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第2章
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「んっ、旨い!」
テーブルに並べられたフレンチトーストと、サラダ。それを口に放り込んでいく崇弘はそう言う。
「あ、そうそう。今度、俺のマネージャーに弟が付くことになったんだ」
崇弘は3兄弟。崇弘より3つ年上の兄、明弘。崇弘より5つ年下の雅弘。兄の明弘は家業を継ぐために、父親と一緒に仕事をしている。弟の雅弘は大学を辞めてしまって、プラプラとしている。そんな雅弘を見かねた父親が、崇弘に「付き人にしてやってくれ」と告げたのだった。
「マサちゃん?」
沙樹は何度か崇弘の兄弟たちに会っている。顔は似てるようで似てない。性格も全く違う。特に雅弘は、崇弘とは全く似てない。顔も性格も似てない。
「アイツはほんと、フザけたやつなんだよ」
そう言う崇弘は、呆れながらも弟を心配している。
「オヤジはおれにマサの監視させるつもりなんだよ」
「監視?」
「色々やってきてっからなぁ、あのバカ」
「タカちゃんだってそうじゃないの」
高校生の頃、色々やっていることを知ってる。真司と一緒に他校の女の子と遊び歩いたこともある。他校のヤンチャな男子生徒とケンカになったこともあった。
雅弘もそれとあまり変わらない。性格は違うが、同じようなことをやってきてるのだ。ただ違うのは雅弘は音楽はダメ。聴くことはするが、演奏する立場となると出来ないのだ。それは小学校の時に習う鍵盤ハーモニカやリコーダーでもそうだった。代わりに雅弘が得意とするのは料理だった。だったら調理師免許でも取ればと上の兄に言われたことがあったが、雅弘は明弘とは性格が合わず、明弘に反発して全く関係ない教育学部に入ったのだった。
だけど興味のない部門だったからか、大学を退学してしまったのだ。
「あ、そうだ。また別荘に行くけどお前は?」
ツアーが終わったから、いたものように崇弘の実家の別荘に行く予定が立てられてる。
「ん~……」
少し考えて「行く」と答える。
「じゃまた輝から連絡行くだろうから、そのつもりで」
「うん」
沙樹は崇弘にそう返事を返すと崇弘に抱きついた。その沙樹を愛しそうに見る崇弘。ふたりの時間は止まったように感じていた。
◇◇◇◇◇
輝の車に乗り込んで、メンバーたちを迎えに行く。それはいつもと同じだった。だが、いつもと違うのはその車に結子と凪も乗っている。さすがに人数が多いから、もう一台は零士の車で行くことになった。
なぜ結子たちも一緒に行くことになったのかと言うと、それは数週間前に遡る。
◇◇◇◇◇
放課後。3年生の教室で話をしていると、沙樹の電話が鳴った。電話の相手は輝だった。
「お兄ちゃん?」
『沙樹。お前、まだ学校か?』
「うん」
『崇弘たちと話しててさー…』
「なに?」
『お前の友達、崇弘ん家の別荘に一緒に行かないかって』
「はい?」
『真司が言い出したんだよ。お前に友達が出来たことに驚いてるんだよ、アイツ』
「……で、しんちゃんは結子たちを見たいと言い出したってとこ?」
『そう』
「んー……」
沙樹は結子たちを見た。電話の会話からして、なにやら凄いことになってると想像つく結子と凪は、顔を見合わせていた。
「タカちゃんとこの別荘に行く……?」
沙樹はふたりにそう聞いた。その言葉にふたりは目を丸くしていた。
「貴裕先輩も柳先輩も行く?」
「俺はいいや」
「俺は部活だし」
貴裕と柳はそう答える。
「結子行ってくれば?」
柳が結子にそう言うと、「えー、いいのかなー?」と呟く。
「いいんじゃない?タカちゃん家の別荘、広いよ~」
「それって、輝さんも行くの?」
横から凪が聞いてきた。
「うん。いつもメンバー全員一緒だよ」
「……行きたい」
ポツリと凪が言う。
「凪。お前、大学決まってんだっけ?」
凪と貴裕は受験生。周りはピリピリしている。
「私?とっくに決まってるもん。貴裕もでしょ」
「まぁな」
ふたりは受験の心配はなさそうだった。
「行ってもいいの?」
沙樹を見る凪はとても可愛く見えた。
◇◇◇◇◇
輝の車に沙樹と結子と凪が乗ってる。零士の車には零士一家と真司と崇弘、そして久しぶりに休みが取れた湊が乗り込むことになっている。
輝の車の中のふたりは緊張で口数は少ない。輝とは2度会っているとはいえ、他のメンバーにも会えることがふたりにとってはもの凄いことだったのだ。
「どうしよう……」
後部座席のふたりは小声で言い合ってる。手が震えてるのをお互い見せ合うかのように話してる。
「そんなに緊張しなくていいよ」
輝はふたりに言った。
「アイツらバカばっかだからー」
可笑しそうに輝は笑う。
「お兄ちゃん」
「ん」
「れいちゃんたちは先に行ったの?」
「だと思う」
「買い出しは?」
「あっちがしていくって」
「そうなの?」
「心配いらねぇよ」
ハンドルをしっかりと握りながら輝は言う。
「あの……」
遠慮がちに凪は輝に声をかける。運転しながらも優しく「なに?」と答える。
「ほんとに私たちが行っても良かったんですか?」
「関係ないふたりなのに」
続けて結子も言った。そんなふたりに優しく笑う姿をルームミラーから見えた。
「大丈夫。みんな、沙樹の友達を見たいんだよー」
「えー」
「友達って、そんなに見たいもんですか?」
「沙樹はね。友達いなかったから。遊ぶ相手が俺らくらいだったからね。みんな心配してんのよ」
「心配してくれなくていいのに」
不貞腐れたように言う沙樹は、妹を表に出してきてる。それが凪と結子は珍しく笑ってしまう。
「なに?」
ふたりに顔を向けると、また笑う。
「だって……」
「ねぇ……?」
「え、なによ」
「輝さんの前ではほんとに妹なんだもん」
「そんな姿は学校じゃ見ないから」
「だって……」
何かを言おうとするが、言葉が続かない。何を言ってもからかわれることを分かっていたからだ。
(妹……。誰から見てもそう思ってしまうくらいになった……てことだよね?)
沙樹の中にはいつも引っ掛かっていたことがあった。愛人の子だから、兄たちからすれば自分はどんな存在なのだろうと。疎まれても仕方ない筈なのに、いつも優しくしてくれる。輝に限っては、沙樹をいつも連れ出していた。中学の時なんか、沙樹を優先するあまり、当時付き合っていた彼女とケンカもしたくらいだった。
だからこそ、いつも顔色を伺うようになっていた。それがいつの間にか、周りから見ても本当に兄妹として見られるようになるくらいの関係になっていたのだ。
テーブルに並べられたフレンチトーストと、サラダ。それを口に放り込んでいく崇弘はそう言う。
「あ、そうそう。今度、俺のマネージャーに弟が付くことになったんだ」
崇弘は3兄弟。崇弘より3つ年上の兄、明弘。崇弘より5つ年下の雅弘。兄の明弘は家業を継ぐために、父親と一緒に仕事をしている。弟の雅弘は大学を辞めてしまって、プラプラとしている。そんな雅弘を見かねた父親が、崇弘に「付き人にしてやってくれ」と告げたのだった。
「マサちゃん?」
沙樹は何度か崇弘の兄弟たちに会っている。顔は似てるようで似てない。性格も全く違う。特に雅弘は、崇弘とは全く似てない。顔も性格も似てない。
「アイツはほんと、フザけたやつなんだよ」
そう言う崇弘は、呆れながらも弟を心配している。
「オヤジはおれにマサの監視させるつもりなんだよ」
「監視?」
「色々やってきてっからなぁ、あのバカ」
「タカちゃんだってそうじゃないの」
高校生の頃、色々やっていることを知ってる。真司と一緒に他校の女の子と遊び歩いたこともある。他校のヤンチャな男子生徒とケンカになったこともあった。
雅弘もそれとあまり変わらない。性格は違うが、同じようなことをやってきてるのだ。ただ違うのは雅弘は音楽はダメ。聴くことはするが、演奏する立場となると出来ないのだ。それは小学校の時に習う鍵盤ハーモニカやリコーダーでもそうだった。代わりに雅弘が得意とするのは料理だった。だったら調理師免許でも取ればと上の兄に言われたことがあったが、雅弘は明弘とは性格が合わず、明弘に反発して全く関係ない教育学部に入ったのだった。
だけど興味のない部門だったからか、大学を退学してしまったのだ。
「あ、そうだ。また別荘に行くけどお前は?」
ツアーが終わったから、いたものように崇弘の実家の別荘に行く予定が立てられてる。
「ん~……」
少し考えて「行く」と答える。
「じゃまた輝から連絡行くだろうから、そのつもりで」
「うん」
沙樹は崇弘にそう返事を返すと崇弘に抱きついた。その沙樹を愛しそうに見る崇弘。ふたりの時間は止まったように感じていた。
◇◇◇◇◇
輝の車に乗り込んで、メンバーたちを迎えに行く。それはいつもと同じだった。だが、いつもと違うのはその車に結子と凪も乗っている。さすがに人数が多いから、もう一台は零士の車で行くことになった。
なぜ結子たちも一緒に行くことになったのかと言うと、それは数週間前に遡る。
◇◇◇◇◇
放課後。3年生の教室で話をしていると、沙樹の電話が鳴った。電話の相手は輝だった。
「お兄ちゃん?」
『沙樹。お前、まだ学校か?』
「うん」
『崇弘たちと話しててさー…』
「なに?」
『お前の友達、崇弘ん家の別荘に一緒に行かないかって』
「はい?」
『真司が言い出したんだよ。お前に友達が出来たことに驚いてるんだよ、アイツ』
「……で、しんちゃんは結子たちを見たいと言い出したってとこ?」
『そう』
「んー……」
沙樹は結子たちを見た。電話の会話からして、なにやら凄いことになってると想像つく結子と凪は、顔を見合わせていた。
「タカちゃんとこの別荘に行く……?」
沙樹はふたりにそう聞いた。その言葉にふたりは目を丸くしていた。
「貴裕先輩も柳先輩も行く?」
「俺はいいや」
「俺は部活だし」
貴裕と柳はそう答える。
「結子行ってくれば?」
柳が結子にそう言うと、「えー、いいのかなー?」と呟く。
「いいんじゃない?タカちゃん家の別荘、広いよ~」
「それって、輝さんも行くの?」
横から凪が聞いてきた。
「うん。いつもメンバー全員一緒だよ」
「……行きたい」
ポツリと凪が言う。
「凪。お前、大学決まってんだっけ?」
凪と貴裕は受験生。周りはピリピリしている。
「私?とっくに決まってるもん。貴裕もでしょ」
「まぁな」
ふたりは受験の心配はなさそうだった。
「行ってもいいの?」
沙樹を見る凪はとても可愛く見えた。
◇◇◇◇◇
輝の車に沙樹と結子と凪が乗ってる。零士の車には零士一家と真司と崇弘、そして久しぶりに休みが取れた湊が乗り込むことになっている。
輝の車の中のふたりは緊張で口数は少ない。輝とは2度会っているとはいえ、他のメンバーにも会えることがふたりにとってはもの凄いことだったのだ。
「どうしよう……」
後部座席のふたりは小声で言い合ってる。手が震えてるのをお互い見せ合うかのように話してる。
「そんなに緊張しなくていいよ」
輝はふたりに言った。
「アイツらバカばっかだからー」
可笑しそうに輝は笑う。
「お兄ちゃん」
「ん」
「れいちゃんたちは先に行ったの?」
「だと思う」
「買い出しは?」
「あっちがしていくって」
「そうなの?」
「心配いらねぇよ」
ハンドルをしっかりと握りながら輝は言う。
「あの……」
遠慮がちに凪は輝に声をかける。運転しながらも優しく「なに?」と答える。
「ほんとに私たちが行っても良かったんですか?」
「関係ないふたりなのに」
続けて結子も言った。そんなふたりに優しく笑う姿をルームミラーから見えた。
「大丈夫。みんな、沙樹の友達を見たいんだよー」
「えー」
「友達って、そんなに見たいもんですか?」
「沙樹はね。友達いなかったから。遊ぶ相手が俺らくらいだったからね。みんな心配してんのよ」
「心配してくれなくていいのに」
不貞腐れたように言う沙樹は、妹を表に出してきてる。それが凪と結子は珍しく笑ってしまう。
「なに?」
ふたりに顔を向けると、また笑う。
「だって……」
「ねぇ……?」
「え、なによ」
「輝さんの前ではほんとに妹なんだもん」
「そんな姿は学校じゃ見ないから」
「だって……」
何かを言おうとするが、言葉が続かない。何を言ってもからかわれることを分かっていたからだ。
(妹……。誰から見てもそう思ってしまうくらいになった……てことだよね?)
沙樹の中にはいつも引っ掛かっていたことがあった。愛人の子だから、兄たちからすれば自分はどんな存在なのだろうと。疎まれても仕方ない筈なのに、いつも優しくしてくれる。輝に限っては、沙樹をいつも連れ出していた。中学の時なんか、沙樹を優先するあまり、当時付き合っていた彼女とケンカもしたくらいだった。
だからこそ、いつも顔色を伺うようになっていた。それがいつの間にか、周りから見ても本当に兄妹として見られるようになるくらいの関係になっていたのだ。
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