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第3章
7 記憶の術
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ユリアーナが魔術書を読むようになったのは、セレスの薬を作った後だった。エレンの小屋の奥には、エレンの秘蔵の魔術書がたくさんある。それを毎日少しづつ読んでいる。まだ読み取れない文字などもある。その度にエレンに質問をする。
「エレン!これは?」
今日もまた魔術書片手にエレンを追いかけている。
「どれ?」
覗き込むと記憶の術と書かれていた。それを見た途端、エレンは思わずユリアーナの顔をまじまじと見てしまった。
──記憶の術とは自分も他人も含めて、個人の記憶、または故人の記憶を映し出す──
「ユリアーナ……」
無邪気な目でエレンを見上げる。
(ナリアーナに会いたいのか……)
愛しい、たったひとりの母。大切な母。大好きな母。
それは痛い程よく分かる。幼い頃から母の為にこの森までひとりでやってきて、母の為に薬を抱えて帰って行った。あの幼いユリアーナを思うと、とてもせつなくなった。なぜ、ナリアーナを助けられなかったのかと。
「ユリアーナ」
ユリアーナを木のソファーに座らせ、その隣に自分も座る。そしてユリアーナに優しく語りかける。
「ナリアーナに会いたい……?」
その言葉に涙が溢れる。
「会いたい……」
ずっと抑えていた思いは、言葉にすると次から次へと溢れ出る。涙が止まらないユリアーナの肩を抱く。
(まだ6歳。母親が恋しいに決まってる)
ユリアーナの思いが、エレンに流れ込んでくるようだった。
「少し、待ってな」
エレンは立ち上がり、杖を持ち出した。
「○□✕……」
エレンは何かをぶつぶつと言った。それは魔術書に書かれている言葉だった。呪文を唱え終わると、杖を振りかざす。部屋の中は眩しい光で包まれた。
◇◇◇◇◇
今、ユリアーナは目の前にいる記憶の中の母親と対面している。母親の幻影は、ユリアーナに笑いかけている。だが、それは今のユリアーナにではない。まだ幼かったユリアーナに対して笑いかけている。
これは記憶なのだから、過去の幻影に過ぎないのだ。過去のナリアーナが過去のユリアーナに笑いかけている記憶。一緒に生活している頃の記憶。病気になり、小さなユリアーナが一生懸命ナリアーナの世話をしている。ベッドに横たわり、ユリアーナを呼ぶナリアーナ。どんな時もユリアーナを心配していたナリアーナ。食べるものがなくなり、僅かに残ってるパンをユリアーナに食べるように促すナリアーナ。生きていた時にユリアーナにしていたことが、目の前に映し出されている。
(しばらくそっとしておこう)
エレンはそっと小屋から外へと出た。
「エレン」
ホエールが森の奥から戻って来た。毎日毎日、森を見回ることがホエールの役目になった。
「どうした?」
「ん。今、ユリアーナがナリアーナとの記憶に対面してるから」
「記憶?」
怪訝そうな顔をしたホエールは小屋の中を覗き込む。ソファーに座ったユリアーナがナリアーナの幻影を見ている。目に涙を溜めてナリアーナを見る姿に、胸が苦しくなる。だが、ナリアーナの姿を見たいと願ったのはユリアーナ。これはユリアーナが越えなければいけないことなのかもしれない。
「あの子、平気か?」
ホエールはユリアーナを心配して言う。
「大丈夫。ユリアーナは強い子よ」
小屋の周りに自生している花たちを愛でながら、エレンは答えた。
「エレンが言うなら大丈夫かな」
ホエールはそう言って、どこかへ行ってしまった。もう一度、森を見回るのだろう。ホエールは何度も何度も森を見回る。森が危険を報せてはくれるが、それだけでは落ち着かないのだ。
スー……と、風がエレンの肌に触れていく。その風は夏の風とは違って少し、冷気を纏っていた。
「そろそろ秋……かな」
収穫の時期。エレンの小屋でも食材を保管していかなければいけない。天を見上げて、森の木々を見る。エレンの小屋からは空はあまり見えない。たくさんの木々で覆われているこの場所からは、空の様子は窺えないのだ。
「エレン」
小屋からユリアーナが顔を出した。
「ありがとう」
それだけ言うとユリアーナはまた小屋へと入っていく。
(大丈夫みたいだね)
ユリアーナの後ろ姿を見て、エレンはほっとした顔を浮かべた。
「エレン!これは?」
今日もまた魔術書片手にエレンを追いかけている。
「どれ?」
覗き込むと記憶の術と書かれていた。それを見た途端、エレンは思わずユリアーナの顔をまじまじと見てしまった。
──記憶の術とは自分も他人も含めて、個人の記憶、または故人の記憶を映し出す──
「ユリアーナ……」
無邪気な目でエレンを見上げる。
(ナリアーナに会いたいのか……)
愛しい、たったひとりの母。大切な母。大好きな母。
それは痛い程よく分かる。幼い頃から母の為にこの森までひとりでやってきて、母の為に薬を抱えて帰って行った。あの幼いユリアーナを思うと、とてもせつなくなった。なぜ、ナリアーナを助けられなかったのかと。
「ユリアーナ」
ユリアーナを木のソファーに座らせ、その隣に自分も座る。そしてユリアーナに優しく語りかける。
「ナリアーナに会いたい……?」
その言葉に涙が溢れる。
「会いたい……」
ずっと抑えていた思いは、言葉にすると次から次へと溢れ出る。涙が止まらないユリアーナの肩を抱く。
(まだ6歳。母親が恋しいに決まってる)
ユリアーナの思いが、エレンに流れ込んでくるようだった。
「少し、待ってな」
エレンは立ち上がり、杖を持ち出した。
「○□✕……」
エレンは何かをぶつぶつと言った。それは魔術書に書かれている言葉だった。呪文を唱え終わると、杖を振りかざす。部屋の中は眩しい光で包まれた。
◇◇◇◇◇
今、ユリアーナは目の前にいる記憶の中の母親と対面している。母親の幻影は、ユリアーナに笑いかけている。だが、それは今のユリアーナにではない。まだ幼かったユリアーナに対して笑いかけている。
これは記憶なのだから、過去の幻影に過ぎないのだ。過去のナリアーナが過去のユリアーナに笑いかけている記憶。一緒に生活している頃の記憶。病気になり、小さなユリアーナが一生懸命ナリアーナの世話をしている。ベッドに横たわり、ユリアーナを呼ぶナリアーナ。どんな時もユリアーナを心配していたナリアーナ。食べるものがなくなり、僅かに残ってるパンをユリアーナに食べるように促すナリアーナ。生きていた時にユリアーナにしていたことが、目の前に映し出されている。
(しばらくそっとしておこう)
エレンはそっと小屋から外へと出た。
「エレン」
ホエールが森の奥から戻って来た。毎日毎日、森を見回ることがホエールの役目になった。
「どうした?」
「ん。今、ユリアーナがナリアーナとの記憶に対面してるから」
「記憶?」
怪訝そうな顔をしたホエールは小屋の中を覗き込む。ソファーに座ったユリアーナがナリアーナの幻影を見ている。目に涙を溜めてナリアーナを見る姿に、胸が苦しくなる。だが、ナリアーナの姿を見たいと願ったのはユリアーナ。これはユリアーナが越えなければいけないことなのかもしれない。
「あの子、平気か?」
ホエールはユリアーナを心配して言う。
「大丈夫。ユリアーナは強い子よ」
小屋の周りに自生している花たちを愛でながら、エレンは答えた。
「エレンが言うなら大丈夫かな」
ホエールはそう言って、どこかへ行ってしまった。もう一度、森を見回るのだろう。ホエールは何度も何度も森を見回る。森が危険を報せてはくれるが、それだけでは落ち着かないのだ。
スー……と、風がエレンの肌に触れていく。その風は夏の風とは違って少し、冷気を纏っていた。
「そろそろ秋……かな」
収穫の時期。エレンの小屋でも食材を保管していかなければいけない。天を見上げて、森の木々を見る。エレンの小屋からは空はあまり見えない。たくさんの木々で覆われているこの場所からは、空の様子は窺えないのだ。
「エレン」
小屋からユリアーナが顔を出した。
「ありがとう」
それだけ言うとユリアーナはまた小屋へと入っていく。
(大丈夫みたいだね)
ユリアーナの後ろ姿を見て、エレンはほっとした顔を浮かべた。
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