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第3章

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「結局、話せなかったなぁ」
 あの後、体調が悪くなった柚子。その為、沙樹は柚子に話を聞いてもらうどころではなかった。
 零士に電話をしたところ、帰宅途中だったらしかった。零士が戻ったことで、柚子のことを零士に任せて、自分は帰宅したのだ。

「柚子ちゃん、大丈夫かなぁ……」
 部屋でポツリと言う。沙樹にはまだ子供を身籠るということが、よく分からない。どんなに辛いことなのか、想像も出来ない。
 だからこそ、柚子を助けてあげたいと思っていた。

「れいちゃん、忙しいからななぁ」
 零士が家にいないことも多い。だから家を建てる時、柚子の実家近くにしたのかもしれない。



《来週の土曜日、オフだよ》

 ぼんやりと柚子のことを考えていた時、ピコンという音が鳴った。崇弘からのメッセージだった。
 そんな短い文章を読んだだけで、嬉しくなる。

《会いたい》
《じゃいつものところにいる》

 そんなやりとりがたまらなく、嬉しい。
(やっと会える)
 崇弘と会うのは春休み以来だった。
(もうすぐ夏休み入っちゃうのに)
 こんなにも会えないなんて、分かっていても辛い。



    ◇◇◇◇◇



「えっ、じゃ柚子さん、ふたりの子供のお母さんになるの?」
 結子の顔がぱぁと明るくなった。柚子に会ったことのある結子になら、話してもいいかなと内緒話として話していた。
「だから昨日、会いに行ってもあまり話せなかった」
 残念と思いつつも、嬉しいと思ってしまう。大好きな柚子が、ふたりの子供のお母さんになる。姉のように慕ってるから、本当に嬉しくてたまらない。
「でも大変だね」
「みたい」
「全然、想像つかないけどねー」
 結子もまたいまいちピンと来ないようだった。

「それより!」
 と、結子は沙樹に詰め寄る。
「ど、どうしたらいいと思う?」
 休み時間の教室。結子は沙樹と教室の隅で話していた。
「な、なに?」
 沙樹は驚いて結子を見た。
「あ、あのね……」
 結子は周りを気にしながらそっと沙樹に顔を近づけた。
「今度……、柳先輩の家に……、行く事になったの」
 結子の顔を見ると、真っ赤になっていた。
「そ、それでね……」
 結子が話し出したことに、今度は沙樹も真っ赤になっていた。



「エッチ、したことある?」



 結子は沙樹の反応を伺っていた。
「ゆ、結子っ」
 真っ赤になって挙動不審な沙樹は、そういうことに免疫がない。
「ある……?」
 首をブンブン横に振る沙樹に、「そっか~」と答える。
「な、なんで……?」
「だって。家に呼ばれて、部屋でふたりきりになるわけじゃん。そういうこと、するのかなーって」
 確かにそういうことにならないとは限らない。結子はそれを意識しているのだ。

(何度もタカちゃんのマンション行ってるのに、私はない……)
 沙樹はそれか気にかかった。
 キスはしたことある。だけどそれ以上はしてこない。
(私が……、子供ガキってこと?)
 だからそういうことはないのかなと、考えてしまう。

 崇弘は沙樹よりも10も上だ。世間からしたら、ふたりの関係は相当ヤバいと言えるのだろう。
 それは本人たちも分かっている。

(分かってるけど……)
 今まで気にしなかったことが、気になってしまっていた。
 崇弘の気持ちを信じて疑わなかった。だが、不安が沙樹を襲っていた。
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