」
「トムお前、リイサスさん呼んでこい」
「あ、あと盗賊頭も」
「え、どこにいるのあの人ら」
「足踏んだ奴」
「ウチのお頭なら裏の第二解体所にいたぞ。憂さ晴らしで魔物を狩ってたから」
「………最近、S級クエストが減ってんの、ガレ・プリストファーの仕業だったりする?」
「する」
「そっか~助かる~~」
「足踏んだ奴……」

うーん、相変わらずギルドは賑やかですな。冒険者さん達も盗賊の人達も、仲良くやってるみたいだし。
なんか幻覚を疑われてるっぽいけど、いっそのこと幻覚だって思ってくれた方が都合は良い。
いくらここにいる冒険者さん達が【アルカ十字団】のメンバーになってくれるとは言え、まだ具体的な結社の中身も作れていない。
『空間転移魔法』を知らせるのは極一部で良いはずだ。今は、まだ。

「幻覚デース。幻覚デスヨー」

こんな人数に周りを囲まれたら、1時間では帰れる気がしないので、とりあえずスルーしてもらう為に手をメガホンの形にして呼び掛ける。
ルークさんとヴァロが『ブフォッ』と笑ったけど、無視して『幻覚デース』と声を大きくした。

「あれ、やっぱ幻覚…?」
「いや違うだろアレ。声聞こえてるし」
「幻聴デース」
「なるほど幻聴らしい」
「なんだ幻覚と幻聴か。寂しくて幻覚を見るとはなぁ」
「ハ!? 先輩何言ってンすか!? どう見たってコージさんでしょ!? 後ろに知らないインテリもいますし!」
「バッキャロー! コージくんが幻覚だって言ったら幻覚なんだよ!!」
「そうだぞテメェ! コージくんを疑うってのか!?」
「理不尽!!」

よしよし、ノリの良い冒険者さん達が状況を察して、咄嗟に合わせてくれたな。
1週間後、本格的にギルドに帰って来たら、合わせてくれた人達にお礼を言わないと。あそこでシバかれている新人冒険者さんには、酒でも奢ろう。申し訳ない。




********************




はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです。


王国編の日程は

1日目…移動とエジーナの街に宿泊
2日目…謁見と図書室でヴァロ洗脳未遂事件
3日目…古龍加護宣言とネコチャンとの遭遇
4日目…秘密結社に関する正式会議と王国騎士団長のプロポーズと転移魔法の習得←今ココ

になります。1週間の滞在と移動1日×2で9日の予定です。



しおりを挟む
感想 953

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

処理中です...