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第1章

3 ミモザの村のユエ

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 スティール王国の小さな村にミモザの村という村がいる。正式名称は違う名だが、ミモザの季節になると村中、ミモザが咲き乱れる光景から誰もがミモザの村と呼ぶようになった。
 村人でさえ、そう呼ぶ。
 そのミモザはとても綺麗で、他の街や村からそのミモザを求める人がたくさんいた。
 そしてそのミモザを盗む輩もいたのだった。


「助けて欲しいんです」
 やってきたのはミモザの村の村長の娘。ミモザを盗む輩が多くてその大切なミモザがなくなっていってる。
「これじゃミモザの村じゃなくなる」
 と泣く娘の名はユエと言った。
「村のミモザが大好きなんです。守りたいのに守る手段がなくて……」
 村の中に自然と植えられてるものも多い為、それを夜中にバッサリと切られて持っていかれたり、根っこごと持っていかれたりする。
「夜中にも警備つけたりもしてるんだけど……追い付かなくて」
 ユエは気落ちしている。そりゃ、村の宝とも言えるミモザがごっそり盗まれれば気落ちするだろう。
 大切に育てて村一面にミモザでいっぱいにする。そらがミモザの村の責務になっているのなら尚更。

「では……」
 立ち上がったエレンは何かを調合し出した。
 黄色の着色料と裏で採れるハーブと、この森に住まう蜥蜴とかげと蛇を乾燥させた粉末に、あとは秘密の材料。
 それらを大鍋に入れた。
 そして何やら呪文のようなものを唱え始めた。
 大鍋の中に黄色の液体が出来上がる。それを瓶に入れた。

「これを」
 と、ユエに手渡す。
「これは……?」
「これを村のあちこちに撒いてみな。村を隠してくれる」
「隠す?」
「そんなに効果があるとは言えないが、夜の間だけでも村を隠してみてはどうかと」
 エレンが考えたことは夜間の間は村人が眠ってしまうので、その間だけ村を隠してしまうというもの。
 他所から来た者にはそこにはただ原っぱがあるだけにしか見えなくなる。
 原っぱに入っても、そこの村に存在しているもの全てが隠れてしまう為、触ることも出来ない。
 本当に隠してしまうのだ。
「ただ、朝には元に戻ってしまうから朝方は気を付けた方がよい」
 と告げた。
 朝早くは村人がまだ眠ってるかもしれない。その時に狙われたら結局同じだ。


「これを村の周りに撒くんですね」
 瓶を見つめて言うユエはそれを胸に抱きしめた。
「ありがとう……」
 たったこれだけのことなのに、ありがとうと言ってくれるユエにとっては村のミモザは本当に大切なのだろう。
 そこまで大切に思える何かがあることは羨ましいと思う。
 エレンにはそこまで思うものがない。いつの間にかここにいて、こうやって薬を作る。
 故郷というものが分からないエレンは、ユエの感情は計り知れないものだった。
(羨ましい……)
 そんな風にユエを見ていた。


「あの……、お代は?」
 帰り際ユエは言った。
「お代はいらない。それがなくなったらまた来て。その時にミモザの苗を一株、持ってきてくれればいい」
 エレンは初めて来た者からは代金を取らない。そもそもお金はそんなに必要じゃない。
 だから価値のあるもの、必要なものを要求する。今回はミモザの苗を一株要求した。
 この森にはミモザがないから、どれだけキレイなものかエレン自身が見て見たかったからだった。
「では、エレン様。次お会いした時にはミモザの苗を持って来ます」
「本当に朝方には気を付けて」
 ユエは会釈をして森に誘われて帰って行く。
 その後ろ姿を見てちょっとウキウキした。
 この森に黄色の花が咲くかもしれないと、嬉しく思っていたのだった。
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