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第2章
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「凪。それは気の迷いだよ」
凪の告白に、貴裕はバッサリと言いきった。
「ちょ……っ。貴裕っ!」
「目の前に憧れてたAKIRAがいたら、そう勘違いしてしまうに決まってるだろ」
「で……でもっ」
「だいたいな、あっちがお前を相手にしねぇーって」
凪を見下ろして言う貴裕に、凪は少し涙目になっていた。
(勘違い……)
そんな言葉に凪だけではなく、沙樹も傷付いた。TAKAとのことを知らない貴裕は、沙樹がその言葉に傷付いていることに気付かない。気付くわけがなかった。気付いたのは結子だけだった。結子はそっと沙樹の手を握った。
「結子……」
結子を見るとにっこりと笑顔が返ってきた。
(結子の笑顔を見るとなんだか安心する)
沙樹にとって結子は、隣にいることが当たり前になっていた。出会ってまだ数ヶ月だっていうのに。昔っからの友人だったかのよう。
「分かってるよ……。輝さんに相手にされないこと。それでも輝さんのことが頭から離れない……」
涙を溜めて言う凪に胸が締め付けられる。どうにかしてあげたいけど、こればっかりはどうにも出来ない。
「ねぇ、沙樹」
振り返った凪は、沙樹の手を取った。
「会いたいの、もう一度!」
懇願する凪に困惑する。だけど凪の目は真剣そのものだった。
「お兄は……、多分誰とも付き合わない」
「え……?」
「学生の時はいたらしいけど、メンバーはそれを知らないし、知ってるのは湊くんだけみたいだし……、私もその女には会ったことない。デビューしてからはそんな話も聞いたことないし、お兄ちゃんのマンション行っても女っ気ないし……。多分、私がいる限り、誰とも付き合わないと思う」
沙樹のその言葉に凪も貴裕も結子も驚いた。
「なんで、沙樹がいるから?」
「デビューする時に決めたらしいんだ。糾お兄と柊お兄と3人で決めたことがあるらしい」
「お兄さん、3人で?」
コクンと頷いた。
「まず妹がいることは言わない」
「え?」
「あ……そういえば……」
凪はファンだから、輝のプロフィールとかを知っている。そのプロフィールに家族について書かれているものがあった。そこには祖母、両親、兄二人と書いてあった。それはデビュー前に兄たちが話して決めたこと。沙樹の存在が知られれば、沙樹がまた傷付くと考えてのことだった。妹がいると公表すれば、沙樹が愛人の子だとバレるのも時間の問題だ。隠し通せるところまで隠そうという、兄3人の決断だった。どのみち、地元じゃ有名な話なんだろうけど、それをこの地元で言う人間はいない。というか、関わりたくないという人が多いのだ。だからこそ、沙樹には友達が出来なかったのだ。
「もうひとつは実家に迷惑かけない」
それはどんなことをやるにしても、誰もが言われたりするだろう。だが、高幡家にとっては商売をやってることもあり、それを言われた。それと同時に迷惑をかけるようなことがあれは 、沙樹を隠すことが不可能になってしまうこと。だからこそ、彼女も作らないのかもしれない。
「そのあたりは憶測なんだけど。本当のことは話してくれないの」
「お兄さんたち、沙樹が大事なんだねぇ」
結子がそう言うと沙樹に抱きついた。
「私も沙樹のこと凄く大事!」
「はいはい。結子、話がおかしな方向に行くから」
呆れた貴裕は沙樹から結子を引き剥がす。
「……じゃ、会うことは叶わない?」
「ん。どのみち今は無理かも」
「ツアー……」
「うん。来週には大阪でしょ。その次は福岡だっけ?」
「福岡の次は北海道で、その次は新潟。で、また東京に帰ってくるんだよね」
「うん」
「だよね……」
ファンだから、ツアーの日程もよく分かってる。今はどうやっても会えないのは分かりきっていた。
しゅんとなった凪をどうにかしてあげたい気持ちもある。だけどどうしてあげればいいのか、沙樹には分からなかった。
◇◇◇◇◇
『え?マジ?』
電話越しに聞こえる声は、驚いていた。
『輝もやるなー』
「もう、お兄ちゃんはなにもしてないでしょ」
『何もしてなくても惚れられるってどうよ?』
笑いながら言う崇弘はなんだか面白そう。
『輝にはなんか言った?』
「言ってない。凪先輩にも何も出来ない」
『沙樹』
優しい声が沙樹の名前を呼ぶ。
『何も出来なくても気に病むことはないよ』
「でも……」
『確かにその俺と同じ名前の先輩の言う通りだと思うから』
「え?」
『憧れの人と実際会えた喜びで、舞い上がってる。優しく声をかけられただけで、嬉しくなる。それが転じて恋だと感じてしまう。よくある話だろ』
崇弘の言葉に沙樹は黙る。
(それって私も一緒……?)
不安な気持ちが胸を締め付ける。
「タカちゃん……」
ポツリと名前を呼んだ。
『ん?』
「会いたい……」
せつなく言う沙樹に崇弘は困った。自分も会いたい気持ちはあるが、それは難しかった。
『悪ぃな、沙樹。ちょっとムリだ』
「ん……」
沙樹も分かっている。分かっていても言わずにはいられなかったのだ。
凪の告白に、貴裕はバッサリと言いきった。
「ちょ……っ。貴裕っ!」
「目の前に憧れてたAKIRAがいたら、そう勘違いしてしまうに決まってるだろ」
「で……でもっ」
「だいたいな、あっちがお前を相手にしねぇーって」
凪を見下ろして言う貴裕に、凪は少し涙目になっていた。
(勘違い……)
そんな言葉に凪だけではなく、沙樹も傷付いた。TAKAとのことを知らない貴裕は、沙樹がその言葉に傷付いていることに気付かない。気付くわけがなかった。気付いたのは結子だけだった。結子はそっと沙樹の手を握った。
「結子……」
結子を見るとにっこりと笑顔が返ってきた。
(結子の笑顔を見るとなんだか安心する)
沙樹にとって結子は、隣にいることが当たり前になっていた。出会ってまだ数ヶ月だっていうのに。昔っからの友人だったかのよう。
「分かってるよ……。輝さんに相手にされないこと。それでも輝さんのことが頭から離れない……」
涙を溜めて言う凪に胸が締め付けられる。どうにかしてあげたいけど、こればっかりはどうにも出来ない。
「ねぇ、沙樹」
振り返った凪は、沙樹の手を取った。
「会いたいの、もう一度!」
懇願する凪に困惑する。だけど凪の目は真剣そのものだった。
「お兄は……、多分誰とも付き合わない」
「え……?」
「学生の時はいたらしいけど、メンバーはそれを知らないし、知ってるのは湊くんだけみたいだし……、私もその女には会ったことない。デビューしてからはそんな話も聞いたことないし、お兄ちゃんのマンション行っても女っ気ないし……。多分、私がいる限り、誰とも付き合わないと思う」
沙樹のその言葉に凪も貴裕も結子も驚いた。
「なんで、沙樹がいるから?」
「デビューする時に決めたらしいんだ。糾お兄と柊お兄と3人で決めたことがあるらしい」
「お兄さん、3人で?」
コクンと頷いた。
「まず妹がいることは言わない」
「え?」
「あ……そういえば……」
凪はファンだから、輝のプロフィールとかを知っている。そのプロフィールに家族について書かれているものがあった。そこには祖母、両親、兄二人と書いてあった。それはデビュー前に兄たちが話して決めたこと。沙樹の存在が知られれば、沙樹がまた傷付くと考えてのことだった。妹がいると公表すれば、沙樹が愛人の子だとバレるのも時間の問題だ。隠し通せるところまで隠そうという、兄3人の決断だった。どのみち、地元じゃ有名な話なんだろうけど、それをこの地元で言う人間はいない。というか、関わりたくないという人が多いのだ。だからこそ、沙樹には友達が出来なかったのだ。
「もうひとつは実家に迷惑かけない」
それはどんなことをやるにしても、誰もが言われたりするだろう。だが、高幡家にとっては商売をやってることもあり、それを言われた。それと同時に迷惑をかけるようなことがあれは 、沙樹を隠すことが不可能になってしまうこと。だからこそ、彼女も作らないのかもしれない。
「そのあたりは憶測なんだけど。本当のことは話してくれないの」
「お兄さんたち、沙樹が大事なんだねぇ」
結子がそう言うと沙樹に抱きついた。
「私も沙樹のこと凄く大事!」
「はいはい。結子、話がおかしな方向に行くから」
呆れた貴裕は沙樹から結子を引き剥がす。
「……じゃ、会うことは叶わない?」
「ん。どのみち今は無理かも」
「ツアー……」
「うん。来週には大阪でしょ。その次は福岡だっけ?」
「福岡の次は北海道で、その次は新潟。で、また東京に帰ってくるんだよね」
「うん」
「だよね……」
ファンだから、ツアーの日程もよく分かってる。今はどうやっても会えないのは分かりきっていた。
しゅんとなった凪をどうにかしてあげたい気持ちもある。だけどどうしてあげればいいのか、沙樹には分からなかった。
◇◇◇◇◇
『え?マジ?』
電話越しに聞こえる声は、驚いていた。
『輝もやるなー』
「もう、お兄ちゃんはなにもしてないでしょ」
『何もしてなくても惚れられるってどうよ?』
笑いながら言う崇弘はなんだか面白そう。
『輝にはなんか言った?』
「言ってない。凪先輩にも何も出来ない」
『沙樹』
優しい声が沙樹の名前を呼ぶ。
『何も出来なくても気に病むことはないよ』
「でも……」
『確かにその俺と同じ名前の先輩の言う通りだと思うから』
「え?」
『憧れの人と実際会えた喜びで、舞い上がってる。優しく声をかけられただけで、嬉しくなる。それが転じて恋だと感じてしまう。よくある話だろ』
崇弘の言葉に沙樹は黙る。
(それって私も一緒……?)
不安な気持ちが胸を締め付ける。
「タカちゃん……」
ポツリと名前を呼んだ。
『ん?』
「会いたい……」
せつなく言う沙樹に崇弘は困った。自分も会いたい気持ちはあるが、それは難しかった。
『悪ぃな、沙樹。ちょっとムリだ』
「ん……」
沙樹も分かっている。分かっていても言わずにはいられなかったのだ。
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