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死闘続発★ホモら共存編

番外編 お菓子よこせ

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この世界、この地域だとまだ暑い10月31日。
今日は死者の日だ。





「『供物か悪戯か』、ですか?」

俺はリイサスさんから受け取った尻尾をズボンの内側に固定しながら、ルークさんの言葉を繰り返した。

「うむ。死者の日にはあの世から多くの霊が現世へと訪れる。そして稀にだが…、人間の体を欲する霊がいる。ゆえに現世の者も、『人間』という種族を隠す為に、亜人や霊の仮装をするのだ。『供物か悪戯か』は、霊が現世の者に言ったとされる言葉であり、供物は大抵菓子類だ。菓子を交換する日として、今では死者の日は民衆の娯楽と化している」

ほほーう。地球のハロウィンと同じ感じかー。てことは、今日お菓子貰えんのかな! それはwktk! 期待値爆上がり!!
…ところでさ。

「俺のこの仮装って…」
「ネコチャンだよ?」
「ネコチャンだ」
「あやっぱり?」

いやさ、茶色の獣耳カチューシャをスポッてされたあたりから薄々勘付いてはいたよ?
でもさ、どうせなら狼男とか吸血鬼とかしたかったじゃん。大人の男って感じのをさ。
まぁ、俺が狼男のコスプレしても『可愛い仔狼だ』とか言われてわちゃわちゃ撫で繰り回される未来しか見えないんですけどね!!
吸血鬼でも『ちびヴァンパイア』とかガレに可愛がられて怒って噛み付いてもまず皮膚を破れない問題が発生して爆笑される未来なんてお手のものですよ。
………言ってて悲しくなってきた。

「ルークさんは…フランケンシュタインですか?」
「うむ。顔に塗料を塗る時間はなかったが…」

おっきいから似合ってはいる。亜人であるルークさんが仮装しなきゃいけないかは分からないけど。
民衆の娯楽と化しているって言ってたし、狐さん達もしてそうだなぁ。

「リイサスさんは吸血鬼なんですね」
「俺は毎年これだよ。この格好で街に買い出しに行くと、大体の店で割引してくれるんだ」

そりゃこんなイケメンヴァンパイアが店に来たら、ねぇ? リイサスさん絶対自分の魅力理解してやってるよな。イケメン爆ぜろ。

「ギルドの者も皆仮装をして、今日は一日中宴だろうな。ただコージくん、覚えておいてほしい」
「?」
「今日は死者の日だ。当然、霊達も現世に戻って来ているだろうし、仮装して誰が誰だか見分けが付かなくなる騒ぎに乗じ、本物の魔族が紛れ込んでいる事もある」
「……魔族って」
「吸血鬼や鬼人、トロールだね。魔族ではないけれど、精霊もいるよ」
「過去に何度か、紛れ込んだ本物を怒らせて、街や人に甚大な被害が出た事もある」
「……………」

ごくり…

「今日はギルドでバカ騒ぎするだけだから大丈夫だとは思うけど…。万が一見掛けない者を見つけた際には、決して鑑定はせずに、俺かルーク…あるいはガレ・プリストファーか聖騎士団長に報告するんだ。良いね?」
「…はい!」

そっかぁ。この世界のハロウィンってリアルお化け出るのかー…。
ジャパニーズホラー系は遠慮して頂きたいな。気付いたら後ろにいるっての俺ちょー苦手。


「はい、それとこれ。お菓子ね。アイテムボックスに入れておいて」

リイサスさんにどっっさり500個以上のお菓子が入った袋を手渡され、重みで持ち上げられず、結局地面にアイテムボックスを開いて落とすように入れたけど…。
………これ、なに?





********************



サンタクロースもビックリな巨大なお菓子袋の正体は、ギルドに到着してから分かった。


「「「供物か悪戯か!!!」」」

ギルドに入った途端…、いや、門の時点で数人に言われていた。

そう、みんな、俺に悪戯する口実に『トリック・オア・トリート』をぶちかましてくるのだ。
全員、アイテムボックスからお菓子をあげると、ちょっと残念そうな顔をして、お菓子を大事に抱え去っていくから…、もうなんというか、殴りたくなる。

ギルド内は仮装した人達で大賑わいを見せていた。建物にはジャック・オ・ランタンや蝋燭で飾り付けされていて、ワーナーさんの食堂メニューもカボチャ系が多く、『死者の日特別メニュー』なんてものもあった。

そんな中、俺に群がり悪戯の口実を得ようとするドアホども…。
リイサスさんとルークさんはこれを見越してお菓子袋を持たせてくれたのだ。
いやぁ感謝感謝。帰ったらキスしてあげよう。

「コージくんこの尻尾どうなってるんだい?」
「ちょっと触らせてくれよ」
「こらおさわり禁止だぞ」
「そんな看板ねーもん」
「コージくん『供物か悪戯か』!!」
「おい菓子貰うのは俺が先だ!」
「誰だ足踏んだ奴」
「寄るな寄るなコージくんを押し潰しちまう!」
「ネコチャンの仮装かい?」
「可愛いねぇ~コージくん!」
「コージくん俺のスティックキャンディペロペロしたくない?」
「変態は散れッ!!」
「ギルマスに殺されっぞ」
「ちょットムお前体でかいんだから入ってくんな!」
「足踏んだ奴」
「コージたんhshs」
「結婚前提に付き合ってください!」
「抜け駆けは死刑じゃーッ!!」
「は? お前昨日『コージくんの指のサイズ…』とか言ってたじゃん」
「コージくん困ってるだろやめろ」
「うるせぇいつ盗賊頭や聖騎士団長が戻ってくるか分からねぇんだ今しかない」
「痛い痛い痛い痛いちょっ誰かの鞘の先端めり込んでる俺の脇腹にめり込んでる!!!」
「足踏んだ奴…」




「………死ぬぅ…」



マッチョ共に囲まれ騒がれたまに触られ、俺は真っ白に燃え尽きた。





********************



「ッあーーーーやっと終わった…」
「お疲れ、コージくん」

お菓子を渡され、悪戯出来なかったと嘆きつつも喜ぶマッチョメンが礼を言って立ち去ったあと。
そう言って俺にカボチャジュースを手渡してくれたのは、ゾンビの仮装をしたジャックさんだった。

「ジャックさん…! さっきはありがとうございました…!!」
「良いって事よ」

ちょっと照れ気味に笑うジャックさん。良い人だ。
だってな、さっき俺がマッチョメンに群がられていた時、ジャックさん頑張ってくれていたんだ。
『お前2回目だろ! そっちのお前も!! 帰れ!』ってずっとジャックさん2回目の人を追い払ってくれていた。
袋に残ったお菓子は11個。俺も全員の顔を覚えている訳じゃないし、2回目の人が複数いたら確実に足りなかったし、かなり助かったなぁ。

「んじゃ、コージくん…『供物か悪戯か』!」
「やっぱり言いますよね~。はい、どうぞ」
「ありがとな! ま、本音を言えば悪戯したかったんだが…」
「ふははは! 今日は誰にも手出しさせません!!」
「自信満々だなぁ。そうだ、ワーナーがコージに注文されんのを、今か今かって待ちわびてたぜ。死者の日メニューに力入れてたみたいだし、腹が減ったら行ってきてやりな」
「お腹ぺっこぺこ!! ワーナーさぁーーん!!!」







「おうコージ! そんなに走らなくても俺は逃げないぜ!」
「えへへ、ワーナーさんに早く会いたくって!」
「ッッッ…!! そ、ういう事、間違っても他の奴に言っちゃダメだからな!」
「はぁーい! ワーナーさんはキョンシーなんですね!」

ワーナーさんが着ているのは、全体的に黒色で朱色の装飾がされてあるキョンシーの服と帽子だった。
帽子には黄色のお札が貼ってあって、視界を遮って邪魔なのか、今は帽子ごとずらしている。
控え目に言って最強にかっこ可愛いです。

「へぇ! コージはキョンシーを知っているのか!」
「俺のいた世界にもキョンシーの話はあったんで! 中国…あ、いや華国のですよね?」
「あぁ! 前に訪ねて来た華国の商人が教えてくれたんだ! ピョコピョコ跳び跳ねるって聞いた時は仮装を止めとうかと思ったんだが…」
「止めなくて正解です! ワーナーさんすっごくかっこいいです!!」

俺がそう言うと、お顔が赤くデレデレになって、ワーナーさんは俺の死者の日メニューを作る為に厨房に引っ込んだ。

ワーナーさんを待つ間、俺は席に座って周囲を眺めていた。
比較的普通の仮装から、血糊を派手にぶちまけた人、どういう原理か空中を漂っている人…、みんな楽しそう。
と、ポケーっとしていると、前の席にロイが座った。

「…コージ、ネコチャンの仮装…すっごく似合ってる。……吸って良い?」
「おさわりや吸おうとする行為はご遠慮ください…!! ロイはミイラ男?」

服装はいつもの。けれど、腕や頭に包帯を巻いていた。

「うん。…昨年まで参加してなかった、けど…。今年はコージがいるし。仮装適当になっちゃったけど…」
「ううん、ロイって感じがして良いと思うよ」
「そっか…、良かった。………コージ」
「ん?」
「『供物か悪戯か』」
「そう来ると思っていた! はいチョコ」
「………………………ありがとう」
「悪戯させる気はないぜ」
「…………見透かされちゃったね…」

苦笑い(したように俺には見えたけど多分周囲からはピクリとも動かなかったように見えたと思うがまぁとにかくそういう表情を)して、ロイは俺とお喋りを続け、俺がカボチャのスペシャルメニューをもぐもぐし終わった頃にクエストに出掛けて行った。

「ワーナーさんまたねーーー!!」

ブンブン手を振ってワーナーさんともお別れ。さっきワーナーさんにも『供物か悪戯か』言われてお菓子渡したから、残りのお菓子は…8個か。次は誰かなー。

「そんな様子じゃ、猫っつぅより犬だな」
「…! ガレ!!」
「ようコージ! 似合ってんぜ」
「こんにちはコージさん!」
「こんにちは」

後ろから話し掛けて来たのは、ガレと狐さんとミゲルさん。
仕事が入って来るのが遅れたらしかった。

「わぁーーー狐さんとミゲルさんはお揃いのテーマで仮装してるんですねー!」
「はい! 俺が魔女で、ミゲルが魔法使いです!」
「狐さん、スレンダーな魔女って感じで似合ってますよ!」
「えへへ…」

え? 魔法が誰でも使えるこの世界で、魔女や魔法使いの仮装は意味があるのかって?
チッチッチ、甘いね諸君。ハリー・ポ○ターに引っ張られたかい?
この世界だと、魔女や魔法使いは人間じゃないんだ。
魔族の1種で、魔女も魔法使いも普通の人間に比べると、魔法の知識技術威力はどれも桁違い。物理には超弱いんだけどね。
でも、魔女も魔法使いも研究者タイプが多いらしく、基本的には自分の家に引き込もって魔法を極めているんだって。
錬金術や魔術に精通している人もそこそこいて、人間の素材が必要にならない限り、襲ってくる心配はいらないそう…。

「で、ガレは…。狼か?」
「あぁ。コージを喰う為にな。そういう事で『供物か悪戯か』」
「供物でお願いしまーす。狐さんとミゲルさんもどうぞ!」
「熊野郎と過保護野郎か…!!」

ミゲルさんはお礼を言って頭をぺこり。狐さんは嬉しそうに尻尾をぶんぶんしてお礼。この盗賊可愛い。
ガレは…、お菓子を用意したのが誰か気付いたのか、俺と軽く言葉を交わして、2人に文句を言いに行った。
黒いお耳の狼が言ってるだけなので、いつもより迫力3割減…。ちょっと可愛いかも。


さて…、残りのお菓子は5個。

足りるかな?






「『供物か悪戯か』ッッッ!!!」
「『供物か悪戯か』」
「『供物か悪戯か』ぁ~」

仲良く同時に現れたのは、古龍のセキセイオウ。
序列入りもイベントに参加するんだぁ~なんて思いながら、お菓子を手渡してビビった。


3人とも、尻尾が出てる。


「俺ら、古龍族の代表なんだよ? 他の生き物の仮装なんてしないよぉ~」
「尻尾だけ出していれば、龍人とさほど変わりはなかろう」
「……それは良いんだけどさ、振り回したりしないでネ…」
「それは約束しよう!!」
「コージはネコチャンなんだね! 可愛いぃ~!!」
「…ふむ。尻尾はどこに貼り付けてあるんだ? 見せてくれ」
「ちゃんと喉の下は弱いか!!? 猫は尾の付け根が性感帯と聞いたが!!」


逃げた。
俺は逃げた。それはもう全力で逃げた。
広間を飛び出して、ギルドの庭まで逃げた。

安寧など無かった。


「…コージか?」
「……えっと…、カイル?」

庭には…、白い布2体がいた。
いや違うんだ。俺の頭がおかしくなった訳ではない。
白い布の正体はフードマントを被ったカイルとスティーブさんだったんだ。

「…馬子にも衣装か。その耳と尻尾を着けていれば、コージの可愛げも2割増しだな」
「訳:はわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁコージ素敵過ぎてもうダメだいつも可愛過ぎて心臓ドッキンドッキン★なのにそんな姿見せられたらもう止まってしまうらめぇぇぇぇぇ!!!」
「スティーブッッッ!!!!!」

ゴッツーンとカイルに拳骨を落とされたスティーブさん。頭を押さえ、地面をゴロゴロ転げ回った。
……今のはスティーブさんが悪いと思うな。

「…んで、その仮装は? 白い死神??」

そう、2人は巨大な鎌を持っていた。正に死神が使うような鋭い鎌を。

「そうか、コージは知らないのか。これは神駒と呼ばれる伝説の種族の仮装だ」
「かみこま」
「天使の下位互換とでも思っていれば間違いない。罪人の魂を地獄に持って行くのがコージの思う死神で、善人の魂を天界に持って行くのが神駒だ」

なるほどなるほど。

「流石に天使の仮装は色んな意味で気が引けるからな。したい仮装の無い聖騎士は、神駒の仮装をする」

あ、一応したい仮装があったらさせてくれるのね。
……にしても、カイルぐらいだったら天使の仮装でも…。いや、羽根生やしてるの見たら爆笑してしまうな。きっと。

「……その…コージ。『供物か悪戯か』」
「お菓子ねー。持ってるよ。キャンディしか無いけど良い?」
「…あ、あぁ」

一瞬、カイルが『え? あるの?』みたいな顔をして、スティーブさんが噴き出したけど無視。
ちゃんと2人にお菓子を手渡し、ちょっとしょんぼりしているカイルに軽く頬キスして送り出した。ポンコツカイルになっちゃったけどまぁ良いでしょう。




…………あれっ!? あんだけあったお菓子がもう1個も無いだと!!?




「やっほーこんちゃーっす!」
「ひぇーっ!」

うぉぉぉぉぉ今だけは誰にも会いたくなかった…!!
そう思っても時既にお寿司。振り返ると、夕日に照らされた1人の青年が立っていた。


「いやぁ良い黄昏時だねぇ! あ、コージくんだよね? まぁ十中八九コージくんだろうけども!」
「……コ、ージです」


すぐに違和感に気付いた。
この青年、スーツを着ている。赤黒い高級そうなスーツをちょっと着崩した、身長180ぐらいの超絶美形。
…これは……、悪魔の仮装かな? 赤黒い角が2本と先端が三角形の黒い尻尾を着けている。
こんな人、ギルドじゃ見た事なかった。

「うわぁ本当に可愛いねぇほっぺたプニプニ! 瞳も綺麗な焦げ茶…。チョコレートみたいだね!!」
「どうも…」
「すべすべの肌はカスタードみたいだし、唇は淡い桃のグミかな? 耳なんてほら、クッキーみたいだ!」

…ちょっとヤバいかも。
リイサスさん、ルークさんとのお約束。見掛けない人を見たら、鑑定せずに2人かガレかカイルに報告すること。

「…あーすみません、俺もう行かないと」
「えー待ってよぉ。もうちょっとぐらい良いじゃん。遊ぼうぜ。な?」

唇を尖らせておちゃらけた顔で笑って見せる青年。
怖い雰囲気ではないけれど、相手は見知らぬ人だから、真っ先に誘拐されて奴隷にされそうな俺は警戒心MAXでいく。

「いえ…、ごめんなさい。俺、さっきからトイレに行きたくて」
「そっかぁ。コージくん可愛いし、警戒するのも当然かぁ。…まぁ警戒心0よりは良いと思うよ! 俺は!」
「はぁ……」
「おぉっと本題を忘れる所だった…。んじゃ、コージくん! 『トリック・オア・トリート』!!」

うぐぅっ!! 言われてしまった…!!
お菓子お菓子お菓子お菓子…どこかにお菓子はないかーッ!

と、空っぽの袋の中を覗いてもやっぱり空っぽで、このまま悪戯されるしかないのか…、と軽くショックを受けていた時。思い出した。

今朝リイサスさんの家で、自分用に懐に入れた、ジャムクッキーの存在を。
俺はすぐにポケットから取り出し、ニコニコとニヤニヤが混ざったような笑顔の青年に、クッキーを突き付けた。
途端に信じられないものを見るような顔になった青年。

…勝った………!!!


「マジで? だって…、袋の中のお菓子は全部で537個だった筈なのに……。あ、ポケット…?」
「え…?」
「うわぁぁぁポケットに入れてるなんて考えて無かったぁー!! うぅ…世界が俺に厳しい……」

待って。この人なんで袋の中のお菓子の数なんて知ってんの? 俺でも知らなかったのに。

「どうしよう! 悪戯出来ないじゃんかよォ…。あヤッベすっげぇ悲しい。コージくんどうしたら良いと思う?」
「それ俺に聞きます?」
「だってだって!! 完璧悪戯する気満々で来たんだよ!? さっきの『瞳チョコレートみたい』発言とか超恥ずかしいじゃんー!!」
「えぇ…(困惑)」

頬をプックーと膨らませて俺が渡したクッキーをボリボリ食べる青年。なんか…子供みたいだ。

「くそうくそうくそう! もう酷い! あんまりだー! ん!? このクッキー美味しい!!!」
「昨日のうちにワーナーさんが作ってくれたクッキーです…」
「ワーナーさん凄いな!! 誰か知んないけど!!」

バリボリとクッキーを完食した青年は、1回深呼吸をして俺の頭を撫で始めた。

「ごめんな怖がらせて。別にコージくんをいじめたり誘拐するつもりは無いんだよ。………マ、今日はコージくんとお話出来ただけでも良しとしますか…」

ふ、と微笑んだ青年。
感情の起伏は激しいけど、悪い人ではなさそうだ。

「じゃあね、風邪引くなよ。体を大切にな。あ、それと俺がここに来た事は内緒で!! 多分大パニックになるだけだろうし」

そう言って、バイバイと手を振りながら青年は森の奥へと立ち去った。
………大パニックって、なんだろ…。偉い人だったとか?


でも俺は、もっと別の事がすっごく気になっていた。







あの人、『トリック・オア・トリート』って言った。








********************




夜。
どんちゃん騒ぎも終わり、ギルドから家に無事帰還!
結局、青年の事は喋らなかった。悩んだけど、やっぱり青年が『トリック・オア・トリート』って言ったのが気になっててさ。

んでんで、お風呂も入って、ギルドの人達から貰ったお菓子を食べながら、リイサスさん、ルークさんとお喋りしていた。

「コージくんは今日、楽しかった?」
「はい! すっごく!」
「そっか! それは良かった!」
「途中で袋のお菓子がなくなるっていうハプニングとかもあったんですけど、なんとかなりましたし!」
「……え?」
「それに、色んな人の仮装が見れて面白かったです! 空中浮遊してる人達とか、血糊を使って本気で再現してる人もいっぱいいて!!」
「まっ、待ってくれコージくん! 袋の菓子が無くなったのかい!? 500個以上はあっただろう…!?」
「??? でも、ギルドには500人以上いましたよね?」

リイサスさんとルークさんが『意味が分からない』って顔で俺を見ている。
………え? いやだって、ジャックさんが『供物か悪戯か』2回目の人を追い払ってくれていたし…、盗られた覚えもない。


「………俺は、コージくんがあまりを食べられるように余分に100個近く入れていた筈だけど…?」

……………予想よりも参加人数が多かったんでしょうきっと!!

「それに…、我がオーディアンギルドでは、血糊の使用は禁止している」
「え! でもいっぱい…」
「本当に怪我をした者と見分けが付かないからだ。……1人2人なら見逃してしまっていたとしても、コージくんがいうほど、大勢の者が使用していれば、気が付かない筈がないのだが…」
「空中浮遊している奴なんていたか?」
「……いや、私は見ていない」

…嘘でしょ?
だって血糊を使ってる人、100人くらいいたぜ? 浮遊してる人だって、超目立ってたのに。

「えっと! 赤茶色の鎧に緑のスカーフ巻いてて、仙人みたいな髭生やした50代ぐらいのおじさんとか、つぶらなピンク色の瞳で、藍色のモコモコな服を着てた14、5歳の男の子とか…!!」
「……!!! コージくん、その2人、どこから血を流していた!?」

突然、鬼もビックリな形相でリイサスさんとルークさんが詰め寄って来て、俺はビビりながらも2人を思い出しながら恐る恐る答える。

「…おじさんは頭全体が真っ赤になってて、男の子は首に穴が空いたみたいなメイクを…」
「「………………………」」


青くなって黙り込んでしまった2人。不安に思って見上げていると、リイサスさんがポツリと呟いた。

「ジェイコブはオーガに崖から突き落とされて死んだ…。チャールズは食人植物の触手に首を貫かれて死んだ…」
「……………え」
「……2人とも、5年前に死んでるんだ…」










今日は死者の日。
死者の魂が現世へと訪れる日。
いつの間にか死者の日は民衆の娯楽と化していて、騒ぎに乗じて本物が紛れ込んでいる事もある。

今日は死者の日。


彼らが帰って来る日だ。








全てを理解した俺の大絶叫が森中に響き、ガレ、カイル、セキセイオウが飛んで来たのは言うまでもない。









********************




ハロウィンを完全に忘れていて、1日でこれを書き上げた私を誰か褒めるべきである。




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