もう一度会いたい……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

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第1章

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「荷物全部積んだかぁ~?」
 輝がそう言う。輝と沙樹、真司と崇弘はワンボックスカーに乗り込み、零士と柚子とさくらは自分の車に乗り込む。
「じゃ零士。またな」
 窓を開けて言う面々に零士は軽く手を上げる。先に零士たちの車が走り去って行き、輝が運転する車はその後を追うように走り出す。
 来たときと同じように沙樹の隣には崇弘が座っていた。
 あの後、柚子と話すことが出来ずに車に乗り込むことになってしまった沙樹。そんな沙樹のスマホに柚子からのメッセージが入る。


《明日、学校終わったらうちにおいで》
 
 柚子のそんな気遣いにいつもながら嬉しく思った。
「沙樹」
 隣に座ってる崇弘が、沙樹の手を軽く握った。
「……っ!」
 心臓が止まるかと思った。ただ手を握られただけなのに、沙樹にとっては大きな事件だった。そんな状態の沙樹に前の席に座っている輝と真司は気付かない。崇弘は何も言わずにそのまま手を握りしめていた。



     ◇◇◇◇◇



「沙樹ー」
 学校で結子に会うとほっとする。
「結子ー。聞いてー」
 いつのまにかこうやって話をすることが出来るようになっている関係になっていることが、今更ながら不思議だ。
「ん?何々?」
 教室では他のクラスメートの視線があって言えないことに気付く沙樹。
「やっぱり昼休みに……」
「うん。分かった」
 にっこり笑う結子に安心する。このまま結子とは仲良くやっていけたらなぁと感じる程だった。


 昼休み。誰も来ない中庭の端っこ。そこがふたりの指定の場所のようになっていた。
「で?何があったのかな」
 ニコニコと笑いながらサンドイッチを頬張る結子にこそこそと打ち明ける。
「え!?ほんとに?」
 コクンと頷く沙樹の顔は真っ赤だった。
「沙樹、可愛いー」
 結子はそう言って抱きついた。結子のこういうところはもう慣れた。だけどまだ自分のことを話すのは苦手だったりする。
「やるね、タカさん」
 面白そうに笑う結子に沙樹は微かに笑い返した。
「でもほんとにどうしたらいいのか分からない」
「好きって言われたんでしょ?」
「うん」
「じゃ付き合うってことじゃん」
「そう……なのかな」
 好きとは言われたけど、その先のことが分からない。あの日。崇弘とまともに会話することなく別れて、連絡もない。こっちからどういうことなのか聞くのも……と、沙樹は思い悩んでいた。この話を柚子に出来るのか分からず、結子に先に話をしたのだった。
 その結子は「好きと言われたら付き合う」のは当たり前と感じている。だけど沙樹と崇弘の場合はちょっとそんな簡単にはいかない。昔っから知っているとは言え、その相手は有名なロックスター。なかなかそうはいかない。よく柚子と零士が付き合っていけたなと思う。
「だってさ、沙樹はもうずっと好きなんでしょ。向こうも好きって言ってくれたんでしょ。問題ないじゃん」
 結子は沙樹にそう笑った。結子の笑顔を見ていると、悩んでるのがバカらしくなる時がある。そう思えるくらい、素直な笑顔だった。



     ◇◇◇◇◇



「で、何があったの?」
 放課後。柚子の家で沙樹は柚子にニコニコと笑いながら聞かれる。結子と話したことで顔つきが変わったのを感じていたのを柚子も分かっていた。
「柚子さん……」
 どう言ったらいいのか迷いながらも、沙樹が抱え込んでいたことも崇弘にそのことを話したこともすべて柚子に話していた。
「そんなことがあったのね」
 ニコニコと柚子は笑いながら言う。
「タカさんもちゃんと沙樹ちゃんを想ってくれていたのね」
 ふふっと嬉しそうに笑う。その笑顔につられて笑った。
「でも柚子さん」
「ん?」
「私、どうすればいいの?」
「ん~……」
 少し考える仕草をした柚子は、沙樹を見てにっこりとした。
「大丈夫。タカさんなら!」
 柚子の言葉に沙樹はますますどうすればいいのか分からなくなっていた。


 柚子の「大丈夫」という言葉通り、沙樹に崇弘からメッセージが入った。

《元気?》

 たったひとこと入ったメッセージが沙樹の心をあたたかくする。

《週末、時間あいたから会いたい》

 2通目にきたメッセージに心臓がドキドキしてしまった。

《迎えに行く》

 崇弘の次から次へとくるメッセージにドキドキが止まらない。
(なんて返せば……)
 そう思っていたら、今度は電話が鳴った。
 画面には『タカちゃん』と表示される。
「え……っ」
 慌ててスマホをスライドさせる。
「もしもし……?」
『沙樹』
「タ、タカちゃん」
『電話した方が早いと思ってな』
 と崇弘の声が耳に届く。その声は身体中に浸透していくようだった。
『日曜日の10時頃、迎えに行くから』
「ん……」
『沙樹』
「ん?」
『あ……、いや。なんでもないや』
「なーに?」
『……声』
「ん?」
『お前の声が、なんかくすぐったくて』
「え」
 スマホの向こうで崇弘は黙り込んだ。今、崇弘がどんな表情をしているのかは、分からない。だけど、このちょっとした時間が沙樹には嬉しかった。
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