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第3章
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『あははっ!輝らしいな』
電話の向こうで崇弘は、心底可笑しいといった感じで笑っている。
「ほんと、もう恥ずかしいったら……」
『でもその友達は知ってるんだろ。輝のこと』
「うん」
『なら問題ねぇな』
「でも恥ずかしいよ」
兄があんなにもシスコンなんて知られたくないと、沙樹は思う。
「なんか、小学校の時とかもお兄の行動が知られまくってたみたいで」
『地元じゃ知らない人はいないってやつか』
「みたい」
『じゃお前を隠す意味なくなってくるな』
「いつか世間的にもバレるよ。今はまだ関わりたくないって人が多いから……」
そう言っては、沙樹は寂しい気持ちが胸を締め付ける。その事に気付いたのか、崇弘は沙樹に語りかける。
『ま、お前のことを知ろうとしないやつは放っておけばいいさ』
「ん」
崇弘の言葉は、沙樹をあたたかくさせる。
『来週からだっけ?京都』
「うん」
『楽しんでおいで』
「うん!」
沙樹にとって、楽しみな修学旅行は初めてだった。
小学校の修学旅行も、中学の修学旅行も、いつもひとりで行動していたから、楽しくはなかった。
でも今回は、結子がいる。さちも朱莉もいるのだ。
(こんなに楽しみなのは初めて……)
心が踊る思いで、小さな子供のようにワクワクしていた。
◇◇◇◇◇
「次、どこ行くんだっけ?」
京都に降り立った沙樹は、楽しくて仕方なかった。
クラスで回った後、班に分かれて行動。その時間が楽しかったのだ。
「次はここだよ」
さちが地図を広げている。
「銀閣寺!」
「私、中学では行かなかったなー」
地図を見ながら4人は歩く。なんでもないこの時間は、沙樹にとってはかけがえのない時間となっていた。
散々歩き回った4人がホテルに戻ってきた時には、疲れきっていた。それは他の班の人たちもだった。
「中学で行ってても、メンバーが違うと面白いね」
朱莉はそう言った。
ホテルに戻った後、集合して点呼。一旦、部屋に戻り夕食の時間まで自由時間という流れだった。
「何時から夕食だっけ?」
メイクを直す結子は沙樹に聞いていた。こういう時、ちゃんと分かっているのが沙樹だった。
「もう、結子ってば……」
呆れながらも時間を言う。
「夕食終われば後は自由なんだよね」
「お風呂は露天風呂に行っていいんだっけ?」
「時間決まってたっけ?」
それぞれが夕食の後の時間を楽しもうとしていた。こんな些細な会話でさえ、沙樹にとっては新鮮な出来事だった。
常にニコニコとしている沙樹からそらが分かる。そのことに3人も分かってるようで、つられてニコニコとしている。
「私、修学旅行がこんなに楽しいとは思わなかった」
ポツリと言う沙樹に、結子は嬉しくなる。
「私もっ!」
さちも朱莉もそれは同じで、ニコニコとしている。
「じゃ、そろそろ移動しよっ」
夕食の時間が近付いて、4人は宴会場へと移動する。
「部屋の鍵は誰が持つ?」
なんて言いながら部屋を出ると、隣の班も部屋を出ていくところだった。
「結子!」
隣の班のひとりが結子に声をかける。それが合図のように、一緒に宴会場まで歩いて行く。
(結子といるから、いろんな子と話すきっかけが出来るんだよね)
結子のコミュニケーション力は凄いと、沙樹は感じていた。そしてその力に助けられていた。
「4人のリボン、可愛いね」
そう言われて4人は嬉しくなる。
「高幡さんの色は白なの?」
「あ、うん」
「白、いいねー」
「結子が選んでくれた」
「高幡さんに合ってる」
「ありがとう」
自然とそういう会話が生まれる。それはやっぱり結子が繋げてくれているのだ。
結子自身はギャルで、周りにはギャルがいることは多い。だが真逆のタイプも集まる。そのことは、出会ってからずっと感心してしまうくらいだった。
「結子ってなんか凄いよね」
沙樹は朱莉たちに言う。
「コミュ力、ハンパないよね」
笑うふたりも同じ考えだったらしい。歩いて行くと、次々と声がかかり、宴会場に着くまでに集団となってしまった。
「お前ら、他のお客さんもいるんだぞ。横に並んでくるんじゃない」
宴会場に既にいた担任に、そう言われるくらいの大人数となっていたのだ。
◇◇◇◇◇
《京都、楽しんでる?》
夜。沙樹のスマホにそうメッセージがきた。相手は崇弘。そのメッセージに思わず笑ってしまう。
《楽しいよ!》
《それは良かった》
たったそれだけのやり取りが、沙樹を嬉しくさせた。
電話の向こうで崇弘は、心底可笑しいといった感じで笑っている。
「ほんと、もう恥ずかしいったら……」
『でもその友達は知ってるんだろ。輝のこと』
「うん」
『なら問題ねぇな』
「でも恥ずかしいよ」
兄があんなにもシスコンなんて知られたくないと、沙樹は思う。
「なんか、小学校の時とかもお兄の行動が知られまくってたみたいで」
『地元じゃ知らない人はいないってやつか』
「みたい」
『じゃお前を隠す意味なくなってくるな』
「いつか世間的にもバレるよ。今はまだ関わりたくないって人が多いから……」
そう言っては、沙樹は寂しい気持ちが胸を締め付ける。その事に気付いたのか、崇弘は沙樹に語りかける。
『ま、お前のことを知ろうとしないやつは放っておけばいいさ』
「ん」
崇弘の言葉は、沙樹をあたたかくさせる。
『来週からだっけ?京都』
「うん」
『楽しんでおいで』
「うん!」
沙樹にとって、楽しみな修学旅行は初めてだった。
小学校の修学旅行も、中学の修学旅行も、いつもひとりで行動していたから、楽しくはなかった。
でも今回は、結子がいる。さちも朱莉もいるのだ。
(こんなに楽しみなのは初めて……)
心が踊る思いで、小さな子供のようにワクワクしていた。
◇◇◇◇◇
「次、どこ行くんだっけ?」
京都に降り立った沙樹は、楽しくて仕方なかった。
クラスで回った後、班に分かれて行動。その時間が楽しかったのだ。
「次はここだよ」
さちが地図を広げている。
「銀閣寺!」
「私、中学では行かなかったなー」
地図を見ながら4人は歩く。なんでもないこの時間は、沙樹にとってはかけがえのない時間となっていた。
散々歩き回った4人がホテルに戻ってきた時には、疲れきっていた。それは他の班の人たちもだった。
「中学で行ってても、メンバーが違うと面白いね」
朱莉はそう言った。
ホテルに戻った後、集合して点呼。一旦、部屋に戻り夕食の時間まで自由時間という流れだった。
「何時から夕食だっけ?」
メイクを直す結子は沙樹に聞いていた。こういう時、ちゃんと分かっているのが沙樹だった。
「もう、結子ってば……」
呆れながらも時間を言う。
「夕食終われば後は自由なんだよね」
「お風呂は露天風呂に行っていいんだっけ?」
「時間決まってたっけ?」
それぞれが夕食の後の時間を楽しもうとしていた。こんな些細な会話でさえ、沙樹にとっては新鮮な出来事だった。
常にニコニコとしている沙樹からそらが分かる。そのことに3人も分かってるようで、つられてニコニコとしている。
「私、修学旅行がこんなに楽しいとは思わなかった」
ポツリと言う沙樹に、結子は嬉しくなる。
「私もっ!」
さちも朱莉もそれは同じで、ニコニコとしている。
「じゃ、そろそろ移動しよっ」
夕食の時間が近付いて、4人は宴会場へと移動する。
「部屋の鍵は誰が持つ?」
なんて言いながら部屋を出ると、隣の班も部屋を出ていくところだった。
「結子!」
隣の班のひとりが結子に声をかける。それが合図のように、一緒に宴会場まで歩いて行く。
(結子といるから、いろんな子と話すきっかけが出来るんだよね)
結子のコミュニケーション力は凄いと、沙樹は感じていた。そしてその力に助けられていた。
「4人のリボン、可愛いね」
そう言われて4人は嬉しくなる。
「高幡さんの色は白なの?」
「あ、うん」
「白、いいねー」
「結子が選んでくれた」
「高幡さんに合ってる」
「ありがとう」
自然とそういう会話が生まれる。それはやっぱり結子が繋げてくれているのだ。
結子自身はギャルで、周りにはギャルがいることは多い。だが真逆のタイプも集まる。そのことは、出会ってからずっと感心してしまうくらいだった。
「結子ってなんか凄いよね」
沙樹は朱莉たちに言う。
「コミュ力、ハンパないよね」
笑うふたりも同じ考えだったらしい。歩いて行くと、次々と声がかかり、宴会場に着くまでに集団となってしまった。
「お前ら、他のお客さんもいるんだぞ。横に並んでくるんじゃない」
宴会場に既にいた担任に、そう言われるくらいの大人数となっていたのだ。
◇◇◇◇◇
《京都、楽しんでる?》
夜。沙樹のスマホにそうメッセージがきた。相手は崇弘。そのメッセージに思わず笑ってしまう。
《楽しいよ!》
《それは良かった》
たったそれだけのやり取りが、沙樹を嬉しくさせた。
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