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権力系ホモ★グリス王国編

最初のヤンデレと不穏なオッサン

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「あら~、康治郎くんも第一小学校?」

母さんが話し掛けた女性は、隣に住む阿山さん家の奥さんだった。俺らが引っ越してくる前からこの場所に住んでいて、母さんと仲が良い。
今までタイミングが合わずに会った事はなかったが、柔和そうな顔をしている。お腹はポッコリと膨らんでいて、妊娠している事が分かった。
阿山家には旦那と妻、俺と同い年の男の子がいると聞いている。
友達になれると、良いんだけど。

「勇輝、お母さん、康治郎くんのお母さんとお喋りしてくるから、お部屋で康治郎くんと遊んできてくれる?」
「分かった。……で、ソイツどこ?」
「うふ、ずっとそこにいるじゃない」

不思議に思って母の指差す方向に視線を向けると、阿山さんの足に、何かが隠れていた。
まず見えたのは、もちもちな白い手だ。
まんまるでもちもちな白い手が、阿山さんのスカートをぎゅっと握りしめていて、はしっこからは大福みたいな頬っぺたが覗いている。

「ごめんね、この子、ちょっと人見知りなの。ほら康治郎、勇輝くんと遊んでおいで」
「ままぁ」
「だいじょうぶ、勇輝くん優しいよ?」

阿山さんの足の後ろでもじもじしている大福。俺より小さくて、同い年とは思えない。
阿山さんに促され、大福が少し顔を出した。
ぽってりした真っ赤な唇に、ドングリみたいな目。髪はチョコで出来たわたあめみたいで、大福の頬っぺはリンゴのように真っ赤だった。
大福は眉をハの字に歪め、不安げに俺を見詰めている。

これは、俺が守ってあげないと。

直感的にそう思い、俺は大福に歩いて近付いた。本当にただの人見知りのようで、俺を警戒している訳ではなさそうだ。
阿山さんの足を挟んで大福の前まで行き、ちょっと強引に大福のもちもちした手を掴む。
大福はドングリみたいな目をいっぱい開いて驚いていたが、俺が一言『あそぼ』と言うと、俺に敵意がない事が分かって安心したのか、控えめに頷いた。
そろりそろりと出てきた大福。やっぱり、全身大福だ。タツノオトシゴ柄の靴下が妙に可愛い。
俺に手を引かれて、俺の部屋への階段を上がる大福。
知らない場所に緊張しているのか、俺の手をもちもちの小さな手でぎゅっと握っている。
今、手を乱暴に振りほどいたら、どんな顔をするんだろう。大福頬っぺたや、クリームをちょこんと乗せたような鼻を齧ったら、泣いちゃうのかな。
ちょっと見てみたかったけど、ほんの少し、守ってやりたいという気持ちが勝って、我慢して俺の部屋までやってきた。
俺、えらい。



「何してあそぶ? レゴとかト○カとかあるよ」
「……んと…、えっと……」
「………俺、勇輝。名前は?」
「…こーじろぉ」
「うん、康治郎、車好き?」
「…うん……、すき…」
「こっちきて。いっぱいあるよ」

何の変哲もない部屋をキョロキョロ見回して、おもちゃ箱に近付く康治郎。中を覗いて、ドングリみたいな目をキラキラ輝かせた。
おもちゃは多い方だと思う。母さんも父さんも仕事が忙しいから、俺が寂しくないように、いっぱい買ってくれる。
実はおもちゃよりサッカーボールの方が欲しかったんだけど、箱いっぱいのおもちゃは無事に康治郎の心を鷲掴みしたようだ。

「すごーい! ゆーきくん、おもちゃいっぱい!」

パァァァァっと花咲くように笑顔を浮かべた康治郎。
そんな康治郎を見て、俺の心臓はドコドコ派手な音を立てていた。名前を呼ばれて、すごく嬉しかった。なんだか泣きそうだった。
この可愛い可愛い康治郎を、可愛い康治郎の笑顔を、俺が守ってやらねば。
そう思って、康治郎をぎゅっと抱き締める。同い年だからそこまで体格差はないし、俺もまだまだ小さな子供だ。

力では守れない。頭を使って守ろう。
まずは、康治郎ともっと仲良くなる。小学校でもずっと一緒にいる。康治郎の遊びに付き合って、すごく仲良くなってから、コイビトになる。それで、いつか結婚する。

「ゆーきくん…? ぎゅってしちゃ苦しいよぉ」
「……ごめんな。康治郎、俺達、同じ6歳だろ?」
「うん。でも俺ね、もうちょっとで7歳だよ!」
「おう。じゃあ俺のこと、『くん』付けで呼ばなくて良いぜ」
「…えっと、ゆーき?」
「そうそう。じょうず」
「えへ」
「じゃ、おもちゃで遊ぼう。でも今日だけじゃ遊びきれないから、これから毎日来いよ。そしたら、毎日このおもちゃで遊べるぜ」
「わぁ…!! うんっ! 毎日遊びに行くね!」

よし、約束できた。
パトカーのおもちゃを持って、嬉しそうにレールに駆け寄る康治郎に堪えきれず、俺はそのぽってり唇に、自分の唇を合わせた。

俺と康治郎のファーストキスである。





********************



ギョエーギョッギョギョエーー


「……朝………」
「おはようございます、ユーキ様。朝食の準備が整いました」

帝都の中心。勇者用に建てられた巨大な屋敷の一室で、俺は目を覚ました。
窓の外では、よく分からない鳥がよく分からない声で鳴いていて、隣で歳をとったメイドがカーテンをシャッと開けて結んでいる。

幸せな夢を見た。康治郎と出会った時の夢。
キスした後、ハテナを浮かべて抵抗しない康治郎が可愛くて可愛くて、キスに夢中になっちまって、ただでさえぽってりだった康治郎の唇が、更にぽってりしちゃったんだよな。

あぁ、良い夢だった。
二度寝して康治郎との記憶を貪りたいけど、今日はB級の魔物との実戦訓練だ。
ただでさえ燃費の悪いこの身体、朝食を食べ逃しては辛いだろう。
仕方なくベッドから起き上がり、メイドの用意した服に着替える。
着替える間、メイドにちまたの情報を聞くのは、朝のルーティンだ。

「何か、新しいニュースはありますか?」
「そうですね…、オーディアンギルド帝都支部の横に、カフェがオープンしましたよ。スイーツが豊富だそうです。…後は、先月の切り裂きジャックの事件に進展が」
「………切り裂きジャック?」
「あら、ご存知ありませんか?」
「はい」
「…35年ほど前、帝都で娼婦や男娼が次々惨殺された事件です。現場に残されたマークから、犯人はジャックという少年だと分かったのですが、姿を変え、身分を変え、結局37人も犠牲になったんですよ。アレは帝国史上、最悪の連続殺人事件でした。しかも、まだ捕まってないんです」

切り裂きジャック…。どこかのパイプが似合う名探偵と勝負してそうな奴だな。
舞台も似ていない事もないし、地球と若干リンクしているのか?
そんな俺の考えをよそに、メイドはシーツを剥がしながら言葉を続ける。

「ですが、あれは35年前に始まり、6年前にパタリと終わったんです。切り裂きジャックは死んだ、と一時は噂されたものですが、つい先月、帝都の高級娼館で、犠牲者が。また悪夢が始まるのかと、その商売をしている者達は怯えました。…………ですが、模倣犯だという事が今朝、発表されたんです。なんでも、手口が違ったのだと」

なんだ模倣犯か。変な奴もいるもんだ。
……切り裂きジャック。死んでいれば何も問題はないが、生きていれば40は越えたオッサンだな。
大方、隣の国にでも逃げたんだろう。まぁ、俺には関係ない話だ。




********************



-オーディアンギルド-



「あ? ジャックお前、まだ冒険者なりたてなのかよ?」
「まぁ、6年目だな」


受付のシーガルに新しく作ったクエスト用紙を渡していると、ギルド広間の一角から、聞き慣れた2つの低い声が聞こえてきた。

「他の冒険者からえらく慕われてっから、てっきり設立時からの最古参かと思ってたんだが…」

見ると、ガレとジャックがエールを煽りながら話をしている。
コージくんの話かと思って近付いたが、どうやら他愛無い世間話のようだ。
仕事も一段落ついたので、俺も同じ円形テーブルに座った。給仕として雇っている子供がエールを運んできてくれたので、チップを渡してガレとジャックの方に向き直る。

「お、リイサスさん」
「オイ、リイサス。ジャックがまだ6年目ってマジか?」
「マジだぞ。と言っても、オーディアンギルド自体、設立して9年だから古参である事に変わりないがな」
「いやつーか、ずっと気になってたんだよ。ジャック」

ガレの言葉に、ジャックが青くなって尻を押さえた。
その動作を見て、ガレが『バーカ俺はコージ一筋だ』と笑いながら言う。

あの懸賞金、金貨3百万枚の『ガレ・プリストファー』と、こんなガキみたいに笑いながら、エールを飲む日が来るとは思わなかった。人生、何が起こるか分からないもんだ。

コージくんと出会ってから、色々狂った感はぶっちゃけ感じている。

ふと、ガレが真面目な顔になった。深くて暗い紫色の瞳が、ジャックをジィと見つめる。
俺を見ているんじゃないのに、俺の全身には鳥肌が立つ。
怖い訳では無い。恐らく、生き物としての本能が『ガレから逃げろ』と叫んでいるのだ。

ガレは怒っていない。殺気を放ってもいない。
ただ、ジャックを見ているだけ。それなのに周囲の人間にこれ程の影響を与えている。
実際、俺達の座っているテーブル周辺にいた奴らは、ササッとどこかへ行ってしまった。
隣のテーブルにいたA級冒険者のオールも、顔を青くしてカウンターに避難している。
いくら話せるようになっても、コイツの仕事人の顔にだけは慣れない。

本当に、とんでもない奴を連れてきてくれたもんだ。あの子は。

「全員の過去を調べた。ルークが差別対象だった獣人を救う為に、オーディアンギルドを設立した事も、王立魔法魔術中等学校を主席で卒業したリイサスが、そこに金の匂いを感じ取って、ギルド設立に一枚噛んだ事も」
「オイ待て。王立中等学校の生徒情報なんてどうやって調べた」
「魔法防衛術のドーラセンセイはウチの団員だぜ」
「えっ」

あの飛び抜けて厳しかったドーラ先生が……?
トレンドマークの赤い指揮棒と、眉間に刻まれたシワを思い出して少しショックを受ける。
14歳の頃、興味本位で手を出した魔法属性の後天的変化の可能性について、熱心に教えてくれた先生だっただけ、悲しい。

「あと、ワーナー。南の大規模なドワーフの村の村長の息子。つまり王子サマだ。相当な反対を押し切って、勘当同然で料理人になった事。ロイは英雄一家の末代。王立魔法魔術高等学校で、庶民相手に暴行と脅迫を繰り返していた貴族生徒を、所有魔力以上の力を使い、氷付けにしている。どこからそんな力が出たのかは未だ不明……」
「…マ、コージくんの側に変な奴を置いておく訳にはいかねぇしな」

ガレに見つめられているジャックは、平然と言葉を返した。
ジャックも、中々肝が座っている。コージくんを洗脳しようとして強姦したほどだから、元々が図太いんだ、きっと。

「そうだ。コージの側に変な奴を置く訳にはいかない。だから、オーディアンギルドで働く奴は全員調べた。………だが、ジャックの過去だけは、どぉーーーーしても分からなかったんだよ。戸籍もない、学校の入学記録も卒業記録もない。入国記録もない。犯罪記録もない。この国の村や集落にも産まれていない。スラムでもそれらしい話はない」
「おぉ、めちゃくちゃ調べたな」
「おう。すげーだろ」

戸籍がないのは、よくある事だ。
都市から離れた村では、手続きが面倒だからとほったらかしにする親も多いし、スラムでは毎日のように孤児が生まれている。花街なんかでは日常茶飯事だ。

「別に尋問じゃねーけどよ、ジャック。お前冒険者になる前は何してたんだ?」
「そんな深刻に考えるほどじゃねーよ。ただのヤンチャだぜ? 親がクズだったからな。職人の下で食ってた時期もあった。イルナンブの街の『マリスハリス』って鍛冶屋に聞いてみろよ」
「……鍛治職人の下でねぇ…」
「んだよ、疑ってんのか? …まぁ、カンカンうるさくて、結局数年で辞めちまったけど」
「疑ってねぇよ。独特な生き方してきた奴らの身辺調査について、もっと見直さなきゃならねェって思ってただけだ」

…………戸籍や入国記録まで調べられるなんて、『死神の吐息』って本当にどこにでもいるんだな…。
ギルドの邪魔になる奴や、都合の悪い奴が現れた時は、今度から暗殺ギルドじゃなくて『死神の吐息』に依頼してみるか。

はぁーーー、エールがすっかりぬるくなってしまった。毎日忙しいが、なんだか世界が暗く見えてしまうな。
コージくん、どうしてるかな。早く会いたいなぁ。




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