8 / 34
第1章
8 港の男 前編
しおりを挟む
この森から南に行くと港町が見える。そこに住むひとりの男がエレンの元に訪ねてきた。
その男はとても腕っぷしのいい若い男。名はアラン。
そのアランがエレンを見下ろして言った。
「なんだ。まだ子供じゃないかい」
その言葉にムッとしたエレンは「なんの用件?」とぶっきらぼうに言った。
「おいおい。こっちは客だぞ。そんな邪険にしていいのかい」
「脅しは利かないよ」
現にエレンには困ることなどない。常にひとりで暮らしてきた。金は必要としない。
生きていくだけの僅かなものがあれば事足りる。
「ああ、悪ぃ悪ぃ」
アランは言葉が悪かったと頭を下げる。
「で、用件は」
まだ『ガキ』と言われたことを根に持っている。確かに見た目は子供。それをそのまま言っただけだとエレンにも分かっている。
だからと言って、初対面の者が言っていい言葉じゃないとエレンは思っている。
「ちょっとシーラの町で困ったことがあるんでぃ」
困ったことと言われりゃ聞かない訳にはいかない。ため息を吐いて小屋へ入れた。
◇◇◇◇◇
「そこ座りな」
ぶっきらぼうに言うことは決まったのか他の人と話す時よりもムスッとしているエレンは、炊事場へ行き湯を沸かした。
その間にアランはキョロキョロと見回してる。
「キョロキョロしてんじゃないよ」
「いやー、珍しいもんがいっぱいでぇついつい。ガハハっ!」
豪快に笑うこの男はまさに海の男だった。
湯が沸くとハーブティーを入れて男に差し出す。
「こりゃなんだい」
とハーブティーの香りにビックリしていた。
「この森でしか採れないハーブティー」
「へえ!こんな森にも洒落たもんがあんのなあ!」
アランは大声で言った。いや、この男がもともと声がデカイだけなのかもしれない。
「用件は」
「おお!それがな、シーラの町のみんなが困ってんだい」
アランは話を始めた。
シーラの町は港町。漁師の町だ。それと貿易の町でもある。だから他の街や村よりも異国を感じられる場所だった。
そのシーラの町で困ってることとは波が高い日が続いていて漁に出られない。それと同時に異国の船が辿り着かなくなっていると。
そうなってくると、町の商人たちは困る。魚は採れないとなれば、レストランや一般家庭に魚を提供出来なくなる。勿論、王家にも魚を提供出来なくなる。
そして貿易の船が来ないということも町の商人たちは困る。貿易によってこの国が潤っているのだ、商売が出来なくなる。ということは生活出来なくなるのだ。
「それももう一月も続いてなぁ!ほんと、困ってんだい。これ、なんとかなんねえのかい?」
「自然のことだからなぁ」
基本、エレンは自然のことに関しては一切手出しはしないようにしている。だが、一月は長い。毎日、波が高く漁に出られない、貿易の船は来られない。それじゃ町の人たちの生活が成り立たない。
シーラの町だけではなく、王国全体にも関わってくる問題に差し掛かっているのだ。
「う~ん……。あまり自然界のことには手出ししないようにしているんだが……」
と考え込んでいた。
自然の流れを変えてしまうなではないかと考えないでもない。だが、一月は異常だ。何か原因があるのかもしれないとエレンは感じていた。
「一度、海を見たい」
そう言ったエレンにアランは驚いた。
「どんな状況なのか、知りたい。海の声を知りたい」
エレンの言葉はアランは「ぜひ来てくだせぇ!今すぐにでも!」と叫んだ。
そのままアランに引っ張られるように小屋を飛び出した。
「ちょっ……、ちょっと!」
(魔女を引っ張っていくなんてどんな奴だよ)
「待て!アラン!」
叫んだエレンに驚いて止まった。
「引っ張らなくとも行くから」
エレンは一度小屋へ戻り、箒を持ち出した。そして小屋の周りに呪文をかけて姿を消した。
エレンが森を出る時はいつもこうして小屋を隠している。
「へえ!小屋が見えなくなった」
この魔法は見えなくするものではなく、そこに存在しなくなる魔法。だから小屋があった場所に立っても小屋にぶつかることはない。
「さ、行くよ」
エレンは箒に跨がりアランに笑う。
「え、え、えっ!」
「あんたは走って戻りな」
意地悪な顔をして飛んで見せた。
「狡いっ!」
そう言いつつも走って行く。森の入口まで行くとエレンは箒から降りた。アランを待っていた。
一時間経った頃に漸くアランが出てきた。
「はぁ……、はぁ……!いくら俺でもこの森を抜けるのはしんどい」
その場にしゃがみこんだアランを見て「情けない」と言う。
「箒に跨がりな」
エレンはそう言って後ろを向く。
「まさか、飛ぶのか」
「飛んだ方が早い」
アランは仕方なくエレンの後ろに行き箒に跨がった。
「私に掴まってな」
そう言うとビュンと、勢いよく空へ舞い上がった。
◇◇◇◇◇
「うわーっ!すんげぇー!」
子供のような歓声を上げるアランは空を旅を満喫していた。
今日は晴天。飛ぶのにはいい気候だった。
「あ。見えてきたぜぇ、シーラの町だ」
指した先に見えたのは港町。シーラの町。
そのままエレンは海まで向かった。船着き場に降り立つと、アランの漁師仲間たちがいた。
「アラン!そいつが例の魔女かよ!」
「空飛ぶんだな!」
「ガキじゃん」
色々と騒いでいたけど、エレンはその全てを無視していた。
そのまま海に近寄って行く。
「おい!あんた、危ないよ」
「波が高いんだからさあ」
漁師たちが止めるも、エレンはお構いなしで近寄って行く。船着き場のギリギリのところまで行くとピタッと止まる。そして海をじっと見つめていた。
「この海の状態、王国は知ってるのか?」
エレンは言った。
「知ってる。何度もこの辺りを領主様に伝えてる」
「領主様のところへ案内してくれるか」
エレンはアランに言った。アランは黙って頷き、領主のところへ向かった。
シーラの町の領主はエリック・キャンベル伯爵。気難しい顔をしているが、実は楽しいことが大好きな陽気なおじさん。
「旦那様はこちらにはおりません」
エリックの屋敷へ行くと執事が受け答えをする。
「どちらへ?」
「只今、町を散策中でございます」
「町?」
「そうですね。今の刻限ならば、広場へお出掛けになっていらっしゃると思います」
執事はそう丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございます」
エレンは頭を下げてアランの案内で広場まで行く。
広場ではマルシェをやっていた。
「いつもはもっと店が出てるんでぇ」
とアランはそう言うとエリックを探し出す。
ぐるりと見渡すと「あ!」とアランは指した。
「あそこにいらっしゃいます」
広場の中央にある店を覗いているおじさんがいた。着ているものも立派でお付きのものもいる。口髭を生やした見るからに身分の高い方だと分かる。
「エリック様」
アランは近寄って行く。そしてエリックにエレンのことを話していた。
「やぁ。君が魔女のエレンかね。初めまして」
と手を差し出す。その手を握り返すとにっこり笑いかけられた。
その笑顔につられてエレンも笑顔になる。
「初めまして。キャンベル伯爵様」
「エリックでよい」
「ではエリック様」
「エレンは海を見たのかね」
コクンと頷き、真剣な目をしたエレンがエリックに言った。
「あの海のせいで町がいつもと違う。すまないね、本来はもっと活気溢れる町なのだよ」
エリックが歩いて広場を見回る。いつもならもっと賑わってるという広場はかなりの広さ。週の最終日に行われるマルシェが今はとても寂しく感じられる。
「屋敷に戻ろうかね」
お付きの者に言ってるのか、エレンに言ってるのか分からない感じで言うと、広場を出ていく。
町の人たちはエリックを見ると「エリック様!」と声をかけていく。エリックはこの町ではかなり人気のある領主だと伺える。
歩いていると、小さな子供がやってきて「えりゅくりょうちゅちゃま」とニコニコとエリックを見ていた。
エリックは子供の目線になるようなしゃがみこんで笑顔を返していた。
「あのね、あのね」
と手に持っている小さな野花を差し出した。
「みちゅけたの。えりゅくちゃまにあげゆ!」
と、まだ言葉が拙い感じで話す。エリックはその野花を丁寧にハンカチーフが入ってる、胸ポケットに入れると「ありがとう」と子供の頭を撫でた。
(人柄の良さが滲み出ているな)
くるっと振り返ったエリックはエレンに笑う。
「すまないね。さ、行こうか」
また歩き出す。
行く先々でエリックに声をかける町人たちは、本当に信頼しているのだろう。
◇◇◇◇◇
「それで?どんな用件で来たのかね」
エリックの屋敷の応接間に通されたエレンとアランは、目の前に座るエリックを見ていた。
「アランが私の元へ来たんです。海をなんとかして欲しいと。だが基本私は自然界のことには手出しはしないのですが、一月もこの状態が続いてると聞いたので何か原因があるのではと思い、海を見に……海の声を聞きに来たんです」
海を見たエレンが感じたことを話し出す。いつもは穏やかだというシーラの海。それが荒れていることに不思議な力か使われているのではと思った。
「私が見たところ、何かが潜んでいるように思えます。海の精霊の声は聞こえませんでしたが、何かが潜んでいます」
そう。何かが潜んでいる。
海の精霊も姿を現さないことがエレンには不気味だった。
「あんなに荒れているのに精霊がそれを止めないのは、精霊自身が囚われているか精霊に力がなくなっているのかのどちらかだと思ってます」
エレンの見解を話すとエリックは「う~ん」と考え込んでいた。
「エリック様。王国の軍には魔力の強い方たちの集団があると聞き及んでいます。彼らに協力を要請することをお勧め致します」
魔女の力だけではどうにもならないことなのかと言えばそうではないらしい。
出来るだけ、魔女の力を使わない方向へ持っていきたいのだ。
「そなたは精霊がどうなっていると思うのだ」
「私は……、精霊は囚われの身になっているかと」
エレンが感じた違和感。エレンは微かに精霊の力を感じ取ってはいたが、どうなっているのかは分からない。
「分かった。そのように王国へ報告してみよう。もし、軍でもどうにもならなかった場合、もう一度助けを必要とするかもしれぬ」
「その時は微力ならがらお手伝い致します」
エレンはそう頭を下げて屋敷を出る。アランも続いて出ていく。
「アラン。じゃ私は森に戻る。もし、必要ならまた呼びに来てくれ」
と、箒に乗って飛んで行った。
それから暫くしてアランが再びエレンの元へ来ることになる。
その男はとても腕っぷしのいい若い男。名はアラン。
そのアランがエレンを見下ろして言った。
「なんだ。まだ子供じゃないかい」
その言葉にムッとしたエレンは「なんの用件?」とぶっきらぼうに言った。
「おいおい。こっちは客だぞ。そんな邪険にしていいのかい」
「脅しは利かないよ」
現にエレンには困ることなどない。常にひとりで暮らしてきた。金は必要としない。
生きていくだけの僅かなものがあれば事足りる。
「ああ、悪ぃ悪ぃ」
アランは言葉が悪かったと頭を下げる。
「で、用件は」
まだ『ガキ』と言われたことを根に持っている。確かに見た目は子供。それをそのまま言っただけだとエレンにも分かっている。
だからと言って、初対面の者が言っていい言葉じゃないとエレンは思っている。
「ちょっとシーラの町で困ったことがあるんでぃ」
困ったことと言われりゃ聞かない訳にはいかない。ため息を吐いて小屋へ入れた。
◇◇◇◇◇
「そこ座りな」
ぶっきらぼうに言うことは決まったのか他の人と話す時よりもムスッとしているエレンは、炊事場へ行き湯を沸かした。
その間にアランはキョロキョロと見回してる。
「キョロキョロしてんじゃないよ」
「いやー、珍しいもんがいっぱいでぇついつい。ガハハっ!」
豪快に笑うこの男はまさに海の男だった。
湯が沸くとハーブティーを入れて男に差し出す。
「こりゃなんだい」
とハーブティーの香りにビックリしていた。
「この森でしか採れないハーブティー」
「へえ!こんな森にも洒落たもんがあんのなあ!」
アランは大声で言った。いや、この男がもともと声がデカイだけなのかもしれない。
「用件は」
「おお!それがな、シーラの町のみんなが困ってんだい」
アランは話を始めた。
シーラの町は港町。漁師の町だ。それと貿易の町でもある。だから他の街や村よりも異国を感じられる場所だった。
そのシーラの町で困ってることとは波が高い日が続いていて漁に出られない。それと同時に異国の船が辿り着かなくなっていると。
そうなってくると、町の商人たちは困る。魚は採れないとなれば、レストランや一般家庭に魚を提供出来なくなる。勿論、王家にも魚を提供出来なくなる。
そして貿易の船が来ないということも町の商人たちは困る。貿易によってこの国が潤っているのだ、商売が出来なくなる。ということは生活出来なくなるのだ。
「それももう一月も続いてなぁ!ほんと、困ってんだい。これ、なんとかなんねえのかい?」
「自然のことだからなぁ」
基本、エレンは自然のことに関しては一切手出しはしないようにしている。だが、一月は長い。毎日、波が高く漁に出られない、貿易の船は来られない。それじゃ町の人たちの生活が成り立たない。
シーラの町だけではなく、王国全体にも関わってくる問題に差し掛かっているのだ。
「う~ん……。あまり自然界のことには手出ししないようにしているんだが……」
と考え込んでいた。
自然の流れを変えてしまうなではないかと考えないでもない。だが、一月は異常だ。何か原因があるのかもしれないとエレンは感じていた。
「一度、海を見たい」
そう言ったエレンにアランは驚いた。
「どんな状況なのか、知りたい。海の声を知りたい」
エレンの言葉はアランは「ぜひ来てくだせぇ!今すぐにでも!」と叫んだ。
そのままアランに引っ張られるように小屋を飛び出した。
「ちょっ……、ちょっと!」
(魔女を引っ張っていくなんてどんな奴だよ)
「待て!アラン!」
叫んだエレンに驚いて止まった。
「引っ張らなくとも行くから」
エレンは一度小屋へ戻り、箒を持ち出した。そして小屋の周りに呪文をかけて姿を消した。
エレンが森を出る時はいつもこうして小屋を隠している。
「へえ!小屋が見えなくなった」
この魔法は見えなくするものではなく、そこに存在しなくなる魔法。だから小屋があった場所に立っても小屋にぶつかることはない。
「さ、行くよ」
エレンは箒に跨がりアランに笑う。
「え、え、えっ!」
「あんたは走って戻りな」
意地悪な顔をして飛んで見せた。
「狡いっ!」
そう言いつつも走って行く。森の入口まで行くとエレンは箒から降りた。アランを待っていた。
一時間経った頃に漸くアランが出てきた。
「はぁ……、はぁ……!いくら俺でもこの森を抜けるのはしんどい」
その場にしゃがみこんだアランを見て「情けない」と言う。
「箒に跨がりな」
エレンはそう言って後ろを向く。
「まさか、飛ぶのか」
「飛んだ方が早い」
アランは仕方なくエレンの後ろに行き箒に跨がった。
「私に掴まってな」
そう言うとビュンと、勢いよく空へ舞い上がった。
◇◇◇◇◇
「うわーっ!すんげぇー!」
子供のような歓声を上げるアランは空を旅を満喫していた。
今日は晴天。飛ぶのにはいい気候だった。
「あ。見えてきたぜぇ、シーラの町だ」
指した先に見えたのは港町。シーラの町。
そのままエレンは海まで向かった。船着き場に降り立つと、アランの漁師仲間たちがいた。
「アラン!そいつが例の魔女かよ!」
「空飛ぶんだな!」
「ガキじゃん」
色々と騒いでいたけど、エレンはその全てを無視していた。
そのまま海に近寄って行く。
「おい!あんた、危ないよ」
「波が高いんだからさあ」
漁師たちが止めるも、エレンはお構いなしで近寄って行く。船着き場のギリギリのところまで行くとピタッと止まる。そして海をじっと見つめていた。
「この海の状態、王国は知ってるのか?」
エレンは言った。
「知ってる。何度もこの辺りを領主様に伝えてる」
「領主様のところへ案内してくれるか」
エレンはアランに言った。アランは黙って頷き、領主のところへ向かった。
シーラの町の領主はエリック・キャンベル伯爵。気難しい顔をしているが、実は楽しいことが大好きな陽気なおじさん。
「旦那様はこちらにはおりません」
エリックの屋敷へ行くと執事が受け答えをする。
「どちらへ?」
「只今、町を散策中でございます」
「町?」
「そうですね。今の刻限ならば、広場へお出掛けになっていらっしゃると思います」
執事はそう丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございます」
エレンは頭を下げてアランの案内で広場まで行く。
広場ではマルシェをやっていた。
「いつもはもっと店が出てるんでぇ」
とアランはそう言うとエリックを探し出す。
ぐるりと見渡すと「あ!」とアランは指した。
「あそこにいらっしゃいます」
広場の中央にある店を覗いているおじさんがいた。着ているものも立派でお付きのものもいる。口髭を生やした見るからに身分の高い方だと分かる。
「エリック様」
アランは近寄って行く。そしてエリックにエレンのことを話していた。
「やぁ。君が魔女のエレンかね。初めまして」
と手を差し出す。その手を握り返すとにっこり笑いかけられた。
その笑顔につられてエレンも笑顔になる。
「初めまして。キャンベル伯爵様」
「エリックでよい」
「ではエリック様」
「エレンは海を見たのかね」
コクンと頷き、真剣な目をしたエレンがエリックに言った。
「あの海のせいで町がいつもと違う。すまないね、本来はもっと活気溢れる町なのだよ」
エリックが歩いて広場を見回る。いつもならもっと賑わってるという広場はかなりの広さ。週の最終日に行われるマルシェが今はとても寂しく感じられる。
「屋敷に戻ろうかね」
お付きの者に言ってるのか、エレンに言ってるのか分からない感じで言うと、広場を出ていく。
町の人たちはエリックを見ると「エリック様!」と声をかけていく。エリックはこの町ではかなり人気のある領主だと伺える。
歩いていると、小さな子供がやってきて「えりゅくりょうちゅちゃま」とニコニコとエリックを見ていた。
エリックは子供の目線になるようなしゃがみこんで笑顔を返していた。
「あのね、あのね」
と手に持っている小さな野花を差し出した。
「みちゅけたの。えりゅくちゃまにあげゆ!」
と、まだ言葉が拙い感じで話す。エリックはその野花を丁寧にハンカチーフが入ってる、胸ポケットに入れると「ありがとう」と子供の頭を撫でた。
(人柄の良さが滲み出ているな)
くるっと振り返ったエリックはエレンに笑う。
「すまないね。さ、行こうか」
また歩き出す。
行く先々でエリックに声をかける町人たちは、本当に信頼しているのだろう。
◇◇◇◇◇
「それで?どんな用件で来たのかね」
エリックの屋敷の応接間に通されたエレンとアランは、目の前に座るエリックを見ていた。
「アランが私の元へ来たんです。海をなんとかして欲しいと。だが基本私は自然界のことには手出しはしないのですが、一月もこの状態が続いてると聞いたので何か原因があるのではと思い、海を見に……海の声を聞きに来たんです」
海を見たエレンが感じたことを話し出す。いつもは穏やかだというシーラの海。それが荒れていることに不思議な力か使われているのではと思った。
「私が見たところ、何かが潜んでいるように思えます。海の精霊の声は聞こえませんでしたが、何かが潜んでいます」
そう。何かが潜んでいる。
海の精霊も姿を現さないことがエレンには不気味だった。
「あんなに荒れているのに精霊がそれを止めないのは、精霊自身が囚われているか精霊に力がなくなっているのかのどちらかだと思ってます」
エレンの見解を話すとエリックは「う~ん」と考え込んでいた。
「エリック様。王国の軍には魔力の強い方たちの集団があると聞き及んでいます。彼らに協力を要請することをお勧め致します」
魔女の力だけではどうにもならないことなのかと言えばそうではないらしい。
出来るだけ、魔女の力を使わない方向へ持っていきたいのだ。
「そなたは精霊がどうなっていると思うのだ」
「私は……、精霊は囚われの身になっているかと」
エレンが感じた違和感。エレンは微かに精霊の力を感じ取ってはいたが、どうなっているのかは分からない。
「分かった。そのように王国へ報告してみよう。もし、軍でもどうにもならなかった場合、もう一度助けを必要とするかもしれぬ」
「その時は微力ならがらお手伝い致します」
エレンはそう頭を下げて屋敷を出る。アランも続いて出ていく。
「アラン。じゃ私は森に戻る。もし、必要ならまた呼びに来てくれ」
と、箒に乗って飛んで行った。
それから暫くしてアランが再びエレンの元へ来ることになる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる