もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第3章

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 今回のBRのライブも凄かった。目の前にいるメンバーが格好良くて、夢の中にいるみたい。会場にいるみんながそう思っていたに違いない。
 柚子たちはアリーナの前方の席だった。しかも中央側。その為か、ステージ全体をいい場所で見ることが出来た。
 そのステージの真ん中でギター鳴らして歌ってるREIJIが柚子に気付かない訳がない。よく柚子の方を見ていた……気がする。少なくとも柚子にはそう見えた。
 そして他のメンバーも気付いていたように思う。


(絶対、気付いてるよね)
 ステージを見つめながらそう感じていた柚子は、周りにバレないかヒヤヒヤしていた。だけど、周りは自分を見てると思ってるのだからバレることはなかった。
(かっこいい……)
 ステージ上にいるREIJIが本当に輝いていて、誰よりも格好いいと思った。


「ゆーずっ!」
 隣にいる芽依が叫んだ。
「かっこいいねぇー」
「うんっ!」
 煌太も夢中でBRの名前を叫んでる。
 この時間が長く続きますように。
 誰もが願っていたことだった。


──……本日の公演は終了しました。お足もとに気を付けてお帰り下さい……──

 
 アンコールも終了し、全ての公演が終わった。終了のアナウンスが寂しさを募らせる。
 ぞろぞろと会場を去る人たち。柚子たち、3人も荷物を持って人の流れに沿って歩いて行く。
「柚子ー!」
 芽依はしっかりと柚子の手を握っていた。
 煌太はその後ろにピタッとくっつくように歩いてる。
「はぁ……っ!やっと出られた!」
 芽依の声に思わず笑う。
「ありがと。今度は離れないように手を繋いでくれたのね」
「まぁね」
 えへっと笑った芽依は駅の方へと歩いて行く。
 その途中で柚子に言った。
「彼氏んとこ、行けば?」
「え」
「そのワンピース、似合ってるから。見せに行っておいでよー」
「でも……」
「なかなか会えないんだろ?だったら行けば」
 煌太もそう言う。
「芽依は俺が連れて帰る」
「煌太……」
「てか、二人も面倒見きれん」
 その言葉に芽依が怒ってみせる。
「どういうイミよ!」
「そういうイミだよ」
 ふたりのいつものやり取りが始まって、煌太は柚子に行けよという仕草をする。

「ありがとう!」
 駅に向かっていた柚子は逆の方向へと向かう。そしてスマホを取り出して番号を押した。
 でもスマホには気付いてないのか、虚しく呼び鈴が鳴ってるだけ。
(直接、マンションに行く?)
 でも打ち上げにいくかもしれない。そしたらすれ違いだ。人混みを避けながら歩いている柚子のスマホに着信音が鳴った。
 立ち止まりスマホの画面に映し出された表示の「零」に顔が緩む。
「もしもし」
『どうした?』
「……会いたい」
『友達は?』
「帰った」
『お前は?』
「友達が……、行っておいでって」
 暫く沈黙が続いた。
『……ちょっと、打ち上げあるからマンションで待ってて』
「うん……っ」
『あと、湊に電話しとけ。親にも』
「うん」
 電話を切ると、湊と家に電話をかけた。
 湊には湊のアパートに泊まることにしてと。家には湊のところに泊まると。
 湊は呆れていてため息を吐く。母親はきっと気付いてるけど、分かったと言われた。
 電話を終えた柚子はそのまま、零士のマンションまで急いだ。



     ◇◇◇◇◇



 差し込んだ鍵を回すと、ガチャという金属音が響く。ゆっくりとドアノブを回してドアを開けて中に入る。
 貰った鍵で初めて開けて入る、何てことのない動作なのに、心臓がバグバグいってる。
 バタンと、ドアを閉めて鍵をかける。このひとつひとつの動作が、信じられないことだらけだ。
 廊下の電気を付けてリビングに入り、リビングの電気を付ける。部屋の中は外と変わらないくらいの熱気で充満していた。
 慌てて出たのか、ローテーブルにはコーヒーカップが、置かれたままだった。
「ふふっ」
 自分の荷物をソファーの横に置いて、スマホはローテーブルに置いた。そして置かれたままのコーヒーカップをキッキンの方へ持って行った。
 ここにはまだ数回しか来てない。だからなのか、ひとりでいると落ち着かない。
(広いマンション……)
 リビングを見渡す。ここは何畳くらいあるんだろうというくらいに広い。少なくとも柚子の部屋よりは確実に広い。
 だからといって、このマンションはオートロックではなかった。
(零士のような人はオートロックの方がいいんじゃ……)
 このマンションはオートロックマンションではない、普通のマンション。だけど、普通のマンションよりも広いマンション。ひとりで暮らすには広い。
 そんなマンションに零士はひとりで暮らしている。
 
 ソファーに座ると誰もいない静かな空間に落ち着かない。やっぱり、零士のマンションは広すぎて柚子には落ち着いていられないのだ。
 家具などもとても高そうなものばかり。だから余計に落ち着かない。
 落ち着かなくてソファーに置いてあったクッションを思わず抱きしめて小さくなっていた。そしてそのまま、眠ってしまっていた──……。
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