91 / 104
第5章
22
しおりを挟む
お腹の中の赤ちゃんは成長を止めることなく、大きくなっていく。
柚子の状態がこんななのに、どうするべきかと悩ませている両親。妊娠していることを理解してるのか、それすら分からない。
そして、相手の親にも知らせるべきかと考えている。
夕方、湊から零士が目覚めたことと、柚子の妊娠のことを本人に伝えた事を聞いた。
「あなた」
柚子が部屋に戻り、リビングで両親が話をしていた。
「柚子、どうしたらいいかしら……」
「子供のことか?」
「ええ」
「本人はなんて?」
「何も」
「そうか」
父親はそれ以上、何も言わなかった。その姿を見て母親は何も言うことはなかった。父親が何か考えてることを知っていたからだった。
ただ黙ってそこにいた。
◇◇◇◇◇
バタンとトイレから出た柚子は部屋に戻る。
零士との電話の後、吐き気がしてトイレに駆け込んでいた。それまでも何度もそういう状態になってはいた。
(……え?)
頭の中が覚醒していく。
モヤがかかったような記憶が鮮明になっていくのを感じていた。
机の上に置かれたままのエコー写真に気付いてはっとする。
「私……妊娠して………?」
口にするとそれが現実なのだと気付かされる。
「もしかしてそれを知って……?」
湊が知らない訳がない。母親は湊に話しているのだ。それを湊は零士に言わない訳がない。零士に文句を言いに行ったのだ。
エコー写真を手にしてそれをじっと見つめる。片方の手はお腹に触れていた。
「ごめんね……。こんな私で……」
気付かずにいたこと。精神的なショックで、まともではなかったこと。自分のことしか考えてなかったこと。
「私、ちゃんとするから……」
エコー写真を胸に抱き締める。
「守るから……」
涙が一筋、頬を伝った。
◇◇◇◇◇
2階の部屋からリビングへと降りて行く柚子は、リビングでお茶を飲んでいた両親に声をかけた。
「お父さん。お母さん」
その声に振り返り驚く。てっきりもう寝てしまったのかと思っていたふたり。柚子がそこに立っていたことに驚いたのだ。
「どうした?」
父親が柚子に言う。心なしか表情が違うと感じた。
「私……、この子、産みたい」
「柚子」
「頑張るから……、元の私に戻るから……、この子……」
少しずつ話す柚子に母親は近付いて抱き締める。
「簡単なことじゃないのよ?」
「うん……。それでも産みたい」
「柚子」
低い声が聞こえる。父親の声は兄と同じように低い。
その低い声が昔から好きだった。
「零士くんを連れて来なさい。まだ無理でもちゃんと」
「お父さん……?なんで、名前?」
母親を見ると母親は笑っていた。
「すべて知ってる。あなたの相手があの零士くんだってこと。湊のお友達の零士くんだって」
「知って……たの?」
「ずっとね」
「お母さん……」
涙が思わず流れる。その涙を母親は拭った。
「お母さんになるんでしょ?お母さんは簡単には泣かないわよ」
「うん……っ」
柚子は今までの胸の中にしまい込んでいた想いを、すべて吐き出すかのように母親の胸の中で泣いていた。
そんな光景を父親は黙って見ていた。
柚子の状態がこんななのに、どうするべきかと悩ませている両親。妊娠していることを理解してるのか、それすら分からない。
そして、相手の親にも知らせるべきかと考えている。
夕方、湊から零士が目覚めたことと、柚子の妊娠のことを本人に伝えた事を聞いた。
「あなた」
柚子が部屋に戻り、リビングで両親が話をしていた。
「柚子、どうしたらいいかしら……」
「子供のことか?」
「ええ」
「本人はなんて?」
「何も」
「そうか」
父親はそれ以上、何も言わなかった。その姿を見て母親は何も言うことはなかった。父親が何か考えてることを知っていたからだった。
ただ黙ってそこにいた。
◇◇◇◇◇
バタンとトイレから出た柚子は部屋に戻る。
零士との電話の後、吐き気がしてトイレに駆け込んでいた。それまでも何度もそういう状態になってはいた。
(……え?)
頭の中が覚醒していく。
モヤがかかったような記憶が鮮明になっていくのを感じていた。
机の上に置かれたままのエコー写真に気付いてはっとする。
「私……妊娠して………?」
口にするとそれが現実なのだと気付かされる。
「もしかしてそれを知って……?」
湊が知らない訳がない。母親は湊に話しているのだ。それを湊は零士に言わない訳がない。零士に文句を言いに行ったのだ。
エコー写真を手にしてそれをじっと見つめる。片方の手はお腹に触れていた。
「ごめんね……。こんな私で……」
気付かずにいたこと。精神的なショックで、まともではなかったこと。自分のことしか考えてなかったこと。
「私、ちゃんとするから……」
エコー写真を胸に抱き締める。
「守るから……」
涙が一筋、頬を伝った。
◇◇◇◇◇
2階の部屋からリビングへと降りて行く柚子は、リビングでお茶を飲んでいた両親に声をかけた。
「お父さん。お母さん」
その声に振り返り驚く。てっきりもう寝てしまったのかと思っていたふたり。柚子がそこに立っていたことに驚いたのだ。
「どうした?」
父親が柚子に言う。心なしか表情が違うと感じた。
「私……、この子、産みたい」
「柚子」
「頑張るから……、元の私に戻るから……、この子……」
少しずつ話す柚子に母親は近付いて抱き締める。
「簡単なことじゃないのよ?」
「うん……。それでも産みたい」
「柚子」
低い声が聞こえる。父親の声は兄と同じように低い。
その低い声が昔から好きだった。
「零士くんを連れて来なさい。まだ無理でもちゃんと」
「お父さん……?なんで、名前?」
母親を見ると母親は笑っていた。
「すべて知ってる。あなたの相手があの零士くんだってこと。湊のお友達の零士くんだって」
「知って……たの?」
「ずっとね」
「お母さん……」
涙が思わず流れる。その涙を母親は拭った。
「お母さんになるんでしょ?お母さんは簡単には泣かないわよ」
「うん……っ」
柚子は今までの胸の中にしまい込んでいた想いを、すべて吐き出すかのように母親の胸の中で泣いていた。
そんな光景を父親は黙って見ていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
先生、生徒に手を出した上にそんな淫らな姿を晒すなんて失格ですよ
ヘロディア
恋愛
早朝の教室に、艶やかな喘ぎ声がかすかに響く。
それは男子学生である主人公、光と若手美人女性教師のあってはならない関係が起こすものだった。
しかしある日、主人公の数少ない友達である一野はその真実に気づくことになる…
月と秘密とプールサイド
スケキヨ
恋愛
あぁ、あの指が。
昨夜、私のことを好きなように弄んだのだ――。
高校三年生のひな子と彼女を犯す男。
夜のプールサイドで繰り広げられた情事の秘密とは……?
2020.2.3 完結しました。
R18描写のある話には※をつけています。
以前、投稿していた作品に加筆・修正したものの再投稿となります。
美獣と眠る
光月海愛(コミカライズ配信中★書籍発売中
恋愛
広告代理店のオペレーターとして働く晶。22歳。
大好きなバンドのスタンディングライヴでイケオジと出会う。
まさか、新しい上司とも思わなかったし、あの人のお父さんだとも思わなかった。
あの人は――
美しいけれど、獣……のような男
ユニコーンと呼ばれた一角獣。
とても賢く、不思議な力もあったために、傲慢で獰猛な生き物として、人に恐れられていたという。
そのユニコーンが、唯一、穏やかに眠る場所があった。
それは、人間の処女の懐。
美しい獣は、清らかな場所でのみ、
幸せを感じて眠っていたのかもしれない。
僕とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】僕とシロの異世界物語。
ボクはシロ。この世界の女神に誘われてフェンリルへと転生した犬のシロ。前回、ボクはやり遂げた。ご主人様を最後まで守り抜いたんだ。「ありがとう シロ。楽しかったよ。またどこかで……」ご主人様はそう言って旅立たっていかれた。その後はあっちこっちと旅して回ったけど、人と交われば恐れられたり うまく利用されたりと、もうコリゴリだった。そんなある日、聞こえてきたんだ、懐かしい感覚だった。ああ、ドキドキが止まらない。ワクワクしてどうにかなっちゃう。ホントにご主人様なの。『――シロおいで!』うん、待ってて今いくから……
……異世界で再び出会った僕とシロ。楽しい冒険の始まりである………
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
全裸で異世界に呼び出しておいて、国外追放って、そりゃあんまりじゃないの!?
猿喰 森繁
恋愛
私の名前は、琴葉 桜(ことのは さくら)30歳。会社員。
風呂に入ろうと、全裸になったら異世界から聖女として召喚(という名の無理やり誘拐された被害者)された自分で言うのもなんだけど、可哀そうな女である。
日本に帰すことは出来ないと言われ、渋々大人しく、言うことを聞いていたら、ある日、国外追放を宣告された可哀そうな女である。
「―――サクラ・コトノハ。今日をもって、お前を国外追放とする」
その言葉には一切の迷いもなく、情けも見えなかった。
自分たちが正義なんだと、これが正しいことなのだと疑わないその顔を見て、私はムクムクと怒りがわいてきた。
ずっと抑えてきたのに。我慢してきたのに。こんな理不尽なことはない。
日本から無理やり聖女だなんだと、無理やり呼んだくせに、今度は国外追放?
ふざけるのもいい加減にしろ。
温厚で優柔不断と言われ、ノーと言えない日本人だから何をしてもいいと思っているのか。日本人をなめるな。
「私だって好き好んでこんなところに来たわけじゃないんですよ!分かりますか?無理やり私をこの世界に呼んだのは、あなたたちのほうです。それなのにおかしくないですか?どうして、その女の子の言うことだけを信じて、守って、私は無視ですか?私の言葉もまともに聞くおつもりがないのも知ってますが、あなたがたのような人間が国の未来を背負っていくなんて寒気がしますね!そんな国を守る義務もないですし、私を国外追放するなら、どうぞ勝手になさるといいです。
ええ。
被害者はこっちだっつーの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる