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第1章

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「起きたか」
 砂糖を5杯入れた珈琲を片手に、椅子に座りテレビのリモコンを持っていた崇弘は、ようやく起きた真司に言った。
「頭痛ぇ……」
「そりゃそうだろ。お前、俺には散々飲み過ぎるなって言うクセに」
 いつもは真司と崇弘の立場は逆だ。
「珈琲飲むか?」
「お前の珈琲はいらん。なんであんなに酒飲むのに、そんなに甘い珈琲飲めるんだよ」
 頭の痛みを抱えながらゆっくりと起き上がる真司にあははと笑う。

「なぁ」
 ソファーに座った状態の真司は、崇弘を見た。
「お前さ、本当に沙樹のこと」
「分かってんだよ。ダチの妹。10も年下。まだ未成年」
「だったら……」
「アイツのあの目から逃れられなくなってしまう。何度もあの目線に気付かないフリしてきた」
「だったら!今回も気付かないフリしろよ!傷付ける気かよ!気付かないフリしてた方が沙樹の為になる!」
 叫ぶ度に頭がズキズキする真司は、なんとか止めようとしていた。
 恋愛のことだったら百戦錬磨と異名か付くくらいの真司だ。それくらい、いろんな女と付き合って来た。だが、仲間の妹、年下、未成年。真司はその3つは避けていた。だからこそ、崇弘と沙樹の関係に嫌悪に近いものがあった。
「出会ったのはまだ小2だぞ!その時俺らは高校生だ!高校生が小学生に手を出すなんてあり得ないだろ!」
「真司。沙樹はもう15だ」
15だろうが!」
 困った顔をした崇弘に真司はため息を吐く。
「犯罪だぞ、ほんとに……」
 真司の言葉に何も言えない。分かっていてもそれはもう止められなかったのだ。
「輝になんて説明すんだよ……」
「言えねぇ」
「だろ?」
「だけどもう……」
「お前は本気なんだな」
「……ああ」
 椅子に座ってる崇弘は、手を組みじっとどこかを見ていた。
「はぁ……」
 真司はため息を吐いて崇弘に言う。
「傷付けんなよ。輝の一番大事な女の子だ」
「分かってる」
 そんな話をしていること。誰も知らない。
 輝には話せないふたりの話だった。



     ◇◇◇◇◇



 崇弘と会ったその日。家に送られてる間の車中。沙樹は何も話せなかった。
 崇弘のマンションでキスをされた。その意味が分からなくて頭が呆然としていた。
(負けた……って言った。それって……)
 頭の中がグルグルしている。家に着いても何がなんだか理解出来ないくらいだった。
 ただ、唇にははっきりと感触が残っている。
(あれは……夢じゃない……よね?)
 思い出すと顔が熱くなる。ひとり部屋の中にいる沙樹の心の中は、大騒ぎしていた。

「沙樹ちゃん?」
 沙樹の様子がおかしいと気付いた高幡の母親は、部屋にいる沙樹に声をかける。
「なにかあった?」
「なんでもないっ」
 慌ててそう答える沙樹だが、母親には何かあったんだとバレバレだった。だけどそのまでは分からないでいたが。

 次の日。学校に向かう沙樹の足取りは軽かった。
 何度考えてもあれは夢じゃないと思えた沙樹。いつも違う気分で登校することが出来たのだ。
「おはようっ」
 結子に会うとそうニコニコと笑う。その笑顔は初めて見るもので、結子を始めとしたクラスメートたちが驚く。
「何かあった?」
 結子は沙樹に近付きそう尋ねる。
「うふふ……。ちょっとね」
 結子にそう答えた沙樹の笑顔は、本当に恋する乙女だった。
「教えなさいよー」
 結子がそう言った時、チャイムが鳴り響き続きを聞くことが出来なかった。
 席が前後なふたり。後ろから結子が小声で「あとで話聞くからね!」と言った。



     ◇◇◇◇◇



 昼休み。中庭でふたりがお弁当を広げてる。
「で?」
 お弁当のサンドイッチを頬張る結子は沙樹を見た。
「なにがあったの?」
「あ──……」
「秘密にするの?」
 沙樹は結子を見て考える。結子のことは信用している。でも話してもいいのかと迷う。
 は沙樹のことを隠している。なのに勝手に話していいものかと。
 崇弘のことを話すと必然的に輝のこともバレてしまうだろう。
「私たち、親友でしょ」
 ニコニコと笑う笑顔に、沙樹は持っていた箸を置いた。そして回りを見渡し誰もいないことを確認した。
「誰にも話してはいけないんだけど……」
「約束する。ふたりだけの内緒話ね」
 結子はなぜか嬉しそうだった。
「本当に、内緒にしてよ?」
 念を押す沙樹に真剣な顔を返して頷いた。
 それを見た沙樹はポツリと話し始めた。
「私、好きな人がいるの」
 と。
 その好きな人は兄の仲間でBRのメンバー。その人にキスをされたこと。そして兄の名前も話した。


「──本当に?」
 目を丸くした結子は驚いて、食べていたサンドイッチを落とすところだった。
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