もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第4章

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「なぁ。どっか行かない?」
 零士のマンションでふたりでいる時にそう言われた。
「柚子とどっか行きたい」
「ん?」
 後ろから抱きついてくる零士は柚子から離れようとはしない。
「お仕事は?」
「休みもらった」
「え」
「旅行いきたい」
 零士からそんなワードが出てくるのは珍しかった。
「二人っきりでどっか行きたい」
「どうしたの」
 ぎゅっと抱きしめて甘えてくる零士が珍しい。
「まともに一緒に出掛けたことないじゃん」
「そうだけど……」
(今までそんなこと言ったことないじゃない)
 だからこそ、どうしたんだろうと思う。

「柚子」
 寝室へ行くと、一冊のパンフレットを持ってきた。
「実は前々から予約してたんだ」
 離島のパンフレット。そこには1日一組限定と書かれていた。
「え」
「こういうところだから、俺とふたりで行っても従業員が誰にも話したりしないんじゃないかと」
「でもこれ……」
 柚子が気にしたのは金額だった。その金額を見て驚愕した。

「零士さん……」
 零士の顔を見ると零士はニコッと笑った。
「金額は気にするな」
「でも……」
「夏だし。柚子とふたりでいちゃいちゃしたい」
 耳元でそんなことを言われると恥ずかしい。

「零士さん……」
「ん」
 顔を零士の方へ向けるとじっと見つめている零士の顔がそこにあった。
「行こう。一緒に。もう予約しちゃってるから、キャンセルするとキャンセル料がかかっちゃうし」
「もう。強引だなぁ」
 ちょっと不貞腐れた柚子が可愛くてスクスク笑う。
 それに対して更に不貞腐れる。


 あの事件からずっと、柚子と零士は会ってもこうして抱きしめてることが多くなった。
 柚子は明るく振る舞ってるが、心のどこかでまだ何かを抱えてることは知っていた。
 あの日、放心状態のまま零士に会いにきた柚子が、零士にしたお願い・・・はまだ実現はしていない。




     ◇◇◇◇◇



 サンサンと太陽が照らされ、ジリジリと砂浜を焦がす。
 少し早めにホテルに着いたふたりは、ホテルに荷物を預けて海にいた。ホテルのプライベートビーチだから周りには他に人はいない。
「凄ぇな」
 太陽の光が照らされて海がキラキラしている。
 本当にここは日本なのかと言いたくなるくらいの風景だった。
「泳ぎてぇな」
 呟いた。
 急いでホテルに向かうと水着に着替えてきた零士。
 子供みたいにはしゃいで遊ぶ姿を柚子は楽しそうに見ていた。
「柚子もおいでよ」
 海に浮かぶ零士は柚子にそう言う。
「えー、恥ずかしい」
 白いワンピースを来た柚子は笑ってパラソルの下に避難する。
「俺しか見てないよ」
 その言葉通り、他には誰もいない。
 柚子はホテルへ行き、持ってきていた水着を取り出した。
 その水着はブルーのビキニ。それを着るのが恥ずかしい。

(どうしよう……)
 でも零士が待ってる。そう思うと着替えないわけにはいかなかった。
 着替えてラッシュガードを上に羽織り、海へと向かう。
(恥ずかしい……)
 走ることは好きでも泳ぐことは苦手だった。だから学校の授業以外では泳ぐことはしない。
 だからこそ水着姿なんて恥ずかしくて仕方ない。

「柚子」
 着替えてきた柚子に気付いた零士は柚子の手を握る。
「可愛い」
 顔を真っ赤にした柚子がますます可愛くて仕方ない。
「おいで」
 一緒に海へと入るが、柚子は殆ど泳げない。
「私……、泳げない」
「大丈夫」
 零士は柚子をしっかり抱くように支えていた。
 どこまでも見渡してもふたりだけの空間。こんな時間は付き合ってから今までなかった。
(やっぱり零士さんといると安心する……)
 零士の腕のぬくもりを感じながら柚子はそう思っていた。
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