64 / 104
第4章
14
しおりを挟む
「なぁ。どっか行かない?」
零士のマンションでふたりでいる時にそう言われた。
「柚子とどっか行きたい」
「ん?」
後ろから抱きついてくる零士は柚子から離れようとはしない。
「お仕事は?」
「休みもらった」
「え」
「旅行いきたい」
零士からそんなワードが出てくるのは珍しかった。
「二人っきりでどっか行きたい」
「どうしたの」
ぎゅっと抱きしめて甘えてくる零士が珍しい。
「まともに一緒に出掛けたことないじゃん」
「そうだけど……」
(今までそんなこと言ったことないじゃない)
だからこそ、どうしたんだろうと思う。
「柚子」
寝室へ行くと、一冊のパンフレットを持ってきた。
「実は前々から予約してたんだ」
離島のパンフレット。そこには1日一組限定と書かれていた。
「え」
「こういうところだから、俺とふたりで行っても従業員が誰にも話したりしないんじゃないかと」
「でもこれ……」
柚子が気にしたのは金額だった。その金額を見て驚愕した。
「零士さん……」
零士の顔を見ると零士はニコッと笑った。
「金額は気にするな」
「でも……」
「夏だし。柚子とふたりでいちゃいちゃしたい」
耳元でそんなことを言われると恥ずかしい。
「零士さん……」
「ん」
顔を零士の方へ向けるとじっと見つめている零士の顔がそこにあった。
「行こう。一緒に。もう予約しちゃってるから、キャンセルするとキャンセル料がかかっちゃうし」
「もう。強引だなぁ」
ちょっと不貞腐れた柚子が可愛くてスクスク笑う。
それに対して更に不貞腐れる。
あの事件からずっと、柚子と零士は会ってもこうして抱きしめてることが多くなった。
柚子は明るく振る舞ってるが、心のどこかでまだ何かを抱えてることは知っていた。
あの日、放心状態のまま零士に会いにきた柚子が、零士にしたお願いはまだ実現はしていない。
◇◇◇◇◇
サンサンと太陽が照らされ、ジリジリと砂浜を焦がす。
少し早めにホテルに着いたふたりは、ホテルに荷物を預けて海にいた。ホテルのプライベートビーチだから周りには他に人はいない。
「凄ぇな」
太陽の光が照らされて海がキラキラしている。
本当にここは日本なのかと言いたくなるくらいの風景だった。
「泳ぎてぇな」
呟いた。
急いでホテルに向かうと水着に着替えてきた零士。
子供みたいにはしゃいで遊ぶ姿を柚子は楽しそうに見ていた。
「柚子もおいでよ」
海に浮かぶ零士は柚子にそう言う。
「えー、恥ずかしい」
白いワンピースを来た柚子は笑ってパラソルの下に避難する。
「俺しか見てないよ」
その言葉通り、他には誰もいない。
柚子はホテルへ行き、持ってきていた水着を取り出した。
その水着はブルーのビキニ。それを着るのが恥ずかしい。
(どうしよう……)
でも零士が待ってる。そう思うと着替えないわけにはいかなかった。
着替えてラッシュガードを上に羽織り、海へと向かう。
(恥ずかしい……)
走ることは好きでも泳ぐことは苦手だった。だから学校の授業以外では泳ぐことはしない。
だからこそ水着姿なんて恥ずかしくて仕方ない。
「柚子」
着替えてきた柚子に気付いた零士は柚子の手を握る。
「可愛い」
顔を真っ赤にした柚子がますます可愛くて仕方ない。
「おいで」
一緒に海へと入るが、柚子は殆ど泳げない。
「私……、泳げない」
「大丈夫」
零士は柚子をしっかり抱くように支えていた。
どこまでも見渡してもふたりだけの空間。こんな時間は付き合ってから今までなかった。
(やっぱり零士さんといると安心する……)
零士の腕のぬくもりを感じながら柚子はそう思っていた。
零士のマンションでふたりでいる時にそう言われた。
「柚子とどっか行きたい」
「ん?」
後ろから抱きついてくる零士は柚子から離れようとはしない。
「お仕事は?」
「休みもらった」
「え」
「旅行いきたい」
零士からそんなワードが出てくるのは珍しかった。
「二人っきりでどっか行きたい」
「どうしたの」
ぎゅっと抱きしめて甘えてくる零士が珍しい。
「まともに一緒に出掛けたことないじゃん」
「そうだけど……」
(今までそんなこと言ったことないじゃない)
だからこそ、どうしたんだろうと思う。
「柚子」
寝室へ行くと、一冊のパンフレットを持ってきた。
「実は前々から予約してたんだ」
離島のパンフレット。そこには1日一組限定と書かれていた。
「え」
「こういうところだから、俺とふたりで行っても従業員が誰にも話したりしないんじゃないかと」
「でもこれ……」
柚子が気にしたのは金額だった。その金額を見て驚愕した。
「零士さん……」
零士の顔を見ると零士はニコッと笑った。
「金額は気にするな」
「でも……」
「夏だし。柚子とふたりでいちゃいちゃしたい」
耳元でそんなことを言われると恥ずかしい。
「零士さん……」
「ん」
顔を零士の方へ向けるとじっと見つめている零士の顔がそこにあった。
「行こう。一緒に。もう予約しちゃってるから、キャンセルするとキャンセル料がかかっちゃうし」
「もう。強引だなぁ」
ちょっと不貞腐れた柚子が可愛くてスクスク笑う。
それに対して更に不貞腐れる。
あの事件からずっと、柚子と零士は会ってもこうして抱きしめてることが多くなった。
柚子は明るく振る舞ってるが、心のどこかでまだ何かを抱えてることは知っていた。
あの日、放心状態のまま零士に会いにきた柚子が、零士にしたお願いはまだ実現はしていない。
◇◇◇◇◇
サンサンと太陽が照らされ、ジリジリと砂浜を焦がす。
少し早めにホテルに着いたふたりは、ホテルに荷物を預けて海にいた。ホテルのプライベートビーチだから周りには他に人はいない。
「凄ぇな」
太陽の光が照らされて海がキラキラしている。
本当にここは日本なのかと言いたくなるくらいの風景だった。
「泳ぎてぇな」
呟いた。
急いでホテルに向かうと水着に着替えてきた零士。
子供みたいにはしゃいで遊ぶ姿を柚子は楽しそうに見ていた。
「柚子もおいでよ」
海に浮かぶ零士は柚子にそう言う。
「えー、恥ずかしい」
白いワンピースを来た柚子は笑ってパラソルの下に避難する。
「俺しか見てないよ」
その言葉通り、他には誰もいない。
柚子はホテルへ行き、持ってきていた水着を取り出した。
その水着はブルーのビキニ。それを着るのが恥ずかしい。
(どうしよう……)
でも零士が待ってる。そう思うと着替えないわけにはいかなかった。
着替えてラッシュガードを上に羽織り、海へと向かう。
(恥ずかしい……)
走ることは好きでも泳ぐことは苦手だった。だから学校の授業以外では泳ぐことはしない。
だからこそ水着姿なんて恥ずかしくて仕方ない。
「柚子」
着替えてきた柚子に気付いた零士は柚子の手を握る。
「可愛い」
顔を真っ赤にした柚子がますます可愛くて仕方ない。
「おいで」
一緒に海へと入るが、柚子は殆ど泳げない。
「私……、泳げない」
「大丈夫」
零士は柚子をしっかり抱くように支えていた。
どこまでも見渡してもふたりだけの空間。こんな時間は付き合ってから今までなかった。
(やっぱり零士さんといると安心する……)
零士の腕のぬくもりを感じながら柚子はそう思っていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
社内恋愛~○と□~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
一年越しの片想いが実り、俺は彼女と付き合い始めたのだけれど。
彼女はなぜか、付き合っていることを秘密にしたがる。
別に社内恋愛は禁止じゃないし、話していいと思うんだが。
それに最近、可愛くなった彼女を狙っている奴もいて苛つく。
そんな中、迎えた慰安旅行で……。
『○と□~丸課長と四角い私~』蔵田課長目線の続編!
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる