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番外編
秘めた想い
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俺がその女の子の存在を知ったのは高校に入ってすぐのことだった。一番仲がいい湊の家によく遊びに行っていた。
湊の家で課題やったりもしたけど、一番の目的はバンドの曲作り。
湊は高校卒業したらバンドを辞めることになっていたが、それまでは大切なメンバー。
だけど実は湊とは最悪な出会いだった。
入学式の時に後ろ前の席だった。「愛川」と「大槻」だからな。
目の前に湊が座るのがなんか嫌だった。
というのも湊が目立ちすぎ。いるだけで目立っていた。それが癪に触る。
で、やっちまった。
「お前、いるだけてうぜぇ……」
と、俺からインネンつけて殴ったのが始まり。
その時の俺はナメられたらダメだと、無理やりそういうキャラを作ってたと思う。
そのまま俺と湊は殴り合いになって入学早々、停学を食らった。
入学式の後、幼馴染みの優樹菜がうちに来て「バカ」を連発してくれた。
停学明けて湊と顔を合わせた時、なんだか可笑しくなってしまってお互いに笑い出した。
クラスメートたちはなんだ?と不思議だったと思う。
本人達でさえ、不思議なんだから仕方ない。
それから湊とは常に一緒にツルんでた。何をするにも一緒にいた。
俺と湊が音楽をやり出したのは1年の夏休みだった。
夏休みにバイトして金貯めてギターを買った。そのうち輝と崇弘が入り、最後に真司が入った。
ずっとこの5人でやっていくのだと思っていた。
主に曲を作るのは俺と湊だった。
だからなのか、自然と湊の家に集まることが多かった。
学校が終わってそのまま湊の家に行く。
湊の家の湊の部屋に5人。ギャーギャー騒ぎながら俺と湊が作った曲に対してあーだこーだ言ってる。
それが18時くらいまで続き、帰宅するのが日課のようになっていた。
その日。湊の家を出た俺たちは、前からセーラー服姿の女の子が歩いてるのを見た。
その女の子はスラッとしていて、ショートカットの髪がとても似合っていた。
何度かすれ違ってるその女の子が俺の中で大きくなっていた頃だった。
(可愛い……)
俺はその女の子に釘付けになっていた。
すれ違った瞬間、ふわっとした香りがした。
ガチャッ!
「ただいまー!」
後ろでドアを開ける音と、元気な声がした。
そっと振り返るとと湊の家にさっきの女の子が入っていくのが見えた。
「零士!」
輝が声をかける。
「何してんだ。行くぞ」
「ああ」
呼ばれた俺は輝たちと歩いて行った。
◇◇◇◇◇
「お前、妹いんのか?」
今日も湊の家に来ていた。輝と真司と崇弘は、補習でまだ学校だった。
「いるよ。今、中3。なんで?」
「この前、家の前ですれ違った子がここに入って行ったから」
湊の部屋にある漫画雑誌を捲りながら言った。
「そっか」
湊からはそれ以上何も聞けなかった。
でもそっか。
中3。
3つ下かぁ。
その差が何気にショックだった。
まさか、まだ中学生とは思わなかったから。
それから何度か湊の妹とすれ違った。その度に声をかけようか迷っていた。
だけど、知らないやつから声かけられたら怖いだろうと思い、そのまま俺は高校を卒業した。
そしてかねてから声がかかっていた、デビューに向けて動き出していた。
その為、あの女の子のことを考える余裕もなく忙しく過ごしていた。
思い出したのはあの日のライブだった。ライブ後、打ち上げを抜け出して行った時に彼女に出会ったんだ。
走ってる彼女にわざとぶつかり、彼女を湊がいる場所まで連れていき、後で湊に会わせろと言った。
彼女と会った日に湊のスマホから彼女の連絡先を抜き取ったのはちょっとルール違反だったかもしれない。
それでもまた会いたかった。
ずっと忘れられずにいたから。
◇◇◇◇◇
そんな彼女が今、俺の隣にいる。
俺のベッドで眠る彼女の髪に触れる。
あの頃はショートヘアーだったが、今は腰あたりまである。
「柚子」
眠る彼女を抱き寄せる。
このぬくもりを、俺はもう手放せない。
髪を撫で、眠る柚子にキスをした。
離せない。
この手を。
離せない。
このぬくもりを。
柚子のすべてを離せない──……
【秘めた想い】 END
湊の家で課題やったりもしたけど、一番の目的はバンドの曲作り。
湊は高校卒業したらバンドを辞めることになっていたが、それまでは大切なメンバー。
だけど実は湊とは最悪な出会いだった。
入学式の時に後ろ前の席だった。「愛川」と「大槻」だからな。
目の前に湊が座るのがなんか嫌だった。
というのも湊が目立ちすぎ。いるだけで目立っていた。それが癪に触る。
で、やっちまった。
「お前、いるだけてうぜぇ……」
と、俺からインネンつけて殴ったのが始まり。
その時の俺はナメられたらダメだと、無理やりそういうキャラを作ってたと思う。
そのまま俺と湊は殴り合いになって入学早々、停学を食らった。
入学式の後、幼馴染みの優樹菜がうちに来て「バカ」を連発してくれた。
停学明けて湊と顔を合わせた時、なんだか可笑しくなってしまってお互いに笑い出した。
クラスメートたちはなんだ?と不思議だったと思う。
本人達でさえ、不思議なんだから仕方ない。
それから湊とは常に一緒にツルんでた。何をするにも一緒にいた。
俺と湊が音楽をやり出したのは1年の夏休みだった。
夏休みにバイトして金貯めてギターを買った。そのうち輝と崇弘が入り、最後に真司が入った。
ずっとこの5人でやっていくのだと思っていた。
主に曲を作るのは俺と湊だった。
だからなのか、自然と湊の家に集まることが多かった。
学校が終わってそのまま湊の家に行く。
湊の家の湊の部屋に5人。ギャーギャー騒ぎながら俺と湊が作った曲に対してあーだこーだ言ってる。
それが18時くらいまで続き、帰宅するのが日課のようになっていた。
その日。湊の家を出た俺たちは、前からセーラー服姿の女の子が歩いてるのを見た。
その女の子はスラッとしていて、ショートカットの髪がとても似合っていた。
何度かすれ違ってるその女の子が俺の中で大きくなっていた頃だった。
(可愛い……)
俺はその女の子に釘付けになっていた。
すれ違った瞬間、ふわっとした香りがした。
ガチャッ!
「ただいまー!」
後ろでドアを開ける音と、元気な声がした。
そっと振り返るとと湊の家にさっきの女の子が入っていくのが見えた。
「零士!」
輝が声をかける。
「何してんだ。行くぞ」
「ああ」
呼ばれた俺は輝たちと歩いて行った。
◇◇◇◇◇
「お前、妹いんのか?」
今日も湊の家に来ていた。輝と真司と崇弘は、補習でまだ学校だった。
「いるよ。今、中3。なんで?」
「この前、家の前ですれ違った子がここに入って行ったから」
湊の部屋にある漫画雑誌を捲りながら言った。
「そっか」
湊からはそれ以上何も聞けなかった。
でもそっか。
中3。
3つ下かぁ。
その差が何気にショックだった。
まさか、まだ中学生とは思わなかったから。
それから何度か湊の妹とすれ違った。その度に声をかけようか迷っていた。
だけど、知らないやつから声かけられたら怖いだろうと思い、そのまま俺は高校を卒業した。
そしてかねてから声がかかっていた、デビューに向けて動き出していた。
その為、あの女の子のことを考える余裕もなく忙しく過ごしていた。
思い出したのはあの日のライブだった。ライブ後、打ち上げを抜け出して行った時に彼女に出会ったんだ。
走ってる彼女にわざとぶつかり、彼女を湊がいる場所まで連れていき、後で湊に会わせろと言った。
彼女と会った日に湊のスマホから彼女の連絡先を抜き取ったのはちょっとルール違反だったかもしれない。
それでもまた会いたかった。
ずっと忘れられずにいたから。
◇◇◇◇◇
そんな彼女が今、俺の隣にいる。
俺のベッドで眠る彼女の髪に触れる。
あの頃はショートヘアーだったが、今は腰あたりまである。
「柚子」
眠る彼女を抱き寄せる。
このぬくもりを、俺はもう手放せない。
髪を撫で、眠る柚子にキスをした。
離せない。
この手を。
離せない。
このぬくもりを。
柚子のすべてを離せない──……
【秘めた想い】 END
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