42 / 64
第2章
10
しおりを挟む
『会いたかったな……』
ライブが終わった次の日。沙樹は崇弘と電話をしていた。ライブの後に会えなかったことを言う崇弘は、どことなく拗ねているようにも聞こえる。
「仕方ないじゃない。お兄が煩いんだもの」
『まぁな。輝はシスコンだもんな』
「そんなにシスコン?」
『なんだよ、沙樹は分かってないのか』
電話越しにくくくっと笑い声が聞こえる。その笑い声が、とても近くにいるような感じでくすぐったい。
「ねぇ」
『ん』
「次はどこに行くの?」
沙樹の声は寂しそうだ。
『次は大阪』
「そっか……」
沈んだような声が崇弘の胸を締め付ける。暫くは会えないのを崇弘も沙樹も分かっている。
『ツアーが終わるの、来月だからなぁ……』
「ん……」
『ツアー終わったらさ、どっか行こうか』
「え?」
『行きたいところ、考えておいて』
「タカちゃん……」
電話を切ると沙樹は胸がドキドキしていた。
(デート……ってこと?……だよね?)
ドキドキが止まらない沙樹はスマホを抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
翌週、学校へ行くとライブに行けた子と、行けなかった子で揉めてる姿があった。それは沙樹のクラスだけではなく、学校全体でだった。廊下を歩いていても「なんであんたが行けて私が行けなかったのよ!」と言い合いになってるのを目にした。
(こりゃ黙ってないとダメなパターンだ)
教室に入ると結子が近寄って来た。小声で沙樹に言う。
「みんなヤバいよ」
「ん」
「内緒にしておかないとだね」
「だね」
そう言い合うくらい、揉めているのだ。呆れてため息を吐く沙樹は、兄のことは誰にも言ってはいけないことだと痛感した。
放課後。いつものように3年生の教室に結子と行く。そこには凪と貴裕が話をしていた。
「あ。来たね」
「先輩~」
結子は凪の元へと行くと抱き着いた。
「もうっ。誰にも言えないのはツライ~」
「ライブのこと?」
「うん。本当は言いたくてしょうがないっ!」
「分かるよ。あんな凄いライブを見たら言いたくなる」
ふたりでそう盛り上がってるところをクスクスと笑う沙樹。そんな沙樹に貴裕は近寄った。
「そんなに凄いライブだったんだ?」
「うん。凄い、カッコよかった」
「凪も早くしゃべりたくてしょうがなかったんだよ」
「今日の学校の雰囲気じゃ話せないもんね」
「本当だよ。BRの名前出しただけでも揉めそうなくらいだったよ」
ふふふっと沙樹は笑う。
「でも……」
凪に視線を向けると沙樹は呟くように言う。
「あの日の帰りは大人しかったんです」
「凪?」
「はい」
「へぇ……」
あの日。結子が車を降りた後、凪は大人しくなり、一切会話をしなかった。家路までの道順を教えるだけで、得に話をしない。それが沙樹には気になった。
「そりゃファンだからな」
「昔から?」
「そ。俺と凪が知り合った頃にはもうBRの大ファンだったよ」
「そうなんだ」
結子と盛り上がる凪を見て不思議な感覚に陥っていた。
(お兄ちゃんを大好きな人とこうして仲良くしているんだよね)
ファンがいるのは嬉しいことだ。だけど、身近な人がってなるとなんとも言えない感覚になっているのだ。
「沙樹」
凪が振り返り沙樹の手を取る。
「あのね」
「ん?」
「私、輝さんが好きっ」
「うん?ファンなんでしょ」
「そうじゃない」
凪が一息つくように大きく息を吸った。
「輝さんが好き。AKIRAとしてじゃなくて、あんたのお兄さんが……、好き」
「え────────……っ!!」
ライブが終わった次の日。沙樹は崇弘と電話をしていた。ライブの後に会えなかったことを言う崇弘は、どことなく拗ねているようにも聞こえる。
「仕方ないじゃない。お兄が煩いんだもの」
『まぁな。輝はシスコンだもんな』
「そんなにシスコン?」
『なんだよ、沙樹は分かってないのか』
電話越しにくくくっと笑い声が聞こえる。その笑い声が、とても近くにいるような感じでくすぐったい。
「ねぇ」
『ん』
「次はどこに行くの?」
沙樹の声は寂しそうだ。
『次は大阪』
「そっか……」
沈んだような声が崇弘の胸を締め付ける。暫くは会えないのを崇弘も沙樹も分かっている。
『ツアーが終わるの、来月だからなぁ……』
「ん……」
『ツアー終わったらさ、どっか行こうか』
「え?」
『行きたいところ、考えておいて』
「タカちゃん……」
電話を切ると沙樹は胸がドキドキしていた。
(デート……ってこと?……だよね?)
ドキドキが止まらない沙樹はスマホを抱きしめていた。
◇◇◇◇◇
翌週、学校へ行くとライブに行けた子と、行けなかった子で揉めてる姿があった。それは沙樹のクラスだけではなく、学校全体でだった。廊下を歩いていても「なんであんたが行けて私が行けなかったのよ!」と言い合いになってるのを目にした。
(こりゃ黙ってないとダメなパターンだ)
教室に入ると結子が近寄って来た。小声で沙樹に言う。
「みんなヤバいよ」
「ん」
「内緒にしておかないとだね」
「だね」
そう言い合うくらい、揉めているのだ。呆れてため息を吐く沙樹は、兄のことは誰にも言ってはいけないことだと痛感した。
放課後。いつものように3年生の教室に結子と行く。そこには凪と貴裕が話をしていた。
「あ。来たね」
「先輩~」
結子は凪の元へと行くと抱き着いた。
「もうっ。誰にも言えないのはツライ~」
「ライブのこと?」
「うん。本当は言いたくてしょうがないっ!」
「分かるよ。あんな凄いライブを見たら言いたくなる」
ふたりでそう盛り上がってるところをクスクスと笑う沙樹。そんな沙樹に貴裕は近寄った。
「そんなに凄いライブだったんだ?」
「うん。凄い、カッコよかった」
「凪も早くしゃべりたくてしょうがなかったんだよ」
「今日の学校の雰囲気じゃ話せないもんね」
「本当だよ。BRの名前出しただけでも揉めそうなくらいだったよ」
ふふふっと沙樹は笑う。
「でも……」
凪に視線を向けると沙樹は呟くように言う。
「あの日の帰りは大人しかったんです」
「凪?」
「はい」
「へぇ……」
あの日。結子が車を降りた後、凪は大人しくなり、一切会話をしなかった。家路までの道順を教えるだけで、得に話をしない。それが沙樹には気になった。
「そりゃファンだからな」
「昔から?」
「そ。俺と凪が知り合った頃にはもうBRの大ファンだったよ」
「そうなんだ」
結子と盛り上がる凪を見て不思議な感覚に陥っていた。
(お兄ちゃんを大好きな人とこうして仲良くしているんだよね)
ファンがいるのは嬉しいことだ。だけど、身近な人がってなるとなんとも言えない感覚になっているのだ。
「沙樹」
凪が振り返り沙樹の手を取る。
「あのね」
「ん?」
「私、輝さんが好きっ」
「うん?ファンなんでしょ」
「そうじゃない」
凪が一息つくように大きく息を吸った。
「輝さんが好き。AKIRAとしてじゃなくて、あんたのお兄さんが……、好き」
「え────────……っ!!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる