10 / 34
第2章
1 夏のパレード
しおりを挟む
夏になると街ではパレードが行われる。この国一番の夏の祭りだ。エレンはこの祭りを見るのが好きだった。
滅多に森を出ないエレンが、この祭りを見学する為に街へと向かう。
特別な格好なんてしない。いつものエレンのままで行く。
森を抜けて行くには途中にある小川を越える。小川はとてもキレイな水で魚が泳いでいるのがよく分かる。
小川の近くにミモザを一株植えてある。これを増やせればいいなとエレンは思い、来年の春には黄色い可愛らし花を咲かせてくれるといいなと思った。
エレンの隣にはいなくてもいいのにホエールがいた。ホエールはシーラ町を混乱に落とした張本人。今はエレンの元で暮らしているただのヒモだ。
「なんで着いてくる」
呆れたエレンはホエールを見ることもしないで言った。
「いいじゃないか。おっ、なんか旨そうなもん売ってる!」
「買わない」
「あっちにはドーナツ売ってる!」
「買わない」
あれこれと見つけては子供のようにはしゃいで回る。それを追いかけるエレンは呆れていた。
「お前は子供か!」
ホエールに一喝すると、エレンは歩き出す。
「どこに行くの?」
ホエールはエレンに聞く。エレンには会う約束をした人物がいた。
パレードが行われるのはまだ少し後。その前に会っておきたい。音楽隊の本部に向かうエレンは回りから見たら異様だろう。
この暑い日に黒服を着て手には箒、そして銀髪の人ではない人を連れている。
「エレン様!」
本部には音楽隊の面々が楽器を手にして練習をしていた。
その中のひとり、ジェニファーがエレンに気付き駆け寄ってくる。
「久しぶり。ジェニファー」
ニコニコと笑うエレンはジェニファーに会いにきたのだ。
「お久しぶりです」
ジェニファーは会えて嬉しいという顔をしていた。
「毎年このパレードは見に来てたけど、そこにジェニファーがいたとは気付かなかった」
「うふふ。まともにまだパレードに出たことなかったからよ」
「ても今日はトップの方にいるんでしょ」
「そうなの」
「頑張ってね」
こう言うと街の方へ戻って行く。
「あの女は誰だ」
ホエールは不機嫌な顔で言う。
「依頼者」
「依頼者?」
「前、私のところに来た客だよ。それでちょっと様子見に来たんだ」
愛する人と一緒になったジェニファー。だけど、ジェイは今また遠い国に赴いてる。
「ちょっと可愛いだろ」
ふわふわの髪が羨ましい。エレンは姿を変えることは出来る。だけど、ふわふわの金色の髪にはしない。似合わないのを知ってるから。
「今日、街に来たのは依頼があったから?」
「違うよ。ただ単に私がパレードを見たいからだ」
このパレードを見ることがエレンの唯一の楽しみだ。
「嫌なら帰りなよ」
「いるよ」
「不機嫌な顔してるからさ」
「お前が俺じゃないやつと話してるのが嫌だ」
「はぁ……」
ため息を吐くと街の一番いい場所へと向かう。そこはエレンだけが見ることが出来るこの街が一番キレイに見える場所。
箒を使って飛び出す。ホエールはエレンに抱きつくように乗ってる。
ある建物の屋根に乗ると、パレードが始まっていた。
音楽隊のスタート地点からゴール地点までよく見えるその場所はとても美しかった。
「へぇ……」
この場所は街の住民に邪魔されることもなくゆっくりと見てられる。
先頭グループにジェニファーがトランペットを吹きながら歩いてるのが見えた。
ふわふわの金色髪。ピシッと決めた軍服がとても不釣り合いだった。
それでもジェニファーは他の軍人と一緒にいると、やはり軍の人間なんだと思う。
「ジェニファーは軍人なんてしてるけど、とても可愛らしい令嬢なんだ」
そう言うエレンはジェニファーが気に入ってる。
「気に入ってるんだな」
「そうだな」
一番いい場所でじっとパレードを眺めるエレンはこの時間が好きだった。
この夏のパレードが行われるとすぐに夏から秋へと変わるのだ。
その季節がとても好きだなと思う。
「さ、なんか食べて帰ろうか」
ホエールにそう振り替えるとぱっと笑顔になるホエールと一緒に屋台を見に降りて行った──……。
滅多に森を出ないエレンが、この祭りを見学する為に街へと向かう。
特別な格好なんてしない。いつものエレンのままで行く。
森を抜けて行くには途中にある小川を越える。小川はとてもキレイな水で魚が泳いでいるのがよく分かる。
小川の近くにミモザを一株植えてある。これを増やせればいいなとエレンは思い、来年の春には黄色い可愛らし花を咲かせてくれるといいなと思った。
エレンの隣にはいなくてもいいのにホエールがいた。ホエールはシーラ町を混乱に落とした張本人。今はエレンの元で暮らしているただのヒモだ。
「なんで着いてくる」
呆れたエレンはホエールを見ることもしないで言った。
「いいじゃないか。おっ、なんか旨そうなもん売ってる!」
「買わない」
「あっちにはドーナツ売ってる!」
「買わない」
あれこれと見つけては子供のようにはしゃいで回る。それを追いかけるエレンは呆れていた。
「お前は子供か!」
ホエールに一喝すると、エレンは歩き出す。
「どこに行くの?」
ホエールはエレンに聞く。エレンには会う約束をした人物がいた。
パレードが行われるのはまだ少し後。その前に会っておきたい。音楽隊の本部に向かうエレンは回りから見たら異様だろう。
この暑い日に黒服を着て手には箒、そして銀髪の人ではない人を連れている。
「エレン様!」
本部には音楽隊の面々が楽器を手にして練習をしていた。
その中のひとり、ジェニファーがエレンに気付き駆け寄ってくる。
「久しぶり。ジェニファー」
ニコニコと笑うエレンはジェニファーに会いにきたのだ。
「お久しぶりです」
ジェニファーは会えて嬉しいという顔をしていた。
「毎年このパレードは見に来てたけど、そこにジェニファーがいたとは気付かなかった」
「うふふ。まともにまだパレードに出たことなかったからよ」
「ても今日はトップの方にいるんでしょ」
「そうなの」
「頑張ってね」
こう言うと街の方へ戻って行く。
「あの女は誰だ」
ホエールは不機嫌な顔で言う。
「依頼者」
「依頼者?」
「前、私のところに来た客だよ。それでちょっと様子見に来たんだ」
愛する人と一緒になったジェニファー。だけど、ジェイは今また遠い国に赴いてる。
「ちょっと可愛いだろ」
ふわふわの髪が羨ましい。エレンは姿を変えることは出来る。だけど、ふわふわの金色の髪にはしない。似合わないのを知ってるから。
「今日、街に来たのは依頼があったから?」
「違うよ。ただ単に私がパレードを見たいからだ」
このパレードを見ることがエレンの唯一の楽しみだ。
「嫌なら帰りなよ」
「いるよ」
「不機嫌な顔してるからさ」
「お前が俺じゃないやつと話してるのが嫌だ」
「はぁ……」
ため息を吐くと街の一番いい場所へと向かう。そこはエレンだけが見ることが出来るこの街が一番キレイに見える場所。
箒を使って飛び出す。ホエールはエレンに抱きつくように乗ってる。
ある建物の屋根に乗ると、パレードが始まっていた。
音楽隊のスタート地点からゴール地点までよく見えるその場所はとても美しかった。
「へぇ……」
この場所は街の住民に邪魔されることもなくゆっくりと見てられる。
先頭グループにジェニファーがトランペットを吹きながら歩いてるのが見えた。
ふわふわの金色髪。ピシッと決めた軍服がとても不釣り合いだった。
それでもジェニファーは他の軍人と一緒にいると、やはり軍の人間なんだと思う。
「ジェニファーは軍人なんてしてるけど、とても可愛らしい令嬢なんだ」
そう言うエレンはジェニファーが気に入ってる。
「気に入ってるんだな」
「そうだな」
一番いい場所でじっとパレードを眺めるエレンはこの時間が好きだった。
この夏のパレードが行われるとすぐに夏から秋へと変わるのだ。
その季節がとても好きだなと思う。
「さ、なんか食べて帰ろうか」
ホエールにそう振り替えるとぱっと笑顔になるホエールと一緒に屋台を見に降りて行った──……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる