上 下
39 / 64
第2章

7

しおりを挟む
 箸を置いた輝は父親を見る。
「もうすぐライブだからあまり帰ってこれないんだよ。ミュージックビデオはその為の新曲のだから」
「そうか」
「今回のは誰が作ったの?」
 横から沙樹が言う。沙樹の方を向いて輝は笑う。
「崇弘だよ、珍しいだろ?」
 崇弘は滅多に曲を作らない。ギターを弾いていればいいって感じで、メンバーが作った曲を黙々と弾いている。
「これがまたアイツに似合わないキレイな曲なんだよ」
 くくくっと可笑しそうに笑う。
「女でも出来たかな」
 その言葉にドクン……っと、心臓が跳ねた。

(お兄ちゃん、まさか知って……?)
 顔色を伺うが、読み取れない。でも可笑しく笑っているということは、その相手が沙樹だとは気付いてないらしい。この家の住人は、BRのメンバーを知ってる。それもその筈だ。よくこの家に来ていた。ここか、湊の家に集まることが多かった。理由は簡単だ。高校から近いからだった。特に高幡家は、広いから集まる機会が増える。だからこそ、メンバーもこの家の住人をよく知っている。
「崇弘くんが曲作ったの?」
 由紀子も驚いていた。そのくらい、崇弘が作曲すると驚くことなのだ。
「本当は才能あんだよ、アイツ」
 食事を終えた輝は、食器をキッチンへと持って行く。この家の人は、自分で使った食器は自分でキッチンへと持って行くことが習慣づいている。それは忙しい母の為に、自然と習慣づいたことだった。
「父さん」
 既に食べ終わっていた父親に振り向くと、「自分の食器くらい片付けろよな」と告げた。そしてそのまま玄関に向かう。
 沙樹はそんな輝にくっ付いて玄関に行くと、輝が笑って立っていた。
 ポンと、頭に手を置くと何も言わずに玄関のドアを開けた。そのまま玄関前に停めてある車に乗り込むとゆっくりと走り去っていった。



     ◇◇◇◇◇



「ほんとに来れるなんて……っ」
 ライブ当日。隣にいる凪が泣いて喜んでいる。座席はアリーナの前方。しかもど真ん中。
「しかしよくこんな場所取れたなぁ」
 ポツリと沙樹は呟く。
「ほんとだよ」
 凪は沙樹の手を取り「ありがとう」と何度も言った。そのくらい、BRが好きなのだ。


 会場が暗くなり、爆音が鳴り響く。それと同時に会場に歓声が上がる。
 沙樹はこの感覚に鳥肌が立っていた。
(ライブには何回か来たけど、やっぱり凄い)
 目の前に広がる世界が、体感する世界が、現実とは思えなかったのだ。
 隣にいる凪と結子の歓声が凄い。特に凪はファンだから、それは本当に凄かった。知り合いがここまで熱狂する姿を初めて見たからか、やっぱり兄たちは凄いんだと実感した。
「AKIRA~!」
 叫ぶ凪が、いつも見ていた凪とは違って見えた。

(あ……っ)
 ステージに立つ、崇弘と目が合った気がした。崇弘は沙樹に気付いていたのか、笑ってウィンクした。ウィンクしたTAKAを見たファンたちは、初めて見るその行動に自分に向けられたと誰もが思って騒いだ。
「TAKA~‼」
 あちこちから崇弘を呼ぶ声が響く。その声に仕方ないと分かっていても面白くない沙樹は、ステージ上の崇弘を睨んでしまう。崇弘はそれに気付いてないのか、ギター鳴らしながらステージを走り回っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

処理中です...